使途となって旅をする

「これは、中々心に訴えるものがありますね・・・」

 入浴を楽しみ、再び気絶してしまったレンを寝かせた後、広間に行くと、待っていたのは豪華な食事でした。

 それも、なつかしの日本食です。ご飯と味噌汁だけでも、嬉しいのですが、他にも色々と山盛りになっています。

「これは、サーシャが?」

「はい、私は教会で育ちました。教会では、この食事は使途様の為のものと教わっていて、ずっと練習していました。使途様に、食べてもらえる日が来るとは、感激です」

 感極まる感じで、サーシャの瞳は潤んでいます。

「それで、ここまで準備しておいて、私に何をさせたいのかな?」

 色々と、準備してあったみたいです。教会を通じて、日本食を用意しておくとは、いつか私が来ることを予想していたのでしょう。

「レッド様に、お願いしたい事があります」

「私、ここに休暇で来たのだけど?」

「それは、承知しています。ですが、助けて欲しいのです・・・」

 エメラルダ、一応この世界の神だよね?それが私に頭を下げています。

「大体、私は、様とか呼ばれる立場の存在じゃないよ」

「レッド様は、そう呼ばれるだけの事をしていました」

 私のいう事を、エメラルダは否定します。

「あの世界、あの戦場で戦うことしか、私は出来なかった」

「そうかもしれませんが、私からすれば、それだけではありません。レッド様は、回りを気にして、色々と苦労されていました。私達は、それに甘えていたのです」

「それはちがう、私は、周りを利用していただけ。強く、より強くなる為に、効率を求め、見方の命を使ってでも這い上がっただけ」

 あの戦場では、転生の為の試練と割り切り、見方の命を弄んでいた時期もあります。その結果、色々と辛い思いをしました。

「今の私達に必要なのは、過酷な決断の出来る人です・・・」

「私達というと、他にも?」

「はい。この世界には、5柱の神がいます。細かく分ければ、もっと増えますが、基礎となっているのは5柱です」

「その中に、上司は?」

「含まれていません。あのお方は、高位紳です」

「5柱も神がいて、問題が起きたのかな?」

「大事にしすぎて、加護を誤りました」

「修正は?」

「直接の関与を禁じられました・・・」

「私にして欲しい事は?」

「これらの人物の抹殺、もしくは改善です」

 そう言って、エメラルダは一冊のノートを取り出します。

「死のノートですか?」

「うぅ、本当は、死んでほしくない子供たちです。先程の勇者だって、後々この世界で輝く素質あったのですよ・・・」

「それは、仕方ない。私の敵になったのが悪い」

「それは、承知しています。ぐっとこらえて、見送りました」

「つまり、あの場所に送ったのか?」

「この世界で死ねば、あの戦場に送られます。そう言う風に作られた世界です」

「なるほど・・・」

 ノートに軽く目を通します。色々と、問題のありそう人物から、何故この子がという子まで色々です。

「レンも殺して欲しいのかな?

 ノートには、レンの名前もありました。ちょっと、怒気を込めて睨みます。

「あのこの加護、捩れてしまいました。修正できないので、レッド様に面倒を見てもらいたいです」

「私が、ここに来なかったら?」

「ゴブリンに殺されています」

「運命を変えてしまったのかな?」

「あの時、レッド様がやって来たのは、戦女神様の配慮です。助かる事は、織り込み済だと思います」

「なるほど、このリストの人物、半分以上は死ぬけど良い?」

「半分ぐらいで、収めれませんか?」

「考えてみる」

「助かります」

 エメラルダと話しながら、食事も進んでいます。懐かしいご飯を食べて、気分は上昇しています。教会を通じて、色々と準備をしていたみたいです。この美味しいご飯に免じて、彼女の頼みを引き受けます。

「条件があります」

「何でしょう?」

「この子、補佐に貰っても良い?」

 ご飯を作ってくれたサーシャを指名します。

「うぅ、女のこになったとは言え、レッド様の隣に女の子を増やしたくないです。嫉妬で人が殺せたらと、先程から心の底で、なにやら危険な物が覚醒しそうです」

「仮にも、神になったのだから、そのような危険な思想は捨てなさい」

「うぅ、魂魄百万回滅せるほど、燃やし尽くしたい情熱を、どうすれば良いのです?」

「実行したらどうなるか、わかるよね?」

「うぅぃ、可愛いレッド様にそんな風に言われたら、何も出来ません」

「最近、あの世界で骨のある死者が減っているから、このリストは有効に活用させてもらいます」

「すみません、それは私達の落ち度です。加護を与えすぎて、大事にした結果、質が落ちました・・・」

「死後の世界のために、生きている人を狩りますね」

「お手数おかけします」

「確か、北欧神話に、迷える魂を、神々の戦いのためにスカウトする話がありましたよね?」

「戦乙女ですね。ヴァルキリーでしたっけ?」

「私は、迷える魂を探すのではないの。魂を狩る存在として、この世界を休暇をかねて旅します」

「では、ヴァルキリーではなく、キラーということで、ヴァルキラー?」

「必要なときは、そう名乗りましょう」

「にへへ」

 私が、それを受け入れたので、女神はだらしなく笑います。


 目の前で、神という存在と、その使途が、恐ろしい話をしています。

 サーシャは、後に色々と共に苦労するレンと出会った日の事を、後にこう語っています。

 神の使途、魂を集める為に、ヴァルキラー様が、光臨したと。


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