第27輪 偶 像 対 面

「聞こえてきたよ! 今日も昨日の場所で歌ってるみたい!」


 私たちは、昨日クリスティーナがいた場所に狙いをつけてやって来た。


 それはどうやら当たりだったらしい。


「ミーニャの耳が良くて助かるわ…………そもそもミーニャが昨日クリスティーナの歌声を聞いてなかったら、今みたいなことにはなってなかったのよね…………」


「えへへ。クリスティーナにも、『出会えてよかった』って思ってもらえたらいいな…………」


「ああ。そのためにも、きちんと彼女と向き合わなくてはな」


 近づくにつれて、クリスティーナの声が聞こえてくる。


「いえーい! みんな今日も盛り上がってるー!? 今日も今日とてあたしのために来てくれてありがとー! あたしの新曲『エブリバディ、カチューシャ』! どうだった!? …………え? 今日も最高だったって? ありがとー! みんな大好き!」


「…………私たちに対する塩対応が嘘のように生き生きしてるわね…………」


「生き生き、か。それはどうだろうな?」


「え、どういうこと? あ、ちょっと待ってキリヤ!」


 キリヤはずんずんとクリスティーナの方へ進んでいく。


「……………………」


 私に構わず、キリヤは茂みをかき分けてクリスティーナに近づいていく。


「え、この音! まさか、今日こそほんとにあたしのファンが!? …………って、またあんたたちか…………あれで、最後にしてって言ったわよね?」


 クリスティーナは私たちを見た瞬間、睨みつけてくる。


「ファンではないが、俺たちとしてもお前をどうしても仲間にする理由ができてな…………クリスティーナ」


 キリヤが名前を呼んだ途端、クリスティーナの血相が変わる。


「どうしてあたしの名前を…………。いや、だいたい察しがつくわ。パパの仕業ね」


「ああ。俺たちはお前の父親からお前のことをいろいろ聞かせてもらった。名前のことも、アイドルになれない理由も、な」


「…………だったらあたしがあんたたちのパーティに入るわけないってわかるでしょ? …………! もしかして、『どうしても仲間にする理由』って、あたしを連れてくのと引き換えにタダで好きな情報を与えるとか、そういうこと? だとしたら最低だわ、あんたたち」


「ち、ちがうよ! 私たちは…………!」


 必死に否定しようとするミーニャを、キリヤが制する。


「クリスティーナ…………お前、本当はアイドルになるのが怖いんじゃないのか?」


「! 何言ってんのよ、あんた…………!」


 クリスティーナは怒りの形相でキリヤを睨みつける。


「…………キリヤ?」


 ミーニャは心配そうな顔でキリヤの方に目を向ける。


「少し考えれば分かるはずだ。魔王を倒せばアイドルにジョブチェンジできる…………それならポテンシャルの高い自らを鍛えて、強い仲間を作って、魔王に挑めばいい」


「……………………」


 クリスティーナはキリヤを睨んだまま動かない。


「…………戦うのが嫌で、ジョブは剣士でも、形だけでもアイドルになろうとするならそれも理解はできる。人前で歌ったり踊ったりしてファンを作ればいい」


「……………………」


「だが、今のお前はどちらもしていない。自ら積極的に魔物を倒そうとせず、人前でパフォーマンスをすることもしない。…………ただ毎日こんな人の寄り付かないような場所で歌って、踊って、そうして日々を重ねている」


「……………………」


「お前は怖いんだろう? アイドルとして人に認められないことが。アイドルとして挫折することが。だから、『アイドルになれない』という状況に甘んじて、前に進めないでいる」


「…………あんたに」


 クリスティーナは殺気を放ってキリヤを睨みつける。


「あんたに、何が分かるのよ!」


 クリスティーナは背中に背負っていた大剣を抜き、キリヤに切りかかる。


「キリヤ!」


 ミーニャは止めに入るけど、きっと間に合わない。


 私は思わず、目をつぶっってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る