キムチ鍋

石川宰

キムチ鍋

   キムチ鍋

石 川  宰(いし かわ つかさ)  


「あっちぃい……」

俺は掛けていたタオルケットを蹴ってベッドの上に起き上がった。頭を掻きながら、エアコンを睨みつけた。

「チッ、あちぃのぉ、まあ消し忘れてオカンに怒られるよりマシじゃけどな」

 残暑と言うには暑すぎる気候で、寝る前に設定していたエアコンのタイマーは既に切れていて、パジャマは汗だくになっていた。

俺はふと、オカンが壁に飾った入社時の辞令を見た。

高杉翔太 二〇一四年四月一日付けで工事部への配属を任命する。

地元の工業高校を卒業後、俺は、オカンの古い知人、阪本さんの経営する地元の小さな電気工事の会社に入社した。

この会社に入ってもう三度目の夏が終わろうとしていた。夏の繁忙期も終わりが近づき、俺達従業員にとっては地獄の日々から少し解放され、ホッと一息つける季節になっていた。それでもこの暑さはやはり辛い。

給料が安い上に仕事がキツイのでいつも辞めたいと思っているのだが、オカンの知人の会社だから、簡単には辞められない。俺は会社を辞めた時のオカンの怒り狂う姿を思い浮かべて思わず身震いした。

ふと、目覚まし時計を見たらまだ五時五十分過ぎだ。

「チッ、またアラームの前に目覚めたんかぁ。アラームの意味無(ね)えし」

俺は諦めて起きることにした。

二階の自室から一階のリビングへ降りるとまだオカンは起きてない様だ。

眠い目を擦りながらリビングのカーテンを開けた。

「ぐわぁ、地獄じゃ。今日も暑(あつ)うなりそうじゃのう」

太陽が容赦なく俺の目を突き刺してくる。

俺は洗面所に行って、洗濯機横のランドリーラックに干しているとも掛けてあるとも言える作業着を手に取って着替えると、顔を洗って、鏡の自分に苦笑いをして見せた。

「もうこの作業着もやべぇのう、また金もかかるし。髪も当分切ってねぇし、笑うしかねぇわ」

いつもの様に髪の毛を水で濡らして寝癖を一所懸命に直した。

「よし、完璧じゃ」

朝の準備が終わると、俺はキッチンに行って、朝ごはんの準備を始めた。と言ってもトーストにベーコンエッグ、レタスと手作りの玉ねぎドレッシング、それからトマトジュースと毎日同じメニューだ。これを二人分テーブルに用意した。

「おはよう……、コーヒー」

二階からオカンが降りてきた。

「ん? ああ、おはよう。ちょっと待っとてや、これから淹れるけぇ」

オカンは眠い目を擦って大欠伸をしながら、リビングのテーブルの席についた。

「また、これぇ? 偶には納豆食いてぇ」

この何年も一度も朝食の準備をした事ない癖に毎朝、何かしらのクレームを付けてくる。

「夜食べりゃあええが、朝はやめときねぇ。てか、準備も食べるのも面倒じゃし」

オカンは俺の言うことを無視してテレビをつけた。

「チッ、聞いてねぇし……」

いつもの事だけど、ちょっとイラっとする。俺は諦めてコーヒーを淹れた。

コーヒーにはちょっとだけ拘りがある。豆も行きつけのコーヒー豆専門店に行って、自分でブレンドしたものを買って来ている。

中挽きに挽いてある粉をフィルターに入れて均一に均し、ポットでお湯を少しだけ注いで蒸らす。辺りにコーヒーの香りが立ち込めると俺は少しだけ幸せな気分になれる。そして何回かに分けて優しく注いでやる。オカンも俺のコーヒーが好きで、これが無いと朝が始まらないと言うほどだ。

俺はテーブルにコーヒーサーバーを運んで、オカンのカップに注いだ。

「はい、コーヒー」

「ああ、んまい。これが無いと朝が始まらんよなあ」

オカンが美味そうにコーヒーを飲むのを見て俺は微笑った。俺は、自分のカップにもコーヒーを注いだ。オカンはコーヒーをもう一口飲むと俺の方を見た。

「あんた、コーヒー屋をすりゃあええのにな」

「ええけど、今の会社辞めることになるで」

「そりゃあ、まじいな。阪本さんの顔を潰すことになるわ。あんた、簡単に辞めたら堪えんで」

いつもながら、オカンの言うことは意味が解らない。

「言ってきたの、自分じゃし」

オカンが睨み付けてきたので、俺は目を逸らして慌てて朝食を食べ始めた。

「おもしれえの無ぇなあ」

オカンはイライラとチャンネルを変えた。

「朝はニュースしかねかろう。いつものテレビでええが」

俺は、オカンが落ち着きなくテレビのチャンネルを変えていくのが嫌だった。折角見ていたニュースも途中で分からなくなる。

オカンは諦めたのか、いつもの番組に変えて、リモコンをテーブルに置いた。

「最近、北朝鮮のミサイルしかしとらんなぁ」

「お母さん、コーヒーばぁ飲まんと朝ごはんもちゃんと食べねぇ」

「ん? うん、後でな」

オカンは空返事をして、視線はテレビから外さなかった。

「なあ、もしミサイルが落ちたらどうする?」

「知らんけど、落ちたらどうしょうもねぇし」

「まあ、そうなんじゃけどなぁ」

オカンが珍しく神妙な顔つきをしている。

「この間会社の人から聞いたんじゃけどな、北朝鮮と韓国が同盟を結んで日本に向けて五発の核ミサイルを準備するかもしれんのんじゃって」

「お母さん、それ小説の話じゃけぇ」

「そんなん知っとるわ。それで映画化したんじゃろ。でも、最近もSNSとかで韓国人も日本に向けて撃てばええとか言いよるらしいが」

「まあ、そうかもしれんけど、韓国と日本って凄え近けぇんで。そんなんしたら、韓国だって放射能汚染は免れんじゃろし、日本にも結構な人数の韓国人も来とんで。簡単には出来まあ。それに、アメリカは北朝鮮と戦争したくてしょうがねえんで? 世論が許さんから出来んだけで、撃ってきたら大義名分が出来たって戦争になるんで? 北朝鮮の考えは知らんけど、韓国はアメリカと戦争するほど馬鹿じゃねかろう」

「それでも分かるまぁ。韓国と北朝鮮には、中国って後ろ盾もあるんじゃけぇ」

「まあ、それはそうかもな」

「ほれ見ねぇ」

オカンは得意気に笑っているが、朝の忙しいときにこんな妄想話に付き合うのは面倒だ。

「じゃけぇ、ミサイル撃って来るかもしれんが、ほんならどうしょうかと思うじゃろ」

俺はコーヒーを一口飲んだ。

「撃って来んじゃろ」

本当に朝っぱらから、どうでもいい話をしてくる。もう会社に行かないとヤバイ。

「あんたなあ、さっき私が言った事忘れたん? 韓国と北朝鮮が…」

「ごめん、もう遅刻するけぇ行くわ」

俺は洗面所に歯磨きをしに行った。

すかさずオカンが苛立った声で叫んできた。

「あんたん所(とこ)に撃ってきても知らんけぇな」

「いや、俺ん所(とこ)に撃ってきたら自分も一緒じゃけぇ」

俺はオカンに聞こえないように突っ込みを入れて、歯を磨いた。

「ほんじゃあ、行って来るけぇ」

「あんたなあ、お母さんの話をちゃんと聞かんとおえんで」

オカンは立ち上がって俺を睨みつけてきた。

「分かった分かった、帰って聞くけぇ。遅刻したら阪本さんの顔を潰すし」

阪本さんの名前が出てきたらオカンも引き下がるしかない。

「ほんなら、帰ってからな。早よ行きねぇ」

「分かった。行ってくる」

俺は急いで靴を履いて車まで小走りで向かった。

俺の会社では基本的に現場に直行し、一日の仕事が終わったら夕方に事務所に行って、事務処理をして帰宅と言うスタイルだ。


夕方、一日の仕事が終わり、事務所に戻った俺は事務処理をしながら憂鬱な気分だった。

「ああ、面倒(めんど)くせぇ……、帰ったらまたオカンの相手をせにゃおえんわ。」

事務処理を終えると俺は阪本さんに挨拶をして車に向かった。気乗りしないが真っすぐ家に帰るしかない。

「ただいま……」

「おかえり、おっちゃん来(き)とるで」

「マジで! ラッキー」

 おっちゃんはオカンの兄貴でオカンもおっちゃんの前ではまあまあ大人しい。

「あん? あんた今朝の続きはこれからやるけぇな」

「もうええが、おっちゃん来とるんじゃろ」

 流石オカン、俺の気持ちはバレバレの様だ。

「おっちゃん、いらっしゃい」

「おお、お疲れさん。仕事は調子ええか? 」

「まあまあじゃな、それよりどしたん? 珍しいが」

「おぅ、近所の人からキムチを大量に貰ったけぇ、おすそ分けじゃ」

「そうなん? すげえあるなあ」

「お兄ちゃん、今日食べてく?」

「ん? そうじゃな」

 オカンが野菜と肉とキムチを適当に入れたキムチ鍋を作った。

「この暑い日にキムチ鍋? あり得まあ。おっちゃんが来とんのに、なんでこんな適当なん?」

「うるせぇなぁ、だったらあんたが作りゃええじゃろ」

「おっちゃん、ごめんな、こんなんで」

 俺は鍋を運びながら、おっちゃんに声をかけた。

「十分豪勢じゃん、チーズあるか? ブデチゲっぽくなってうめぇで」

おっちゃんは優しい。オカンはおっちゃん怖いって言うけど、ご飯でも何でもおっちゃんが文句を言ったのを俺は聞いたことがない。

「おっちゃん、やっぱり優しいわ」

「翔太、それは勘違いじゃけぇ、おっちゃんは適当なだけじゃ」

オカンが茶碗を持ってきて

「はい、文句言わずに食べねぇ」

と言って、茶碗をガチャンとテーブルに置いた。本当に雑だ。

「それより、あんた、今朝の話じゃけどなあ……」

 来た、まただ。こうなった時のオカンは本当にしつこい。

「ん? どうしたん? 親子喧嘩?」

「お兄ちゃん、聞いてぇや、翔太がな、韓国と北朝鮮が同盟してミサイル撃って来るやこ無(ね)ぇって言うんで?」

本当に面倒だ。折角おっちゃんが来ているのに。

「そう簡単には撃って来(こ)れんって」

「あんたには聞いてねぇわ。お兄ちゃんどう思う? ほんまに撃って来(こ)ん思う?」

「さあなぁ、絶対に撃って来(こ)んとは言えんじゃろうけどな……」

「ほれ、みねぇ。おっちゃんだって撃って来るかも知(し)れんって思っとるじゃろ」

 俺だって、絶対撃って来ないとは思ってないけど、小説みたいには撃って来ないと言いたかったのだが、面倒なので言うのを止めた。

「でもな、韓国と北朝鮮が共同してミサイルを撃って来るって可能性は低(ひき)ぃんじゃねぇんか?」

 おっちゃん、ナイス! まさしく俺が言いたかったのはそれだよ。

「じゃろ? そんな小説みたいな話は無(ね)ぇわ」

「ほんでも分かるまあ」

 オカンは思い込んだら曲げない。

「どうでもええが。どうせ撃って来ても何も出来んのじゃけぇ」

「あんたなあ、撃ってきたら死ぬかも知(し)れんのんで?」

「そりゃそうじゃけど、でもここで考えても何も出来んじゃろ」

「そんなこと無(ね)かろう? J―ALARTが鳴ったらどこに逃げようとか何か考えられるじゃろ?」

「どこに逃げるんで? 逃げる場所なんかねぇが」

「だから、それを考えるんじゃろ?」

本当に面倒くさい、折角おっちゃんが来ているのだからもっと楽しい話をすればいいのに。

「まあ、でも流石に核ミサイルは無(ね)ぇじゃろうな」

おっちゃんが鍋をつつきながら口を挟んでくれた。助かった。

「そうなん?」

 オカンが不服そうにおっちゃんに言った。

「そりゃあ、100%無(ね)ぇとは言えんけど、もし、北朝鮮と韓国が組んで核ミサイルを撃って来たら、少なくとも戦争にはなるじゃろ?」

「じゃろうな」

オカンは得意げに答えた。

「じゃあ、その時の戦場はどこじゃあ思う?」

「そりゃあ、日本じゃねん?」

 オカンは当たり前だと言わんばかりに答えた。

「そりゃあどうじゃろ? 核ミサイル五発でぇ? 放射能が蔓延しとる日本にわざわざ誰が来(く)りゃあ?」

「そりゃあ……」

「多分、アメリカは応戦するじゃろ。先ず、朝鮮半島が戦場になるじゃろうな」

「じゃろ? 俺もそう思うわ」

 オカンが俺を睨みつけてきた。

「あんたは分かっとらんじゃろ?」

「俺も今朝言うたじゃねぇ? 韓国はアメリカと戦争するほど馬鹿じゃねぇって」

「まあまあ、ここで親子戦争も止(や)めぇや」

おっちゃんは笑いながら、オカンの器に肉を入れた。オカンは黙って肉を食べた。

「最近のニュースを見よったら、韓国は北朝鮮を刺激しないように気い使(つこ)うとる気がするわ。やっぱり自国が戦場になるのは誰でも嫌じゃけぇなあ」

おっちゃんは俺の器にも肉を入れてくれた。

「でもな、翔太、隆子が言うのも間違っとる訳じゃねぇと思うで。世の中100%は無(ね)えけぇな」

「オカンの言う事?」

「SNSの普及で世論が右往左往されとるのはお前も感じとるじゃろうけど、政治は世論で決まるって言う人らぁもおるけど、多分、政治が世論を操作しとる気がするわ。煽動じゃあねぇけど、誰がどんなことを考えとるか分からんのじゃけぇ、どうなるかなんてはっきり分からんじゃろう」

「じゃろ? 私が言いよんのはそういう事よ」

「うわっ! ビックリした。オカン、いきなり叫ばんでや」

 俺はオカンがなんでこんなに真剣になっているのかよく分からない。分からないけど……。

「でもな、おっちゃん。じゃけえ言うて何も出来んじゃろ?」

「そうじゃなあ、何ができるってわけじゃねえけど、選挙の一票の真似事くらいは出来るんじゃねえんか?」

「どういう事?」

「SNSとか?」

「SNS?」

「お前もラインやツイッターくらいはやっとるじゃろ?」

「まあ、ツレと連絡とったり、投稿とか見とるくれぇだけじゃけどな」

「うん、そこで自分の考えを発信するくらいは出来るんじゃねぇんか?」

「そりゃあそうじゃろうけど、誰も見まあ、俺のなんか」

「まあ、確かに友達が多いとか、フォロワーが多い人の方が注目されるじゃろうけど、気になる発言があれば無名の人の投稿でもどんどんシェアされることもあるじゃろう?」

「ほんでも、何を発言すりゃええんで?」

「さっき隆子が言ったじゃろ? それを考えるんじゃねぇか」

「でも、ほんまにミサイル撃って来られたら、どうしようもねぇじゃろ?」

「確かに一昔前ならどうしようもなかったかもしれんけど、今は迎撃システムまで配置するようになったじゃろ?」

「まあ確かにな、でも核ミサイル迎撃したらヤベぇんじゃねぇ?」

「最悪じゃろうな。空中で核爆発が起きて広範囲で放射能汚染が広がるじゃろうしな」

「じゃあ、迎撃も出来んが」

 おっちゃんは黙って鍋にとろけるスライスチーズを入れた。そしてチーズでキムチと肉を包んで

「例えばじゃけどな、このチーズみたいにミサイルを包んで回収して処分するとかの」

「そんなんどうやってやるん?」

おっちゃんは得意げな顔でそのチーズ包みキムチ肉を食べた。

「あんたは知らんじゃろうけど、おっちゃんは頭ええんで」

 なぜかオカンの方が得意げな顔をしている。

「そりゃあ知っとるけど、おっちゃんどうやるんで?」

「そりゃあな……」

俺とオカンはおっちゃんに注目した。

「知らん」

「なんじゃあ、知らんのんじゃが」

「まあな、でも、知らんでも、そんなんは専門家が考えりゃあええけぇ」

「日本中の人間、場合によっては世界中の人間が色々な考えを発信するじゃろ? そうして、その中の誰かの考えや発想に専門家が注目して仕組みを考えりゃあええと思うで」

 おっちゃんは肉を5つ鍋に並べて上からまたチーズをかけた。チーズはみるみる内に溶けて肉を包んだ。

「例えば、俺がその韓国の小説に対抗してその五発の核ミサイルを迎撃ではなく回収してしまう小説を書いたとして、それがSNSで注目されたとしたらどう思う? そして、それが映画化されたら?」

俺はちょっと考えた。するとオカンがにやにやして

「そりゃ、印税たっぷり入るなあ? お兄ちゃん書きねぇ、ほんでお小遣いちょうでぇや」

「そりゃあ印税の額によるけどな」

「おっちゃん、そんな話に真面目に答えんでええわ」

「あんたまた、お母さんを馬鹿にしとろう、堪(こら)えんでぇ」

「翔太はどう思うんで?」

 おっちゃんがすかさずフォローしてくれた。

「そうじゃ、あんた何も意見だしてねぇのに文句だけ言わんでええわ」

「俺は、そんなデリケートな政治的話題を小説で出して、おっちゃんが非難を浴びるかどうか心配じゃ」

「お前は優しいのぅ、まあ、その話は兎も角としてもじゃ、もしかしたら、この発想に興味を持った専門家が俺の肉回収チーズパックシステムを実現してくれるかもしれんじゃろ?」

「いや、それただ美味そうなだけじゃし」

「まあ、ネーミングは兎も角、そういう防衛システムを考えて実現してくれる人もおるかもしれんし、逆に韓国側からするとそういうシステムがあったらミサイルの効果が無ぇし、戦争が起きるから撃つのを止めようって思うかもしれんじゃろ? 仮に、専門家からしたら実はしょうもねぇシステムでも世論が恐れるかもしれんじゃろ?」

 おっちゃんはやっぱり凄い。なんか適当に生きているのに、色々考えてる様なところもあるし、まあ何よりおっちゃんと話すのは面白い。

「おっちゃんがその小説書いたらええが」

「そうじゃなぁ、まあおっちゃんは、文才は無(ね)ぇけぇ無理じゃなぁ、適当に喋ったことを誰かが書いてくれりゃあええわ」

「お兄ちゃんはほんまに適当じゃなぁ。私はもう、鍋もこの話もお腹いっぱいじゃわ」

 オカンはビールを飲み干すと、リビングのソファへ寝転がった。

 おっちゃんの話は兎も角、今日帰ってきて面倒な話になる筈だったのが笑い話になってくれて良かった。

 おっちゃんがうちの親子戦争を回避してくれたんだな、ついでに北朝鮮の戦争も止めてくれればいいのに。


「じゃあ、帰るわ、ごちそうさん」

「お兄ちゃん、ありがとう、ほんなぁな」

 俺はおっちゃんを玄関まで見送った。おっちゃんは真剣な表情で俺をみて

「翔太、さっきはあんな話したけどな?韓国行ってみ?韓国人が悪(わり)ぃって考えは消えると思うで?日本人にもいい人もおりゃあ悪(わり)ぃ人もおるようにどこの国も同(おんな)じじゃあ思うで。韓国人の誰かが書いた意見かもしれんけど、政治的操作かもしれんじゃろ?」

おっちゃんは俺の頭を軽くポンっと叩いて

「翔太、周りに流されたり、他人任せにせんで自分で考えて、出来ることをやるってことが大事じゃあ思うで」

 と言って笑った。


 おっちゃんを見送った後、俺は、リビングで寝転がってるオカンを横目に鍋の後片づけをしながらおっちゃんの言葉を思い出していた。

「おっちゃん、俺の心読めたんかなぁ」


 了

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キムチ鍋 石川宰 @tsukasa-i

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