巻き込まれた存在

「まさか、これほどとは・・・」

 私の名前は、サーシャです。17歳の現在は冒険者です。加護は聖女と言って、回復魔法が得意になる物でした。

 教会で育ち、教会のためになる様の育てられました。

 回復魔法で、日々人々を癒していました。

 先日、冒険者ギルドからの依頼で、勇者パーティに加入する事になりました。将来に備えて、加護の強い物を集めるという話でした。

 勇者の加護は、とても貴重ですが、現時点で数人存在しているそうです。

 今回の勇者は、賢者という知恵者と幼馴染で、ギルド期待の新人という話でした。ただ、勇者の特徴として、おだてに弱く、早死にしやすい傾向にあると、教会では教わっていました。

 私の役目は、勇者の行動を抑える事でしたが、知らない間に私も勇者に取り込まれていたみたいです。今思えば、色々と不自然な部分があります。

 何かされたと言っても、後の祭り。パーティは壊滅、勇者と賢者は死亡。

 このまま帰れば、私も何かの処罰があるかもしれません。

 それは確かに嫌ですが、それよりも怖い事があります。


「こちらにどうぞ」

 目の前を、ふよふよと浮かんでいた光の塊から、声が聞こえました。

「あ、ありがとうございます」

「ごゆっくり、お休みください」

 そう言うと、光の塊は消えてしまいました。この屋敷の、管理精霊だそうです。この屋敷の持ち主が、私を案内する為に、用意した存在です。

 戦女神様の使途。この世界の上位紳の使途様なので、御無礼があってはいけません。使途様に仕えるというのは、教会で働く人間にとっては憧れでした。

 今でも、怖れ敬う気持ちはあります。ふわふわと、現実離れした高揚感が残っています。

 ただ、それ以上に怖いという感情があります。屋敷の中には、神様の気配というか、ぴりぴりとした空気が充満しています。

 この世界の神である、エメラルダ様が降臨された事も、驚きです。使途様との会話が、とても怖かったです。人の命の価値観が、根底からちがう気がしました。

 頭では、理解できるように努力しようとしましたが、嫌悪感の方が勝ってしまいました。

 それに気づいた使途様が、私に休むように言いました。ついでに、レンの様子を見て欲しいと言われた時、嫉妬のような気持ちが浮かんでしまいました。

 使途様に、心配されて羨ましいと、私は少しおかしくなってしまったのかもしれません。

「私が、苦労しているのに、この娘は・・・」

 案内された部屋の中で、レンはのん気に寝ています。この子とは、親しくありません。正直、見下していました。厄介な役立たずと思い込んでいました。この感情、正直不思議です。この子を見ていると、何となくイライラしていました。

 今、改めて見るとそんな気持ちはありません。加護を受けて、1年と聞いています。私よりも小さい子なので、本来なら保護する対象です。加護によって、不当な扱いを受けている子を、教会は保護しています。私のいた教会でも、何人かそう言う子供はいました。

「こんな状況で、良く寝れますね・・・」

 この部屋の中も、使途様の影響か、ぴりぴりした空気が張り込めています。レンは、少しだらしない顔をしながら、熟睡しているようでした。

「図太い子なのかしら?」

何となく腹が立ったので、ほっぺたをつねろうとしたら、レンの目がこちらを睨んでいた。

「寝てなかったの?」

「今、目が覚めただけです。邪な気配を感じたので」

 その言葉を聞いて、私は気づいた。この子は強い、そして、怖い。使途様ほどではないけど、人よりも高い場所にいる。

「久しぶりの、睡眠なのに、邪魔しないでよ・・・」

 もぞもぞと、文句を良いながら布団から出てきたレンは全裸だった。

「裸で寝るのが趣味?」

「お風呂で寝てしまったみたいです。不覚」

「いつも、寝てないの?」

 先程の言葉に、少し違和感を感じました。

「怖い場所で、熟睡なんて出来ません。ここは、怖くない」

「怖い場所?」

 この子、かなり強いよね?それが、怖いと思う場所?

「多分、貴方にはわからない」

「そうかもね」

 色々と、聞きたい事、聞かなければいけないことがあると思う。

「貴方が戦えば、勇者は死ななかった?」

「私は、戦えない。そう言う風に出来ている」

「出来ているって、そんな事あるの?」

「あるから仕方ない。1人なら、生延びられた」

 この子は、嘘をいっているとは思えない。

 良く見ると、何となくやる気の無い目をしている。それ以外は、物凄くかわいい子だった。この子、ここまでの逸材でした?先程と、違いすぎます。

「そんなに、見つめないでください」

 照れながらいう姿は、開いてはいけない扉が開く寸前まで行きそうです。この子危険です。

「うぅ、少し冷えます」

「裸で寝るからです。着替えは無いのですか?」

「荷物、何処にあるの?」

「私は知りません」

「お嬢様の荷物は、主が預かっております。明日返却するとのことです」

「ありがとう」

「・・・」

 突然、目の前に管理精霊が出現しました。私は驚いているのに、この子は平然としています。納得いきません。

「お休みなさい」

 そう言うと、レンは大人しく布団に潜り込みます。

 私は、何かを言おうと思いましたが、止めました。出来なかったというべきです。何かしたら、どうなるか解るよね?と、無言の重圧を感じています。この屋敷、怖い存在だらけです。

「ゆっくり休めるのかな?」

 私が呟くと、管理精霊が出現します。

「対象に、精神負荷の兆しがあります。強制睡眠モードを使用します」

 それだけ告げられると、私の意識が途切れます。色々と、良いたいことがありますが、折角寝られるみたいなので、流れに流される事にします。

 お休みなさい。

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