第32話 逃走
「おい!侵入者の姿が無いぞ。」
米軍さんの呼びかけが、皆を現実に引き戻す。
救急車の方に気をとられている間に、逃げられたか。しかし、ジェイルが攻撃した方はダメージが大きいはずだぞ。
「血痕から、どのルートで逃げたか捜索してください。」
瞬一が指示を出す。が、追跡が出来る程相手が馬鹿な奴らじゃない事ぐらい分かっている。
「ちっ、面倒だな。」
瞬一は密かに悪態をついた。瞬一が危惧しているのはマギサのワイヤーソーである。近戦でも強力だし、遠隔操作も行えるワイヤーソーは、瞬一の苦手とする武器だった。
◇ マギサ&ズィミリド
「ふー。逃げ切りましたね。姉さん。」
ズィミリドが背後を確認して、安堵の息を吐く。
「おいてめえ、今度その呼び名を使ったら、敵地に放り込むぞ。」
ズィミリドの発言に対して、キレるマギサ。
「はい、すみません。」
マギサの目が、冗談ではなく真剣味を帯びていたので、萎縮して謝るズィミリド。
「てか、お前の手足は大丈夫なのか?」
確かに、ズィミリドの左腕と右足には、ジェイルによる弾丸が炸裂したはずだ。しかも、その後に弾丸を傷口から取り出していた。
「俺様の事ですか?大丈夫ですよ、神経が通っていないんで。」
ヒラヒラと左腕を振るズィミリド。正確には、神経が麻痺して機能していないのだが、どちみち反応しない神経は有っても無くても変わらなかった。
「そう言えばそうだったな。しかし、化膿するかもしれないから、一応消毒はしておけ。」
そうマギサは忠告する。マギサに神経が麻痺して機能していない感覚は理解出来ないが、神経が無くとも化膿するのは良くないと思ったからだろう。
「ところで、ボスにはどう報告しましょうか。」
不安そうに尋ねるズィミリド。
「ありのままを報告するしかないだろう。さっきだって観察されていたらしいし。」
ズィミリドと違って、冷静なマギサは言う。
「いたんですか?さっきの所に。」
「知らん。ただ、瞬一とかいうやつは気配とか視線っていうものに気付いたらしい。」
それに気付いたという事は、ジェイルの指を切った時にはもう起きていたのだろう。
いや、起きていたからジェイルの指を切れたのだろう。
「そうなんっすか。すげぇ、、じゃなくてやっぱり要注意人物ですね。俺様達の仲間もあいつにやられてますし。まぁ、俺様とあね、、、マギサさんはやられませんけど。」
姉さんと言いかけたズィミリドは、殺気立った視線、いや死線、いや糸線が一番似合うか。まぁ、その糸線の照準をズィミリドにロックされたのを確認したので止めざるをえなかった。
「有頂天になるんじゃない、だから死ぬんだよ。」
ズィミリドを叱りつける。ズィミリドはなかなかのお調子者だった。
「へい、あn、、マギサさん。」
またもや姉さんと呼びかけたズィミリドは、ギリギリの所で押しとどまった。
しかし、この2人はどのような関係なのだろうか?傍からみると、調子に乗る子供とそれを叱る母にも見えなくはない。まぁ、会話があれだが。
「さて、ルートAは危険そうだから、ルートBで行くよ。」
マギサ達は、本部への歩みを速めた。
◇
「戻りました、ゼロ様。」
マギサとズィミリドは、本部の奥間の扉の前で報告する。
「女神の
部屋の中から、若い男の声が返ってくる。
「
マギサが合言葉を答えると、少しして扉がゆっくりと開いた。
「ご苦労様。特に、あのジェイルとか言うガキの指を落とせたのは良かったよ。」
男は、振り返った後、部下に労いの言葉をかける。
中央の椅子に腰かけているのが、ゼロと言う者なのだろう。
「しかし、瞬一と言う者は相当危険な人物ですね。」
特に出番の無かったズィミリドが口を開く。
「ああ、そうだね。私の隠形に気付ける辺りが特に危険だ。しかも、頭が回り、戦闘でも強いとなると恐ろしいね。」
そう言っているわりには、ゼロは余裕そうに見える。
「もうすぐ米軍の奴らが攻めて来ますが、どう対応しましょうか?」
マギサの発言には、日本支部のようにやられてたまるかと言うような、熱意が伝わってくる。
「心配は要らないさ。女神の目覚めはもうすぐだ。」
ゼロは研究室の方角を向いて、恩恵を授かったかのように言った。
◇ ジェイル&剣誠&瞬一
「あー痛ってぇな。クソッ。」
一応、元に戻った指先を見つめながら、ジェイルも悪態をつく。
指はくっついたが、まだ神経や腱が繋がっていないので指が動かせないし、感覚も無い。しかし、幻肢痛のような痛みがずっと続いている。
「おーい、ジェイル。元気かー?」
ジェイルが痛みに対抗している中、呑気な声が廊下から聞こえてくる。
「こら、瞬一。病院なんだから静かにしなさい。」
続いてどっかの呑気さんを叱る高いトーンも響く。
一応、ジェイルの病室は個室だが、2人の声は控えめに言って騒がしかった。
「失礼しまーす。」
コンコンコンと3回のノック(2回はトイレのノックだ。)の後、瞬一とソフィアが顔を見せる。
「よう、剣誠はどうした?」
確かに、さっきから剣誠の姿を見ていない。
「あいつは、会議と修行らしい。」
瞬一は、曖昧な返事を返す。
「会議ならともかく、修行って何だ?あいつ、今からもっと強くなりてーのか?」
剣誠は、毎日素振りや型の確認などをしていたが、修行と呼べる程のレベルではなかった。
まぁ、過去に相当きつい修行というか荒行を山のようにいや、エベレストのように積んでいるのだが。
「いや、何か、お前が怪我した原因は自分にあるとか言ってな。それで、今は反省の鍛錬をしているらしい。」
剣誠の性格を考えると、そう考えるのは想像がつく。
「バッカじゃねーの。俺が不注意だったのが原因なのに。」
強い口調で突き放すジェイル。
「ジェイル、馬鹿は言い過ぎよ。剣誠は何でも1人せ抱え込んでしまうんだから。」
ジェイルの発言を批判するソフィア。
「そうだぞ、お前の事を一番心配していたんだから。」
そこに瞬一も乗る。
「わーってるよ。けどな、抱え込んだところで何も解決しないだろ。それに、一番心配していたんだったら、見舞いの方に来て欲しいんだけどな。」
最後の方は、少し照れたのか、声が小さくなる。
「やっぱ、1人で病室は寂しいもんな。」
すぐさま瞬一はジェイルをいじる。
「うるせーな。つーかお前は、会議を剣誠に任せていないで自分で行けよ。」
「・・・はい、すみません。だってめんどくさいんだもん。」
ジェイルに正論で反論され、言い訳をする瞬一。
「へいへい、言い訳は無しな。」
「ジェイルったら、瞬一に厳しいね。」
ソフィアも2人の会話に入る。
「まぁ、こいつが自分に甘いだけだろ。」
「確かに、よくそれで警察官になれたね。」
「やっぱ、あの警察手帳は偽物だったか。」
「書類とかまとめるの向いてなさそうだもんね。」
「勤務中にケーキ屋とか寄ってんじゃねーの。」
「確かに、やってそう。瞬一って甘いのに目がないからね。」
瞬一は、2人に痛いところを突かれ、しかも、どれも自分が悪いので反論もできずに倒れた。
「俺の精神ライフがもうゼロだぜ。」
瞬一は、いつしか言ったような台詞を吐いた。
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