第16輪 鍛 冶 職 人
「チャクラムだーーーーーーーー!!!!!」
「うるせえーーーーーーーー!!!!! 急に入ってきてなんなんだてめえらは!」
キリヤが大声を出すと、中にいたいかにも「職人」といった感じの親父が怒鳴る。
「すいません! こいつチャクラムを見るとアレがアレなんです! すいません!」
怖そうだし、ただ謝るしかない。怖そうだし。
「うわあ、いろんな武器が置いてあるね!」
「触るんじゃねえ! そこにある武器は武器屋に卸すもんだ!」
…………ミーニャちゃん? 何やってるの!? 火に油を注がないで!
「すいません! その子はちょっと好奇心が強いだけでいい子なんです! すいません!」
ほら、やっぱり私がいないと駄目だった……。
「…………親父、このチャクラム、いくらで売ってもらえる?」
キメ顔で鍛冶屋の親父に話しかけるキリヤ。…………鼻血を垂らしながら。
「…………お前みたいな訳の分からない奴に売る武器はねえ…………!」
やばい、怒り方が本気だ。本当にどうにかしないと…………。
「…………ん? 坊主………。お前が腰にぶら下げてるのはチャクラムか?」
「ああそうだ! 俺はチャクラムを愛しチャクラムに愛される男……」
「少し、見てもいいか?」
「あ、ああいいぞ。ただし丁重に扱ってくれよ。こいつは俺のフィアンセみたいなものだからな」
キリヤのいつも通り気持ち悪い発言はともかくとして、鍛冶屋の親父さん、さっきまであんなに怒ってたのに…………。どうしたんだろう?
「おいおい、お前…………」
「? どうした親父?」
「…………このチャクラム、相当大事に扱ってるらしいな! こんなに輝いてる武器を見るのは久しぶりだぜ!」
…………?
「…………ああ、輝いてるってのは見た目もそうだが、内側からの溢れんばかりの輝きも含めて、な!」
…………?
「親父、あんたわかっているじゃないか! やっと話が通じる人間と出会えた! この世界も捨てたもんじゃないな!」
「よし! 気に入ったぞお前! さっきの言葉は撤回する! うちにあるチャクラムを譲ってやっても…………いやむしろ、お前だけのチャクラムを俺が作ってやろう!」
「…………な、なに! いいのか!? 俺のためのチャクラムを作ってくれるなんて……!」
「おう! 男に二言はねえ! 俺に任せな!」
キリヤと鍛冶屋の親父はがしっと固い握手を交わす。
…………あれー? なんか知らないけどめっちゃ仲良くなってる……。武器まで作ってもらうことになってるし…………。まあ、怒られて追い出されるよりはいいか…………。
「…………ん? ピンクの髪の嬢ちゃん! 嬢ちゃんの杖も見せてくれないか!?」
「え? 私? いいよ! はい、どうぞ!」
今度はミーニャの杖を手に取る鍛冶屋。
「…………やっぱりだ! この杖もかなり大事に扱われていやがる!」
「えへへ、まあね。大切にしてたら魔法も使えるようになるかなー、って! 子どもの頃から毎日磨いて、毎晩いっしょに寝てるんだよ!」
「ほう、そいつはすばらしい! どうだ、嬢ちゃんの杖も俺に作らせちゃくれないか?」
「ありがとう。でも、それは遠慮しとくよ。この杖はね、お母さんが残していった杖だから。私はこの杖といっしょに冒険しなくちゃいけないんだ」
「…………そうか。嬢ちゃんにとって大切な武器なんだな。それじゃあ、俺は何も口出しはできねえ」
「うん。キリヤのチャクラム、かっこいいの作ってあげてね!」
「もちろんだ! …………ところで、そこの青髪の嬢ちゃん!」
…………お! 次は私……?
「手に取るまでもなく分かる。その杖、ずいぶんとぞんざいな扱いをしてるらしいな…………怒りを通り越してあきれてくるぞ…………」
「……………………」
鍛冶屋はかわいそうに……と言わんばかりの目で私の杖を見る。
じとー、とキリヤとミーニャの目がこちらに向く。
「い、いやいや! そんなことないわよ!? 今日も肩叩いたり靴べら代わりに使ったり荷物引っかけたり寄ってきたハエ叩いたりしただけで、そんなひどい扱い方はしてないから!」
「……………………」
すす……、と全員が私から少し距離をとる。え? 私そんな引かれるようなこと言った?
「…………とりあえず、坊主のチャクラムを作らせてもらおう! …………だが、そのために足りない素材があってな…………」
「任せろ! 俺が採ってこよう!」
「洞窟の奥のゴーレムから採れる素材なんだが、けっこう手ごわいぞ?」
「チャクラムのためならたとえ火の中水の中! 必ず採ってきてみせるさ」
「そうか。それじゃあ、健闘を祈る!」
……こ、こうして私たちの次の目的は、ゴーレムを倒して素材をゲットし、キリヤのチャクラムを鍛冶屋に作ってもらうことになった。
…………そして、鍛冶屋を出てから宿に着いて休むまでの、二人の私を見る冷たい目を、私はこの先きっと忘れないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます