第3輪 喧 嘩 勃 発
「勇者キリヤ、『チャクラム使い』ね。はい、登録したよ」
「ええ、あるの!? 『チャクラム使い』、あるの!?」
役所の窓口のおじさんの言葉に、私は思わず大声を出してリアクションしてしまい、周りの視線を一身に浴びる。
「……嬢ちゃん、静かにね」
「あ、すいません!」
ハッとなって口をおさえる。
「いや、まあね、もちろん『チャクラム使い』なんてジョブは無いんだけどね。勇者の子が希望するジョブは許可しろって言われてるのよね。最近だとユーチュー……なんだっけ? そんなジョブを希望した勇者もいたねえ。それも許可したけど」
「あ、ああ、なるほど……。勇者は自由に自分の就きたいと思うジョブに就けるのね。びっくりした。『チャクラム使い』、本当にあるのかと思った……」
どうやらこれからはキリヤの行動だけじゃなくて、この国の勇者に対する扱いにも驚かされることになりそうだ。
「『チャクラム使い』が無いというのはかなり、とても、いや、めちゃくちゃ不本意だが! まあ、登録できたなら良しとするか。…………というか、そういう情報はチュートリアルには書いてないのか? サポート役には知っておいてほしい情報だろう」
不満全開のキリヤ。そして、私としてはあまり突っ込まれたくないことを指摘してくる。
「え? あ、あー、そうね。書いてなかったんじゃないかな、たぶん」
実は、渡されたはいいもののほとんど目通してなかったんだよね、チュートリアル。だって、けっこう分厚いんだもん、チュートリアル。
「リミア……お前まさか!」
あ、もしかしてばれた?
「貸せ!」
「ひゃあ!」
キリヤは私のローブの中に手を突っ込んでチュートリアルを探し始める。
「ちょ、ちょっと! 女の子のローブの中にいきなり手を突っ込むとか信じらんない! 最低! 変態!」
「じっとしていろ! あ、あった!」
キリヤは私の腰のあたりにしまっておいたチュートリアルを掴んで取り出す。
「うう…………もうお嫁に行けない……!」
腕を抱いて身をかがめる私にキリヤは目もくれず、チュートリアルをぱらぱらとめくり始める。
そして、あるページを開いたところでピタッと止まり、そのページをビシっと突き出してきた。
「ほらあった! 勇者のジョブは自由に決められるってちゃんと書いてあるぞ! お前やっぱりチュートリアルちゃんと読んでなかったんだろ! チャクラムのページも知らなかったし!」
「う、そ、それは……たしかにちょっと読むのサボってたけど……けど! それより、私のローブに手突っ込んでおいて何も言わないの!? ……せめて、せめてちょっと照れるとか、なんかリアクションしなさいよ!」
あれ? 怒りの論点変わってきてる? まあとにかく、謝ってもらわなきゃ!
「それよりとはなんだ! お前は勇者のサポート役だろ! チュートリアルすらろくに目を通していないなんて、サポート役失格だ!」
「なっ! なにもそこまで言うことないじゃない! 私だってちゃんと努力してたんだから! ほら、この『デキる女の相槌100選』! これを読破してサポートに役立てようと頑張ってたんだから!」
私はチュートリアルとはまた別の位置にしまってあった本を取り出す。
「それを読む時間でチュートリアルを読め! 冒険に旅立つ前から躓いてたら元も子もないだろ! というかチャクラムを把握しろ! そしてチャクラムを愛せ!」
「あの、お二人さん?」
「うう、正論言うなバカ! あとチャクラム言うな! あんたみたいな変態が来るなんて予想できるか! バカ!」
「お二人さん!」
「なんだ!」
「なに!」
窓口のおじさんの声に二人して反応する。
「喧嘩なら外でしてくれないかい。ほら……」
おじさんはちら、と周囲に目を向ける。
その視線を辿って周囲を見ると、いつの間にか、役所内のすべての視線が私たちに向けられていた。
「「……あ」」
や、やばい…………全然周りを気にしてなかった。
そうして私たちは、周りの視線をビシバシ感じながら、すごすごと役所から退散した。
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