第26輪 不 望 剣 士
「そう。そんで、クリスティーナに今度はどう稼いでもらうかって考えてたところに、まさに渡りに船。王国から手紙が来たんだよ。お宅の娘さんを魔王軍と戦う剣士にしませんか、ってな?」
オーナーはパチン! と指を鳴らす。
「王国民は年一回、王国主催の健康診断を受けるだろ? それで何やら、クリスティーナが剣士として高いポテンシャルを持ってるってんでな。王国直々の依頼だ。金も弾むし、もし万が一でもあいつが魔王討伐でもすりゃ、ギルドは一生安泰だろ。だから即答でOKを出したかったんだが、あいつが駄々をこねてな?」
「…………むむむむむ…………」
頑張って耐えてるけど、ミーニャの声が漏れてきてる…………。がんばれミーニャ……!
「『アイドルになりたいから絶対いやよ!』ときた。聞いた時は思わず笑っちまったが、あいつはバカだから本気だったんだなあ。子どもの時にちょっと歌って踊って周りからちやほやされただけでこれだ。だから言ってやったよ。『お前がアイドルになったところでギルドには貢献できない。大人しく剣士になっとけ』ってな」
「んー……! んー……!」
「我慢してミーニャ!」
今にも爆発しそうなミーニャを全力で抑える。
「……ま、それでも結局あいつは聞かなかったから、俺が王国にクリスティーナを剣士にするよう言って登録したんだけどな。王国も魔王軍討伐のためには協力的で、きっちりかっちり、あいつは剣士として、魔王が討伐されるまではジョブチェンジができなくなったわけだが」
「! ……リミア、そんなことがありえるのか?」
「……うん、一応ね。ポテンシャルの高い冒険者のジョブチェンジの自由を制限する代わりに、王国が一定の資金や物資の援助を与えて魔王軍討伐に従事させる。王国も最近は必死なのよ…………まあ、あの子の自由と引き換えの資金がどこに入ってるのかは知らないけど」
私はオーナーを睨みつける。
「おいおい、あいつはここで生活してるんだ。独り立ちの歳なら家賃を納めるのは当たり前だろ? だが、親への恩返しとしちゃあまだ足りねえ、そこで…………」
「たまたま娘と知り合いらしき勇者のパーティが現れたから、このパーティに入って、上手く魔王討伐といけばさらに儲けもの、というわけか」
「そういうことだ、話がわかるな兄ちゃん!」
「…………理解と納得は別物だ。いくぞ二人とも」
キリヤは立ち上がる。
「…………交渉は決裂かい? それとも…………」
「……………………」
「まあ、どのみちあいつは剣士として生きていくしかないんだ。だったら君たちにとっても悪い話じゃないと思うけどなあ…………期待して待ってるぜ」
「べーだ!」
キリヤの代わりにミーニャがあっかんべーで返して私たちはギルドを後にする。
***
「…………キリヤ、今の話を聞いて、これからどうするつもり? 私たちがあの子をパーティに誘うことは、あの子の意志には反することになるけど…………」
「いや、クリスティーナは俺たちのパーティに入ってもらう。それが一番彼女にとっても最善の選択だからな」
「?」
「魔王が討伐されるまではジョブチェンジできない。ということは、逆に言えば…………」
「…………あ、そっか! 魔王を倒せばジョブチェンジできる! つまりクリスティーナはアイドルになれるんだ!」
「じゃあ、とにかくあの子を仲間になってくれるよう説得すればいいんだね!」
「簡単じゃないでしょうけど、やるしかないわね」
「ああ。さっそく今から会いに行ってさっさと新メンバーをゲットして、チャクラムを愛でる時間を確保するぞ!」
「…………あーあ、せっかく今までいい感じだったのに…………」
こうして決意を固めた私たちはクリスティーナの元へ向かうのだった。
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