第13輪 物 理 少 女

「そんな…………。キリヤ、リミア…………。私のせいで……!」


 ミーニャは目に涙を溜める。


「…………あー、びっくりした!」


「何だったんだ今のは………?」


 そして私たちは……ちゃんと無事であった。


「……………………え? どうして」


 爆炎の中から何事も無く現れた私たちを見て、ミーニャは固まる。


「どうしても何も、私がMPをフルで使って防御魔法と継続回復魔法をひたすら重ね掛けしたのよ。どう? デキる女でしょ?」


 私は最高のドヤ顔で答える。自分の有能さが怖い怖い。


「よ、よかった……」


 ほっとしてミーニャは脱力する。かと思いきやまたガバッと起き上がる。


「い、いやでも! そうだとしてもタイミングが早すぎる! 爆発を事前に察知してなきゃ…………。あ……!」


「まあ、ね。私はさっきの戦いでミーニャが魔物を倒した時、何かを魔物に向かって投げてるのを見てたのよ。……んー、やっぱりあの場で直接聞いとけば良かったかな?」


「う……、ごめん。私、本当は…………」


 ミーニャをキリヤが制する。


「話は後だ。今はとにかく残った魔物を倒すぞ」


「! ……う、うん!」


「私はもう回復魔法使えないから、二人ともなるたけ怪我はしないでねー!」


***


「ごめんなさいでした!」


 あの後、なんとか危なげなく魔物を倒すことに成功した私たちは再びミーニャの家に戻っていた。


 そして、戻って早々待ち受けていたのは、ミーニャの土下座だった。


「えっと、そのだな。何がどうごめんなさいなのか教えてくれるか? ミーニャ」


「そ、そうだよね! ……ごめん」


 ミーニャは自分の前に置いていた杖を手に取る。


「実は私ね……魔法を使えないんだ」


「……ええ!?」


「……どういうことだ?」


 ミーニャはばつが悪そうにしゃべり出す。


「え、えっと。つまりね、私は魔法使いだけど、魔法がまったく使えないの。……いや。魔法使いなのに、魔法がまったく使えないの」


 ミーニャは、さっき私たちの前に転がってきた物と同じ物を懐から取り出し、私たちの前に置く。


「これは私が調合した爆弾。私はこれを使って、まるで魔法を使ってるかのように演出をしてただけ……」


「そ、そうか……。というかリミア。お前は気づいていたんじゃないのか? なんで驚いている?」


「え? いや、私はミーニャが道具で魔法の火力不足を補ってるとか、そのくらいのことだと思ってたんだけど、魔法がまったく使えないって言うから…………。だって身体強化の魔法でも使わないと、素手で魔法使いが魔物と渡り合うなんてできないでしょ?」


「? あれは私の地力だよ?」


 きょとんとした顔をするミーニャ。い、いやいや…………。


「そ、そうなのね……」


 とりあえず話が逸れそうなので、そういうケースもあるのだと、無理やり自分を納得させることにした。


「私ね、子どもの頃、村で一緒に遊んでた友達に言われたんだ。『ミーニャのお母さんはすごい魔法使いだから、ミーニャも魔法使えるんだよね!』って」


 ミーニャは、まるでひとりごとを話すかのような口調で話し始める。


「それで、私はつい意地を張って、『使えるよ!』って言っちゃって、その場で魔法を使おうとしたけど、そんなもの使えるわけは無くて……」


「それで『嘘つき』って言われて、とっても悲しくて、悔しくて……そうして私はどうしようかって考えて…………作ったんだよ、爆弾を」


「……………………」


 真面目な話なのか、ツッコむべきなのか、どっちなんだろう。困ってキリヤの方を見ると、キリヤも微妙な顔をしていた。


「…………あ、今のは『爆弾は作れるんかい!』ってツッコんでも大丈夫なところだよ」


「「爆弾は作れるんかい!」」


 私とキリヤの息ぴったりなツッコミにミーニャは少したじろぐ。


「……あ、あはは。……それで、友達にまるで魔法を使うみたいに呪文を唱えながら爆弾を使ったら、みんなそれを信じてね。村の大人にまで『ミーニャは魔法が使える』って広まっちゃって……。今も村のみんなは私が魔法を使えると思ってる」


「それからの私は、必死に魔法を使うための練習をしたの。嘘をほんとにするんだ、って。大魔法使いレーニャの娘が魔法を使えない、なんてままじゃ、私はお母さんに合わせる顔がないって思って」


「ミーニャ……」


「でも、上達するのは爆弾作りと体術ばっかり。そして私は今も、魔法を使えないまま……。最強の魔法使いになってお母さんに会いたいっていうのは本当の私の気持ち。……だけど、このままじゃ、一生そんな日は来なそう、かな」


 そう言って、ミーニャは泣きそうな笑顔を作る。


「ごめんね、二人とも。嘘ついて、パーティに入れてもらおうなんてして……。私は魔法が使えない魔法使い。勇者のパーティにはそぐわない。……レーニャの娘なんて言って二人を騙したこと、許してくれるか分からないけど、私にできることならなんでも……」


「じゃあ、一緒に魔王を倒すために協力してもらおうか」


 キリヤの言葉に、ミーニャは一瞬、時が止まったような顔をした。


「……? え? ちょっと、今の話聞いてた? 私は……」


「そうね、ミーニャが嫌って言ってもついてきてもらうわよ」


「リミアまで! 冗談言ってからかうのはやめて! 私が悪かったから……」


「冗談じゃないさ。チャクラムしか使えない勇者に、サポート役なのに自己中心的なナルシスト僧侶。魔法が使えない魔法使いが入っても、何の違和感も無いぞ。…………普通の勇者のパーティにはそぐわないかもしれないけどな」


「まあ、私は常に利他的で献身的な僧侶なんだけどね。……私一人で変態勇者のお守りはそろそろ疲れてきたし、ミーニャがいてくれたら私は嬉しいけど。だめ、かな……?」


 ミーニャの目から、一粒の水滴が畳に落ちる。


「……そんなの、そんなの! ……いいにまっでるよおー! ありがどぼ、うだりどおー!」


 ミーニャは私に抱きついてくる。


「よしよし、『ありがとう、二人とも』、ね」


「ところでミーニャ、魔法もいいが今度はチャクラムを投げてみないか? きっとミーニャならすぐ上達すると思うぞ」


「あんた、せっかくさっきまでいい感じだったのに、結局台無しにしたわね」


 こうして私たちに、新たな仲間が加わったのだった!

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