第6話命と体の洗濯

「さて、どうする?」

 ひれ伏している聖女に向かい、問いかけます。

「お許しください。女神様と敵対するつもりはありません・・・」

「私は、女神じゃないけど?」

「そのお姿は、女神様そのものです」

「エメラルダの姿とは違うよね?」

 出会った後輩の姿は、今の私の姿と違います。

「エメラルダ様ではなく、最上位の女神様です」

「会ったことあるの?」

「何度か、お告げを・・・」

「どんな?」

「やって来る、使途様の世話をするようにと、言われています」

「どんな使途が来るか、聞いてる?」

「私の同じ姿だけど、少し幼いと聞いています」

 そう言うと、私がどういう存在か、理解したみたいです。

「使途様ですか?」

「その役割は、否定したいけど、おそらく私がそれだとおもう。君は?」

「私は、サーシャと言います。聖女という加護を受けています」

「この荷物持ちとの関係は?」

 現在、彼女は気絶しています。ちょっと弱っていたので、休憩をさせる為に、こっそり電撃魔法で気絶させました。

「冒険者組合からの依頼で、一緒になったメンバーです。詳しい事は知りません。この子のせいで、仲間がみんな死にました・・・」

「でも、悪いのは君たちだよね?」

「そうかもしれませんが・・・」

 サーシャは、落ち込んでいる。

「そもそも、勇者って大事な存在じゃないの?」

 あんなお子様状態で、守る大人がいないのがおかしい。

「賢者も、育てれば、それなりの優秀だったよね?」

 あの状況で、レンの加護を逆手に取る発想は良かった。

「ギルドマスターが、私達なら大丈夫だと・・・」

 確かに、腕は良いかもしれないが、無謀すぎる。それほど、この世界は切羽詰った状況なのでしょうか?

 そもそも、現状私はこの世界の事を知りません。

「ギルドマスターについて、色々と聞きたいけど、その前に少し休みましょう」

 良く見れば、この子もボロボロです。街まで行くよりも、試してみたい事があります。

「接続」

 異次元にある、私の家に接続できるか試します。転移しただけなら、あの家はそのままあるはずです。

「開門」

 無事に、家に接続することができました。あの戦場では、功績によって色々な褒美がもらえます。

 最初のころ、生活拠点として家と交換しました。

 その後、自分で生活する事はほとんど無かったけど、管理する天使に任せて、色々と改築したはずです。

 天使たちは、今は誰もいないはずです。最後に転生した子から、長い間誰も使っていない。あの子を失った事、今思えばかなり衝撃だったということでしょう。

「これは?」

「私の、隠れ家かな?この子は私が運ぶから、貴方も来なさい」

「よろしいのですか?」

「問題ないけど、なんで貴方いるの?」

 家の中には、メイドがいました。先程あった、エメラルダです。

「懐かしい気配がしたから、来ちゃいました」

 女神となった彼女なら、一瞬でやって来る事は可能でしょう。彼女は、ここに住んでいた時期もあります。

「むぅ、仕方ありませんね。丁度良いので、お風呂の支度と、着替えの用意、ついでに食事の手配をお願いします」

「食事の用意じゃないのですか?」

 エメラルダは、悲しそうな顔をします。

「貴方に、それをお願いするほど、私は命知らずではありません」

「さすがは、先輩です。覚えていてくれたのですね」

「忘れるわけ、ありませんよ」

 鎧を脱ぎながら、エメラルダに言います。

「先に、着替えをください」

「お風呂は、すぐに入れます。過去にみんなで、永遠にすぐに入れる豪華露天風呂を用意していたのですよ。その様子ですと、使用しませんでしたね?」

「申し訳ない」

「その二人は?」

「一緒に連れていくよ?」

「仕方ありませんね。そっちの、聖女を借りても良いですか?」

「脅さない?」

「料理できそうだから、手を借ります」

「了解。簡単に洗って、その後手伝わせよう」

「ちょ、ちょっと待ってください。このお方、えっと、それに、私に何をさせようと?」

「その辺も、説明するから一緒にお風呂に行こうね」

「え、ちょっと、待ってください」

「待ちません。ほら、この子脱がすの手伝って」

 まだ気絶しているレンを抱えながら、風呂場に向かいます。この家、増改築を重ねて、屋敷と言ったほうが良いでしょう。なつかしの日本屋敷です。

 風呂も、豪華な露天風呂です。流石に、気絶したままだと危ないので、レンの意識を戻します。

 ふらふらしながらですが、全裸になると、慣れた手つきで風呂へと向かいます。

「うー、石鹸がありません」

 そこに、石鹸があるのが当たり前のような行動をしています。

「なるほど、ノーネームの1人でしたか・・・」

 あの世界で、ある程度成長すると上司から仮の名前を授かる事があります。そこまで生き残れなくても、見所のある子を何人か預かっていた時期があります。この屋敷の事を知っているとなると、このレンは、その中の1人でしょう。

 失った部下の事は覚えていますが、転生したらどうなるかはわかりません。この事は、縁があったのでしょう。

「はい、石鹸ですよ。折角なので、洗ってあげますね」

 彼女に、石鹸を渡しながら、頭にシャンプーをかけます。

「え?なに?」

 うつろだった意識が、はっきりしてきてみたいです。

「動いたら、危ないですよ」

 ごしごしと、頭を洗います。この子の髪、中々良い感じです。

「次は、貴方ですからね」

「私は、女神様の依頼があるので、お先に失礼します」

 サーシャは、あっという間に、入浴を終え、逃げるように出て行きました。色々と、惜しい気がしますがまだチャンスはあると思います。

「はい、動かないでね。次は、体を洗いますよ」

 状況を理解できず、なすがままになっているレンの体を洗います。細かい傷が多いです。洗いながら、治癒魔法で傷を消します。見落としがない様に、念入りに行います。

 全体的に、小柄ですが、それなりに鍛えられていているようです。

「痛いところはありませんか?」

「うぅぅ・・・」

「どうしました?」

「色々と、見られましたし触られた、揉まれた、お嫁にいけません・・・」

「女の子同士だから、良いじゃない」

「うぅぅ、なぜかそう思えない・・・。私、死んだのですか?何で上司様がいるのです?このお風呂も、レッドナイト様のお屋敷じゃないですか・・・」

「その辺は、食事をしながら話あうから、もう少しゆったりとしよう」

「うにゅぅ・・・。上司様が可愛い女の子になっています。これは夢ですか?」

「泡沫の夢かもしれませんね・・・」

 あの戦場の事をおもうと、少しの時間ですが癒されます。小さく震えている子猫みたいなレンを抱き寄せます。

 中々、得難い感覚です。あまりしたくありませんが、私の上司に感謝です。

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