第23輪 偶 像 剣 士
その後、時にチャクラムで魔物を倒し、時に爆弾で魔物を倒し、時に杖で体をほぐしつつ、私たちは商業の街「マグニア」に確実に近づいていた。
「この調子なら日が暮れる前に到着できそうだな」
「そうだね! それに心なしか出発した時よりも体が軽い気がするよ!」
「…………うん、ミーニャの体が軽いってことは、ミーニャにマッサージし続けた私の体は疲れてるってことなんだけどね…………」
街に着いたら、今日はゆっくり休もう…………。
「? ねえ二人とも、何か聞こえてこない?」
ミーニャは何かに耳を澄ませていた。
「え? 私には何も聞こえないけど…………」
「…………俺も特に何も聞こえてこないが? もしかして魔物か!?」
「ううん、魔物って感じじゃないんだけどね…………あっちだ、行ってみようよ!」
ミーニャは音が聞こえたと思われる方へ走っていく。
「あ、ちょっとミーニャ! 私は早く街に着いて休みたいんだけど……!」
「しかたない。ついていってみるか!」
私とキリヤはミーニャの後を追いかける。
***
「ほら、あの辺りだよ!」
ミーニャについていくと、ミーニャの言った通り、何かが聞こえてきた。
「これは…………歌か…………?」
「確かに、誰かが歌を歌っているようね…………お世辞にも上手いとは言えないけど…………」
「あ! 人影があるよ!」
「え? …………あ、ほんとだ!」
「…………とりあえず、隠れて様子を窺おう」
私たちは茂みに隠れて目を凝らす。
「いえーい! 盛り上がってるー!? 今日はみんな、あたしのために来てくれてありがとー! あたしのデビュー曲、『ツインテールとシュシュ』! どうだったかなー!? …………え? 最高だったって? ありがとー! みんな大好きだよー!」
…………そこには、一人でライブのMCらしきことをしている少女がいた。
「…………ねえ、キリヤ、リミア。私にはあの子が呼んでる『みんな』らしき人たちが見えないんだけど、私、目悪くなっちゃったのかなあ……?」
「…………安心しろミーニャ。俺たちにも見えてない」
「そして、ああいうのは関わらないのが一番だわ。行きましょ」
私はそーっとその場を立ち去ろうとする。
「あ、待ってリミア! あの子の近くから魔物の気配がする…………! 助けなきゃ!」
「しかたないわね……! 私は陰で見守ってるから、二人はあの子を助けなさい!」
「リミアお前……。とりあえず行くぞ、ミーニャ!」
「うん!」
キリヤとミーニャが少女のもとに向かった直後、少女の前に魔物が現れる。
「! ファン!? ……なんだ魔物か。あーもう! リハの邪魔しないでよね!」
「おいお前! 危険だから下がって……。!」
キリヤとミーニャは少女の姿を見て立ち止まる。
「あれは……鎧!?」
鎧を着た少女は、背中につけた鞘から大剣を抜く。
「さあ来なさい! ぶった切ってあげる!」
大きな獣が鋭い牙を光らせ、少女に向かって襲いかかる。
「あ、危な……」
ミーニャが声を発すると同時に、鎧の少女は剣を構えて魔物を見据える。
「そーりゃあ!」
一閃。大剣が魔物の体を鈍い音とともに突き刺し、魔物はその巨体を横たえる。
「す、すごい…………」
少女は大剣を片手で振って魔物の血を振り払う。
「はい、いっちょあがりっと! …………はあ、こんなことやってもトップアイドルへの道へはまったく近づかないわ…………ん?」
少女はキリヤとミーニャの姿に気がつく。
「もしかしてあなたたち! あたしのファンだったりする!?」
少女は目を輝かせて二人に近づく。
「いや、全然違うが…………それにしても、見事な剣さばきだったな。大きな魔物を一撃とは」
「うんうん! シャキン、キラン、ドーン! って感じですごかったよ!」
「…………ああ、ファンじゃなくてただの冒険者ね。ファンじゃないなら特に用は無いから、あたしは失礼するわ」
立ち去ろうとする少女を私が
「待ってちょうだい!」
「…………何よあんた?」
「スカウトするわ! あなたのこと!」
「スカウトって…………もしかして事務所の人!? ついにあたしの魅力を分かってくれる人が!」
「いや…………私たちの、勇者キリヤのパーティにスカウトするわ!」
「…………は?」
少女は私たちを順々に見て、それからため息をつく。
「はあ…………そういうことね。残念だけど、あたしはそういうのは興味ないから。他を当たってちょうだい…………それじゃ、今度こそ失礼するわ」
「あ、ちょっと…………」
少女はスタスタと歩いて立ち去ってしまう。
「ああもう、あんな凄腕の剣士がいたらパーティの戦力爆上がりなのに!」
「まあ、入る気が無いなら仕方ないだろう…………とにかく今日は街に行って宿を探そう」
「…………そうね」
…………それにしても、なんであの子は剣士をやってたんだろう? ちゃんと「アイドル」ってジョブも存在してるのに…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます