第2輪 冒 険 開 始

「あるんだろチャクラム! チャクラムが無いなら帰るぞ俺は!」


「わ、わかったから落ち着け!」


 目の前に広がる光景に思考停止したくなる。勇者ガチャもう一回引きたい。


「……ほら、あの人! あの人が君のサポート役だ! 聞きたいことは全部あの人に聞け! いいな!」


 魔法使いは人差し指をビシッと私の方に向けると、勇者から逃げるように部屋の外に走り出す。それを見た他の魔法使いたちも慌てて同じように走りだす。


「じゃあ、後は頼みましたよリミアさん!」


 そんな言葉とともに扉がバタン! と閉められる。


「え、ちょ、待って! 二人きりにしないで!」


 無情にも閉じられた扉から視線をすすす……と勇者の方に向ける。


 勇者は、視線を一点にこちらを睨んでいた。


「おい! 結局この世界にチャクラムはあるのか!? 無いのか!?」


「ひいっ! そ、そんなこと言われても……私はそんな武器聞いたことな…………あ!」


 そういえば、とサポート役を命じられた時に渡されていたチュートリアルを懐から取り出す。


「ちょっと待ってて! 今調べるから……。武器の種類……チャ……チャ……あ、あった!」


 チャクラムのページを開いて勇者に見せる。勇者はそのページをじっと見つめる。


「……ど、どう? ご所望の物だった?」


 これがもし勇者の言っているチャクラムじゃなかったらジ・エンドだ。私はドキドキしながら勇者の反応をうかがう。


 やがて、勇者の体がはふるふると震えだす。も、もしかして違かった? 怒ってる?


「……ふふ、あはは! ふはははははははは!」


 笑った怖い! どっち? どっちなの?


「…………あの?」


 おずおずと話しかけてみる。


「これだよこれ! あるじゃないか、チャクラム!」


 勇者は、満面の笑みでガシッと肩を掴んで揺さぶってくる。


「ついに、ついにこの手にチャクラムが! 早くこの手にチャクラム! チャクラムを!」


「わ、わ、わかった! わかったから揺さぶるのはやめて!」


 ぐわんぐわん揺さぶられて脳がシェイクされたような感覚になっている。


「あ、ああすまない。つい興奮してしまって」

 

「や、やっと止まった……」


 解放された私はぺたんと床に座り込む。


「それと、さっきまでのもすまなかったな。チャクラムのこととなると、つい我を忘れてしまって」


 勇者は頭を掻きながら謝ってきた。……まあ、とりあえず、落ち着いたみたいで良かった。……トラウマになりそうだけど。


「はあ……まあいいけど。よっ、と!」


 私は立ち上がって、パンパンと服を叩いてからしっかりと勇者に向き合う。


「改めて、私はリミア。あなたのサポート役ね。ジョブは僧侶。基本的な回復魔法や補助魔法は使えるから安心して。それで、あなたの名前は?」


「ああああ」


「え?」


「……いや、なんでもない。俺は赤羽霧矢あかばねきりやだ。よろしく頼む」


「キリヤね。よろしく」


 ……「ああああ」ってなんだろう?


「ええと。始めに、ここに来て最初にしなくちゃいけないことがあるんだけど、何だかわかる?」


「チャクラムの入手、だな!」


「いや違うけど。街でジョブを決める手続きして、初期装備を整えるの。…………あれ? あながち間違ってないか……」


「そうか、そうと決まればさっそく出発だ! 行くぞリミア! あ、やばい。この手でチャクラムを持つ瞬間を想像したら鼻血が出てきた」


 キリヤの鼻からツー、と血が流れる。……もはや気持ち悪いを通り越して怖いんですけど。


「まったく……ほら、手、どけて。治してあげるから」


 私は身体回復ヒールのスキルを使う。


「! 血が止まった……? これが本物の魔法か。便利なものだな」


「うんうん、すごいでしょ? どんどん褒めてちょうだい!」


「ああ、すごいな。ところで早くチャクラムを取りに行きたいんだが、とりあえず外に出ればいいんだよな? 案内してくれ」


 スタスタと部屋を出ようとするキリヤ。


「…………」


 いや軽っ! 軽くない!? あなたの世界には魔法無かったんだよね!? だとしたらすごい超常現象だよ今の! すごいこと起きてたよ!? 魔法とチャクラムの反応逆じゃない!?


「? どうした? まだ何か説明があるのか?」


 キリヤは疑問符を顔に浮かべる。もういいや、いちいち驚いてたらたぶんこの先やってけない。ツッコむのはやめよう。


「ううん。行こう、行きましょ」 


 先頭を歩いて部屋から出て、城の出口を目指す。


「まさかここが城の中だったとはな、驚いた」


 キリヤは内装を見回す。


「たぶん、召喚された勇者の中で過去一薄いリアクションよ、それ」


 高そうなふわふわの絨毯の上を歩いて出口にたどり着き、少し歩いて街中に出る。


「おお、いたるところにファンタジー感があるな。まるでRPGの中に来たみたいだ」


「……ねえ。さっきも言ってたけど、そのあーるぴーじーっていうのは何?」


 少し気になったので聞いてみる。


「どう説明したものか……。俺たちの世界にはこの世界のような世界で仮想の冒険ができる道具? 玩具……があるんだよ。俺はいくつもの世界を救ったもんだ……チャクラムとともにな!」


「ふうん、そうなんだ。どおりで飲み込みが早いわけね」


 チャクラムのことは無視しつつ、納得する。納得なっと……いや、だとしても落ち着きすぎでは!? 召喚された瞬間は冷静だったし。テンション上がるのはチャクラムだけなの!? チャクラム>>越えられない壁 >>RPG=魔法なの!?


 やっぱりやばい奴だ、と思いつつ、そうこうしているうちに役所にたどり着く。


「ここで手続きしてジョブを選ぶの。何になりたいとかある? チャクラム使えるジョブならなんでもいい?」


 ちょっと投げやりになってきた。まあ、キリヤの感じならチャクラム使えればなんでもいいから早くチャクラムを! とか言うよね、きっと。…………と、思っていたら。


「? 何を言ってるんだ?」


「え? 私、何か変なこと言った?」


 キョトンとした顔をされた。そして。


「そんなもの、チャクラム使いに決まっているだろう」


 斜め上の返答がきた。


 ………………そんなもん。


「そんなもんあるかーー!」

 

 ついに、我慢できずにツッコミを入れてしまった。

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