第22輪 新 技 披 露

「いやー参った参った! あまりのチャクラムの美しさにいつの間にか意識が飛んでしまったみたいだ!」


 数分後、キリヤはそんな言葉とともに意識を取り戻した。


「…………そんなことだろうと思ったわ」


「…………あはは」


 ミーニャは乾いた笑い声をあげる。


「しかし参ったな…………戦うたびに気絶するのは避けなくては…………。そうだ! アイマスクをしよう! いやしかし、チャクラムの美しさを視覚で感じることができないのは……困るな」


「いや、その前に目隠ししたまま武器投げることが危ないことに気づきなさいよ…………」


「…………うずうず」


「……ど、どうしたのミーニャ? うずうずして」


 ていうか、「うずうず」って声に出して…………。


「いやね、キリヤの進化を見たら、私も数日の間で進化したよってとこを二人にお披露目したくて!」


「それってもしかして……魔法が使えるようになったの!?」


「なに!? そうなのか!? ついに努力が実ったんだな……ミーニャ!」


「……………………」


 ミーニャは目を逸らして悲しそうな顔で遠くを見つめる。


「ち、ちがうみたいね…………」


「……すまない。いや、まだまだこれからだ……! 応援してるぞ!」


「そ、それで、ミーニャの進化ってなにかしら?」


 ミーニャは目線をこちらに戻すと、にっこり笑って何かを取り出す。


「じゃじゃーん! これです!」


「そ、それは…………!」


「爆弾、よね?」


 どうみても爆弾だった。


「もう! そうだけどそうじゃなくて! この前、狭くて爆弾が使えないーってことあったでしょ? それでこれを作ったんだよ! 小型で周りへの爆風を最小限にしつついつもの爆弾とほぼ変わらない威力! 名付けて…………えーと、『小っちゃくて強い爆弾』!」


「そのまんまだな…………」


「あ! ちょうどいいところにさっきと同じ魔物が! 見ててね二人とも!」


 ミーニャは持っていた「小っちゃくて強い爆弾」を魔物に勢いよく投げつける。


 爆弾がコン、と当たると、ドカン! という音とともに魔物は小規模の爆炎に巻き込まれ、墜落して再起不能になった。


「ほらね、かなり爆風が抑えられてたでしょ! 見てた!?」


「う、うん、そうね。見てたわ…………」


「あ、ああ…………頼もしい限りだ」


「えへへ、ガンガン使ってくから頼りにしててね!」


 私とキリヤは、実演販売のように倒された魔物を不憫に思いながらも、ミーニャの将来が心配になっていた…………。


「そうだ! リミアは何かないのか? 杖も新しくなって、何か変わったことはないか?」


 キリヤは話題をミーニャから私の方に切り替えようと試みたらしい。


「わ、私? そ、そうね…………えっと、えっと…………」


 杖がきれいに生まれ変わっても、使えるスキルが増えたわけでも回復量が増えたわけでもない。何か変わったこと、変わったこと…………。


「…………はい!」


 私はビシッと杖を掲げてピースしながらポーズをとる。


「…………? なんだ?」


 キリヤとミーニャは首をかしげる。


「ほら、杖がきれいになったことで、私の魅力も底上げされたでしょ?」


「…………何も、無かったんだな」


「いや、私の魅力が上がったんだって…………」


「大丈夫だよ! リミアのサポートには助けられてるし、別に何も変わって無くても私はリミアのこと、嫌いになんてならないから!」


「……………………」


 え、やだ、何その捨てられた子犬を見るような目…………心がしんどい。


「…………さ、さて、概ねお互いのパワーアップした部分を見せ合ったところで、日が暮れる前に『マグニア』へ急ぐか!」


「そ、そうだね!」


 くるっと向き直して歩き始める二人。


「…………待ちなさいよ」


 そんな二人を呼び止める。…………このままで、終わらせるわけにはいかない。


「…………リミア? うっ!」


 私はミーニャの背中に杖を突き刺す。


「ミーニャ! おいリミア! 何をして…………」


「あ、なにこれ……? 気持ちいい…………」


「え?」


 ミーニャは力が抜けた顔でぺたりと座り込む。


「これは一体…………?」


「これぞ私の新技しんわざ、杖マッサージよ!」


「マッサージ、だと…………?」


「いやー杖を受け取った時から感じてたのよね! この適度な固さ、絶対マッサージに使ったら気持ちいいだろうなって!」


「おいリミア…………武器は大切に扱うんじゃ…………」


「あ、もうちょっと上! あー行きすぎ! そこそこ!」


「…………無かったのか?」


「ん? 別にぞんざいに扱ってるわけじゃないわよ。武器の特性を利用して仲間を癒すことは全然…………」


「もう気持ち強めで! あ、それはちょっと痛すぎ…………そうそう!」


「問題じゃないでしょ?」


 口の端だけを吊り上げた笑みを浮かべてみる。


「…………そうだな、頑張ってくれ」


 こうして、それぞれパワーアップを果たした私たちは、次の目的地「マグニア」の街へ向かうのだった。

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