異世界転生してきた勇者が異常なまでのチャクラム好きで気持ち悪いんだけど!?
柴王
第1輪 変 人 召 喚
オーラント王国。その広大な国土はほとんどが自然に覆われ、豊穣な土地は人々に恵みをもたらし、人々はその恩恵を受けて生涯を生きる。
そんな平和な王国に、突如として危機は訪れた。魔王が100年にわたる眠りから目覚め、軍を率いて街を襲い始めたのだ。
たくさんの街や村が壊滅し、たくさんの人が命を落とした。
しかし王国側の対応も早く、すぐに王国軍を中心として魔王軍に抵抗を始めた。やがて、魔王軍に対してもっとも有効な戦力とされた冒険者たちも、王国の依頼を受けて魔王軍と戦いを始める。
結果として、今は双方の間で膠着状態が続いている。しかし、このままでは魔王軍に押し返されてしまうのも時間の問題だ。
そこで、ステータスのポテンシャルが高いと言われる異世界人を勇者として召喚することで、魔王軍への対抗策とし、あわよくば魔王を倒してしまおうという作戦が打ち立てられた。
すでに何人かの勇者が召喚されているらしいが、勇者にはそれぞれ経験のある冒険者がサポート役として付き、手助けをする決まりとなっている。
そして、何を隠そうこの私、リミア・フラムウェルが、新しく召喚される勇者のサポート役に選ばれたのだ。
勇者のサポート役なんて、上手くして魔王軍の幹部、いや、魔王を倒してしまった暁には、どんなに持ち上げられるだろうと思うと、にやにやが止まらない。
本当に、サポート役に志願をし続けてきた甲斐があった。
ちやほやされ優雅な生活を手に入れるためにも、まずは勇者を強い冒険者に育て上げなくてはならない。ファイト、私! 未来の栄光のために!
ぐっと拳を握りしめた私は、王国城の中にある召喚の間の扉の前で足を止めて、ノックをする。
「すいません! 私、新しく召喚される勇者のサポート役を仰せつかった、リミア・フラムウェルという者ですが……!」
すると、中から声が聞こえてくる。
「ああ、お待ちしていました! どうぞ中へ」
「……失礼します!」
ドアを開けると、王国の紋章をつけた数人の魔法使いが召喚陣を取り囲んでいた。
「もう召喚の準備は整っています。リミアさんの到着をお待ちしていました」
その中から一人の魔法使いが話しかけてくる。
「そうですか。では、もう召喚を始めてもらってもよろしいですか?」
善は急げ、というやつだ。こうしている今も魔王軍討伐に動いている勇者がいる。早く追いつき、追い越して、私が、いや、私がサポートする勇者が魔王を倒さなければ。
魔法使いは頷き、召喚陣の方を向いて詠唱を始める。
周りの魔法使いもそれに続いて詠唱を始める。すると、召喚陣が光り出す。
ついに、私が栄光を掴む瞬間、そのための第一歩が始まろうとしているんだ。
私は深呼吸して高まる鼓動を落ち着かせる。
大丈夫。男が召喚されたら青髪ロング碧眼美少女の私が笑顔を向けた瞬間にイチコロ。女が召喚されたら「かわいい!」を連呼して対応。それで後はレベルに合わせて適当な魔物を倒していけば勇者のポテンシャルならすぐに強くなるはず。
うん、大丈夫。よっぽどの変人が召喚されない限り、私はつつがなく対処できる。自信を持てリミア。お前はもう4年間も冒険者として経験を積んだベテラン僧侶なんだ。
頭の中で自分を叱咤激励しているうちに、召喚陣から発せられている魔力が集束し、召喚陣の真ん中に人型の影ができる。
「召喚、成功しました!」
先ほどの魔法使いが声をあげる。
私はごくり、と息を呑み、人影を注意深く見つめる。
……男だ。年齢は私と同じか、少し年下くらい。センター分けにした黒髪と、やや鋭い目が特徴的だ。顔面偏差値は中の上ってところね、うんうん。
私は精一杯の笑顔をつくって男に近づく。
「はじめまして、私はリミア。いきなり違う世界に飛ばされてきてなにがなんだか分からないと思うけど、落ち着いて聴いて。あなたは勇者に選ばれたの。そして、魔王軍と戦って、どうかこの世界を救って……」
「つまり、俺はRPGの世界に飛ばされたというわけだ」
「? あーるぴー……?」
「俺がこの世界に召喚された理由はだいたいわかった」
「ほ、ほんとに……?」
まあ、本人が言うのならきっとそうなんだろう。ちょっと話し方が演技がかってるのが気になるけど、とにかく話が早くて助かった。ここの説明で手間取るのがけっこう不安だったから。この勇者、けっこう当たりかも!
「ところで……」
勇者はゆっくりと私に顔を近づけて、じっと見つめてくる。ところで……ところで何? あ、もしかして告白? 一目ぼれ? いくら私がかわいいからって会っていきなりなんて、まったく節操のない……。まあ私だからしょうがないけど?
「ところで、チャクラムはもちろんあるんだろうな!?」
「え?」
「チャクラムだよチャクラム! 愛らしい形状と芸術性、そして殺傷力を併せ持つ人類史上、そしてRPG史上最高の武器!」
「は、え? チャ……なんて? 愛の告白じゃなくて?」
私の頭は完全に混乱に陥っていた。
「お前、チャクラムを知らないのか!? RPGの世界の人間のくせに! おい、チャクラムを知っているやつはここにいないのか!?」
勇者は自分を召喚した魔法使いたちに手当たり次第になんとかっていう武器について聞いてまわり始めた。すごい勢いで。
どうやら、「よっぽどの変人」が召喚されてしまったらしい。
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