第25輪 父 娘 物 語
「オーナーがお父さん!?」
「つまり、オ父さんってことだね!」
「……………………」
ミーニャの一言で場が一瞬フリーズする。
「…………で、あんたが情報屋を連れず戻ってきたのには何か理由があるのか?」
キリヤはオーナーが一人で戻ってきたことに気がつく。
「まあな。兄ちゃん、勇者だろ? なら情報料をもらわずに、かつ俺がこの手で君たちが望む情報を手に入れてきてやるよ。その代わり…………」
「その代わり?」
「クリスティーナを君たちのパーティに入れてやってくれ」
「…………? どういうこと? 入れてやってくれって言っても、あの子が私たちの誘いを断ってるのよ?」
「だから、それを説得して連れてってくれってことだ」
オーナーはニヤッと笑う。
「…………なるほど。どうやら父と娘の間で意見が対立しているらしいな」
「でも、これはチャンスじゃない!? あの子を説得して仲間にしたら、戦力大幅アップでさらにタダで知りたい情報を教えてくれるっていうんだから……!」
「うーん、でもあの子、簡単に説得に応じてくれる感じじゃなかったよ?」
「やるだけやってみましょうよ! ね、キリヤ?」
「…………とりあえず、話を聞こうか」
「…………オーケー。奥で話そう」
***
私たちはギルドの奥の個室でオーナーと向かい合って座っていた。
「そんで君たち、クリスティーナとはどこで?」
「えっとね、昨日、ここに来る途中で会ったの。あの子が歌ってて、魔物の気配を感じたから私たちが助けようと思ったら、キュイーン、ドカーン! って倒しちゃって。すごかったよ!」
ミーニャは杖をブンブン振り回す。
「ドカーンなんて場面は無かったと思うが…………」
「なるほど、歌、ね…………。やっぱりまだあいつはアイドルを諦めてないのか…………。それで、魔物をぶっ倒したクリスティーナの強さを見込んで、パーティに誘ったってわけだな」
「……ええ。そういうことになるわ。まあ、昨日も今日も取り付く島もなく断られちゃったけどね…………。そういえば、ちょっと気になってたことがあるんだけど…………」
「なんだいお嬢ちゃん」
「その、父親に向かって失礼かもしれないけど、『クリスティーナ』って名前、あの子の容姿に合ってないっていうか…………」
「クリスティーナ」と聞くと、金髪で髪が長く、背の高いモデル体型の女性を想像してしまうけど、あの子の髪は黒に近い茶髪で素朴な感じで、スタイルも人並みに見えた…………まあ、鎧着てるからちゃんとはわからないけど、とにかく身長は、特に高いわけじゃない私より低かった。
私の言葉に、オーナーはふっ、と笑う。
「ああ、そのことなら、わざとだよ。『クリスティーナ』って名前の看板娘がいるって聞いたら、一度はこのギルドに来てみたくもなるだろ?」
「な……! じゃあつまり、客寄せのために娘の名前を決めたってこと? なんて父親なの!?」
「まあ、そう怖い顔すんな嬢ちゃん。あいつが子どもの頃は、『クリスティーナ』目当てで来た客もなんだかんだいってかわいがってて良かったんだがな…………大きくなるにつれて、店に入ってあいつを確認するや否や帰っちまう客も増えてきてな。けっこう困ってたんだよ…………それでな…………」
「あんたね……」
「悲しいよ」
「…………ミーニャ?」
オーナーの話を遮る私を、さらに遮ってミーニャが言葉を発する。
「オーナーさんは、クリスティーナさんの気持ち、考えたことある? 名前も存在も、愛じゃない、ちがうものでできてるなんて、そんなの悲しいよ。私はお母さんにはずっと会えてないけど、『ミーニャ』って名前からはお母さんの愛を感じてる…………それが、オーナーさんには無いの!?」
ミーニャの笑顔以外の表情は珍しい。それも、本気で怒っている顔は初めて見た。
「…………まあ、教育方針の違いってやつだろ。つーか、どうする勇者さんよ。兄ちゃんのお仲間はカンカンって感じで、話が進む気配がないぜ」
「リミア、ミーニャ、いったん冷静になるんだ」
「キリヤ……どういうつもり!?」
「文句は全部話を聞いてからだ。リミアもミーニャも、もうあの子をただのパワーアップ要員なんかとは思ってないだろう? ちゃんと向き合いたいなら、ちゃんとあの子のことを知る必要がある」
「…………キリヤ」
私はふう…………と息を吐いて椅子に座り直す。ミーニャも黙ってオーナーに向き直る。
「それじゃあ、続きを話そうか」
オーナーはニッと笑って、口を開く。
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