第12輪 魔 法 母 娘
ミーニャの唇がゆっくりと動く。
「私はね…………私のお母さんで王国最強の魔法使い・レーニャ=クリアスターを超えたい。その思いで魔法使いをやってるの」
「へー、そうなんだ。…………って、え!? レーニャってあの!? 杖を一振りすれば山を動かし、二振りすれば海をも割るっていう最強の魔法使い!? 『今最も魔王を倒しそうなパーティランキング』で1位のパーティに所属してるあの!? しかも娘!? 頭が混乱してきた…………」
なんだか急に話のスケールが大きくなった気がする…………。
「ほう、そんなにすごいのか? ミーニャの母親は」
そう言いながらチャクラムを磨くキリヤ。
「あんた、そんな片手間で聞く話じゃないわよ! あの伝説の魔法使いの娘が目の前にいるのよ! …………って、あれ? たしかレーニャはまだ20代後半で…………いや、ミーニャが異常に発育がいい幼女ということも…………」
私はリミアの胸をじっと見つめる。
「リミア、考え事は頭の中でしてね? 私は16歳だよ、年相応でしょ?」
ミーニャは目の笑っていない笑顔でこちらを見る。
「あ、ご、ごめんミーニャ」
うっかりしていた。でも、そうなると…………。
「私は養子なんだ。お母さんの実の娘じゃない。私は覚えてないんだけどね、森で捨てられて、魔物に食べられそうになった私をお母さんが助けて、養子として迎え入れてくれたらしいの」
「そうだったのね…………。ごめんなさい、私、デリカシーが無かったわ」
「まったくだ。リミアは思いやりの気持ちが足りない」
「変態への思いやりは持ち合わせてないからね? …………そうだ、話逸らしちゃったわね。それで、どうしてミーニャはお母さんを超えたいの?」
「うん…………実は私ね、お母さんと話した記憶が一切無いの。物心ついた時にはもう、お母さんは冒険に出て、それ以来一回も帰って来てないから…………」
「そんな…………」
「私が知ってるのは、お母さんが赤ん坊の私とこの村に来て何ヶ月か滞在した後、村に私を預けて旅立つまでのことだけ。それも、村のみんなから聞いただけなんだけどね。そして、その時にお母さんが置いていったのがこのローブなの」
ミーニャはローブの裾をぎゅっと握りしめる。
「えっと、つまりね! 私が魔法使いとして名を知れ渡らせれば、お母さんに会って話ができるんじゃないかって。でね、その時に私がお母さんも超えるくらいの大魔法使いになってたら、きっとお母さん、褒めてくれるんじゃないかって、そう思って…………」
「それで、勇者として魔王討伐を目的にしている俺たちのパーティに入りたいってことか」
キリヤはチャクラムを磨く手を止めていた。
「うん。今のこと、伝えたうえでもう一回聞くね。私を、パーティに入れてくれる?」
…………そんなの。
「いいに決まってるじゃない! …………ていうかむしろこんな勇者のいるパーティでいいの? もっといい仲間、探せばきっといるよ?」
「おい、俺は最強のチャクラム使いになる男だぞ! これ以上のパーティがあるか! …………最強の魔法使い、いいじゃないか。歓迎するぞ、ミーニャ」
「…………ありがとう、二人とも!」
ミーニャはにこっと笑う。
私たちの間に穏やかな雰囲気が流れた、その時だった。
「ミーニャ、いるか!? また魔物が村の入り口に来てる! 力を貸してくれ!」
「おじさん! そんな……また来るなんて…………」
ミーニャは私たちの方をちらりと見る。
「もう一度倒すまでだ。いくぞリミア!」
「私は戦わないけどね! 二人のサポートは任せて!」
「…………! ありがとう、二人とも!」
***
「…………さっきより増えてない!?」
村の入り口まで戻ってきた私たちは、数の多さに驚く。
「さっきと同じ魔物が倍くらいに増えてるな…………対処しきれるか」
「ここは私に任せて!」
ミーニャは前に出て杖を構える。
……そうだ! ミーニャが魔法を使う時の違和感、あれは何だったんだろう? 今、確かめなくちゃ!
「フレア!」
ミーニャが叫ぶと再び爆炎が舞い、魔物を焼き払う。
「…………ミーニャの手元、ローブで隠れて見えなかった……!」
「数が多くて倒しきれていない! 俺も戦うぞ!」
キリヤはチャクラムで魔物を確実に倒していく。
「…………ふひっ。やはり、磨いた後のチャクラムは一層魅力が増している。スマホがあったら動画を撮って俺の寿命が尽きるまでヘビロテしたいくらいだ」
「何言ってるかよくわからないけど、多分気持ち悪いってことはわかるわ! よそ見しないでちゃんと戦いなさい!」
「もう一回、私の魔法で焼き払う! 二人は下がって……きゃあ!」
「ミーニャ!」
ミーニャは魔物の攻撃を受けて地面に倒れる。それと同時に、私とキリヤの足元に「何か」が転がる。
「あ…………いけない! 二人とも逃げて!」
その直後、爆炎が私たちを襲うのだった。
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