第33話 行動

「ねぇ、花梨。まだ着かないの?」


アリサは、隣に座っている花梨へと言葉を投げかける。


「う~ん、あと半分くらい。」


いま2人がどこに座っているかというと、映画館の座席などではない。アメリカ行きの飛行機の座席だ。

現在地は太平洋の真上。


「まったく、瞬一のスマホはつながらないし、どこにいるのかしら。」


アリサはため息をつきながら、窓の外へ目を向ける。


「多分、現地に着けば、瞬一のGPS信号を拾える。」


今、花梨の手元に無いが、トランクの中にはパソコンや受信機など数々の機械類が入っている。

(本田さんのコネを借りて、持ち込んだ物だ。)


「私はソフィーの所を訪ねるけど、花梨も来る?」

「ん、大丈夫。ちょっと、クラッキングに準備がかかるから。」


一応言うが、クラッキングは犯罪だ。ハッキングなら花梨はホワイトハッカーと言えるが、クラッキングは明らかに犯罪だ。


「あ、そうなの。頑張って。」


クラッキングの意味を知らないアリサは、興味なさそうに返すが犯罪と知ったら止めるだろう。


「・・うに。」


◇ 一方の瞬一は


「ヘ、ヘクシュン。」


案の定、瞬一はくしゃみをしていた。


「お、誰かに噂されていますね。流石、人気者といったところでしょうか?」


剣誠は軽く笑いながらそう言う。


「ははは、悪目立ちすると良い事ないけどな。」


ちなみに瞬一は、誰が噂しているのかは予想がついていた。

しかし、噂していた当人たちが自分の後を追いかけているのは、知る由もなかった。


「それより、決行日までもうすぐですが、瞬一の準備は色々と整っていますか?」


決行日とは、ドミニオンの本部へ突入する日のことであって、明後日に迫っていた。

剣誠の言い方的に、荷物だけでなく、心の準備もというニュアンスが伝わってくる。


「ああ、ある程度はな。」


瞬一は正午過ぎの青空の下、生死も分からない妹に思いをはせた。

惨劇が待ち受けていようとも、望みがとても薄くても、一縷いちるの可能性を信じていた。


「...起きて、アリサ起きて。」


いつの間にか寝ていたアリサの肩を揺らし、起こす花梨。


「うにゃ、もう着いたの?」

「ん。てか、アリサが寝すぎ。」


花梨の短い言葉を翻訳(解釈)すると、アリサが長く寝ていただけで、着くまでの時間は長かったと言うことだ。


「え、嘘。だらしない寝顔していた?」


心配そうに尋ねるアリサ。


「してない。とても愛らしい寝顔だった。」


ニャッっと笑って言う花梨にアリサは、


「もう、花梨はいじわるなんだから。」


頬を膨らませて怒るポーズをする。


「さてと、着いたのは良いけど、ここはどこだ?」

「アリサ、1人で行かないで。スマホ置いてくと、電波拾えない。」


方向音痴なアリサを迷わせるとろくなことが無いのは花梨も充分に知っている。


「大丈夫だよ、あー、あそこのケーキ美味しそう。」

「言ったのに、、チップ埋めるよ。」


アリサがカフェに走って行くのを見て、ボソッと怖いことを言う花梨。

言葉足らずの花梨の言いたいことは、アリサが色々と変なところに行くため、アリサの身体にマイクロチップを埋めるぞと脅しているのである。


「やっと、着いた。」


花梨は、プリズマティック学院の前で、ふうっとため息を吐く

花梨の顔には疲労の様子が色濃く浮かんでいた。


「ふぃー。つかれたね。」

「・・・うん、アリサのせいで。」


アリサはあんまり疲れているようには見えなかったが、振り回された花梨からすると、相当の気疲れがたまっているのだろう。


「えっ、私なにかしたっけ?」


当の本人は、まるで身に覚えがないという反応をする。


「はぁ...。」


道中には、アリサが何回も迷子になったし、変な店に入るし、ナンパされるし、もう花梨にとっては、手に負えない子供の面倒をみているような感じだった。


「まぁ、とりあえず入ろっか。」

「・・・うに。」


「すみません、学院長を呼んで来てくれませんか?」


アリサは、職員玄関の窓口にそうお願いする。


「O.K.Just a moment please.」


英語で返されて、ここはアメリカなんだと再認識する花梨。


「ねぇ、あの人なんて言ったの?OKは分かったけど。」


花梨は英語が苦手なため、アルティミア学院でも数学と理科(情報理数科と電子工学科)ばかりに力を入れていて、一番出来ていないのは英語だった。


「『少々お待ち下さい。』って言うこと。」


アリサの回答を聞いて、納得する花梨が、何かを見つけたようにアリサの後ろを注視する。


「こんにちは、錦宮さん。」


アリサが振り向いた先には、キャサリンがいた。


「あ、こんにちは。キャサリン学院長。」

「こ、こんにちは。」


アリサに続いて花梨も挨拶をする。

最近は、花梨も人前で挨拶くらいは出来るようになってきた。


「そちらの方はどなたかしら?」


キャサリンは、アリサの後ろに居た花梨に気付き尋ねる。


「アルティミア学院の友達で、今は俊瑛高校のクラスメートです。」

「し、東雲 花梨です。」


アリサに続いて名前を述べる花梨。名前も自分が言おうと思っていたアリサは少し驚いた顔をしていた。


「あら、そうなの。よろしくね花梨さん。」

「よろしく、お願いします。」

「ところで、天河君もそうだったのだけど、あなた達は何故ここに来たの?」


いきなり3人も事前に何も言われていないのに訪れたのを不信に思っているのか、アリサ達に尋ねる。


「瞬一もここに来たのですか!?」


勢い余ってキャサリンに近づくアリサ。

花梨が制していなければ、掴みかかろうとしていた。


「ええ、ほんの2、3日前に。」


もう遅かったかと顔をしかめる花梨と、瞬一を探す手がかりがつかめたと喜ぶアリサ。


「じゃあ、ソフィア達は今ここにいますか?」


ここ、プリズマティックの学生だから当然いるだろうと踏んでいたアリサに、見当違いの返答がくる。


「いいえ、ジェイル君・剣誠君・ソフィアさんは欠席しています。」


「えっ!?何で。」

「天河君が来てすぐに、長期欠席届けが来ました。」


アリサは困惑していたが、花梨はすぐに気がついた。


「もう、準備が進んでいる。」

「どういうこと?」


花梨の呟きに、アリサは真意を尋ねる。


「戦いの火蓋がもうすぐ切られる。」

「瞬一が行動を起こすのね。」


しかも、そうとう大規模な。


「アリサ、ホテルに行ってくる。」


GPS信号から瞬一を追跡するために、花梨は急いでホテルへと向かった。


「アリサさん。何が起きているか分からないけど、気をつけて。」


心配そうにキャサリンは言った。


「はい、分かりました。」


アリサも自分のやるべきことのため、プリズマティック学園を去った。

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