第28輪 感 情 発 露
「キリヤ!」
「……………………」
何も、聞こえない。私はつぶっていた目を少しずつ開く。
「あ…………」
見ると、クリスティーナの剣はキリヤの首元で止まっていた。
キリヤは、微動だにしていなかった。
「…………どうして」
クリスティーナは剣を動かさずにキリヤを見据える。
「…………どうして避けなかったのよ?」
クリスティーナの言葉に、キリヤはにっと笑う。
「お前がここで逆上して俺を切るような人間なら、俺の選択が間違っていた。それだけの話だ。…………まあ、ゲームと違ってセーブができないから、内心かなりひやひやしたがな」
「…………はあ」
クリスティーナはため息をついて大剣を地面に突き立てる。
「言ってることはよく分からないけど、少なくともあんたは悪い奴じゃなくて、すごい奴か、やばい奴かのどっちかだってことは分かったわ」
「…………ふへー、びっくりしたー…………」
ミーニャは気が抜けて尻もちをついて地面に倒れる。
「まったくよ! 下手すりゃ一生モノのトラウマよ!」
「それはすまなかったな、ミーニャ、リミア」
「ま、結果なんともなってないから別にいいけど…………」
少し表情を和らげたキリヤは、視線を私たちからクリスティーナに移す。
クリスティーナはそれに気づいて、目を逸らしながら小さな声を出す。
「…………あんたの、言う通りよ。あたしは怖いの。挫折する怖さ、失敗する怖さに、『仕方ない』って思えるような境遇のせいにして、向き合わないようにしてた」
「……………………」
「あたしが小さかった頃、あたしは間違いなくアイドルで、あたしも、あたしを見てくれるみんなもキラキラしてて…………だから、あたしはこのキラキラを、『アイドル』になって見続けていたかった」
クリスティーナは過去を思い出すように表情を和らげる。
「でも、そのキラキラは年を経るごとに無くなっていった。そこであたしは理解したんだ、あたしがちやほやされてたのは、あたしが子どもだったから、ただそれだけだったんだ、って…………」
クリスティーナは剣の
「口ではアイドルになりたいなんて言いながら、あたしはあたしの夢にまったく向き合ってなかった。勝手に剣士にされて、アイドルになれなくなったときもそう。あたしは口ではパパに反発しながら、心のどこかでほっとしてた」
涙がかった声が、クリスティーナの喉から聞こえてくる。
「…………パパは嫌いだけど、ずっと『ギルドの成長』っていうひとつのことに向き合い続けてる。そういう意味では、あたしはあんな、あたしを娘として見てくれなかった父親にすら生き方で負けてるんだ。こんなあたしじゃ、もうあのキラキラを見ることなんか…………」
「そんなことないよ!」
「…………え?」
ミーニャは真剣な眼差しでクリスティーナを見つめる。
「そんなことない! だって、クリスティーナは、まだ歌って、踊って、ファンを待ってるんだもん! あきらめなければ、きっと夢は叶うよ!」
「…………なんで、そんな知ったように…………」
クリスティーナは目を伏せる。
「言ってやれ、ミーニャ」
キリヤの言葉に、ミーニャはこくり、と頷く。
「私はね、魔法が使えない魔法使いなんだ」
「…………どういうこと?」
ミーニャは杖をビシッとクリスティーナに向けて突き出す。
「私のお母さんは大魔法使い・レーニャ。お母さんに近づくように、私も魔法使いになったんだけど、私はぜんぜん魔法が使えなくてね…………ずっとそれを周りのみんなに悟られないようにしてたんだ」
ミーニャは今度は杖を空に掲げてクリスティーナに目線を向ける。
「でも、みんなほんとは私が魔法なんて使えないことを知ってて、それでも私に優しくて…………。キリヤとリミアもそう。魔法の使えない私を喜んでパーティに入れてくれたんだ。私を私のまま、受け止めてくれた」
「だから、クリスティーナもきっと、自分をありのまま受け止めてくれる人がいるって分かれば、目標に向かってまっすぐ進めるよ!」
「…………!」
ミーニャの言葉を聞いたクリスティーナの目からは、一筋の光がこぼれていた。
「それでね、その、ね…………」
ミーニャは少し照れてもじもじし始める。
「クリスティーナにとって、私がそういう人になれたらなあって、思うんだけど…………どう、かな?」
ミーニャはクリスティーナに手を差し伸べる。
クリスティーナは、その手を右手、そして左手で握りしめる。
「…………ありがとう…………ありがとうっ!」
涙が止まらないクリスティーナにミーニャは満面の笑顔を向ける。
私とキリヤは、目を合わせて微笑み合った。
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