第15輪 新 街 観 光

「ここがタールズ……! ずいぶん大きな街だな!」


 街にはたくさんのお店が並び、たくさんの人々が賑わいを演出している。夕飯時ということもあり、あちこちから美味しそうな料理の匂いが漂ってくる。


「最初の城下町にも負けず劣らず、ね! 私は美味しいごはんが食べたいわ! 早くお店に入りましょ!」


「いや、腹ごしらえの前に確認することがある!」


 キリヤの発言に、何か嫌な予感を感じる。


「……一体それは何かしら?」


「この街にチャクラムがあるか否かだ! 行くぞ!」


「やっぱり! 聞かなきゃよかった!」


「私もまだ運動し足りなくてお腹空いてないから、キリヤに賛成!」


「ミーニャまで!?」


 ……ミーニャがパーティに入ることでキリヤの暴走を止められると思ったけど、この子が敵に回ることもあるんだ…………覚えとかなきゃ。


「はあ、仕方ないわね…………。手短にね!」


***


「チャクラム? すまないねえ、うちには置いてないよ」


「チャクラムだあ? 久しぶりに聞いたな。需要がねえから供給もしねえよ」


「チャクラム? なにそれおいしいの?」


 3店まわってみて、こんな感じだった。


「……ぐうう! 前から思っていたが、この世界の住人は狂っているのか? チャクラムのない世界など、チャクラムの使えないRPGみたいなものだぞ!」


「……頭がチャクラムを支配しすぎてるせいで比喩が比喩になってないわよ。…………やっぱり今の時代、そうそうチャクラムなんて置いてないわよ。なんてったって、4年も冒険者してる私がその存在を知らなかったんだからね」


「くそっ。いや、まだだ! 次の武器屋に…………」


「ねえ、二人とも!」


 ずっと黙っていたミーニャが口を開く。


「私、お腹空いてきてからそろそろごはんにしようよ!」


***


「うん、おいしい! 村のごはんも大好きだけど、街で食べるごはんもおいしくて大好きだよ!」


「ミーニャ……語彙がひどくなってるけど大丈夫? でも、久しぶりの料理屋での食事、やっぱり染みるわ…………もちろん、女将さんの料理も美味しかったけどね。キリヤも今はチャクラムのことは忘れて食事に集中したら?」


「? 俺はちゃんと食事に集中しているが?」


「…………だったら、パンやら肉やらの真ん中をくりぬいてチャクラムっぽくしてから食べるのやめてくれない?」


「…………ほ、本当だ! すまない、行儀が悪かったな……」


「無自覚なの!? こわっ! 逆に怖い!」


 そうこうしていると、私たちの隣のテーブルに冒険者らしき二人の男が座る。


「なあ、前から気になってたんだけどよ。路地裏の鍛冶屋に飾ってあるあれ、なんて武器なんだろな? 使ってる奴見たことねえけど」


 片方の男が話し出す。


「ああ、あれか。たしかに、何なんだろうなあれ? あの……丸くて刃がついてる…………」


 もう一方の男も話し出す…………え? それってまさか?


「キリ……あれ?」


 隣を見ると、キリヤの姿は無く。


「おい。その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 キリヤは二人の男に話しかけていた。…………真ん中をくり抜いたパンを頬張りながら。


***


「路地裏の鍛冶屋に行くぞ!」


 食事を終えて店を出た開口一番である。


「おおー! って、え? なんで?」


 どうやらミーニャは食事に夢中で話を聞いてなかったらしい。


「チャクラムを求めて、な」


「そうなんだ! ただ宿で休むよりも楽しそうだし、私は賛成!」


「…………だそうだ。リミアはどうする?」


「…………はあ。わかった、ついてくわよ」


 二人だけで行動させるのもなんか不安だし。私、いちおう一番年上だし。


「それじゃあ、鍛冶屋へレッツゴーだ!」


「ゴー!」


 …………どっちがどっちに影響されてるのか知らないけど、二人とも妙にテンション高いし…………。


***


「なんか、表通りとは打って変わって、ずいぶん暗いところに来ちゃったわね」


 どうやらこの街は表通りに人や店が集合しているらしく、少し裏の道に入ると一気に人気ひとけがなくなる。


「村の夜はいつもこんな感じだよ? 大丈夫! もう目は慣れてきたから!」


「ミーニャはたくましいな! 力もあるし道具も作れるし」


「『たくましい』は女の子に使う褒め言葉じゃないわよ。ねえミーニャ……」


「えへへ、そんなこと、なくもないかなあ…………!」


 ああ……喜んでる。もしかして、むしろ問題児が増えて私の負担が重くなってる…………?


「! 見てみろ二人とも、明かりが見えるぞ! あそこが鍛冶屋に違いない!」


 そう言うとキリヤは一目散明かりの方に走り出す。


「あ、待ちなさいよ!」


 キリヤは鍛冶屋の戸に手をかけ、一気に開ける。


「失礼する! ここにチャクラムがあると聞いたんだが……!」


「ちょ、ノックくらいしてから入りなさいよ!」


 私も遅れて鍛冶屋に入る。そこには…………。


「あ…………あ…………!」


 もう、すっかり見慣れてしまったあの形状。


「チャクラムだーーーーーーーーー!!!!」

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