第30話 遅刻
◇ ゴードミラスさん達米軍と瞬一・ジェイル・剣誠全員が集まって会議する日
「よぉ、剣誠。」
なるべく早くに出発したが、時間厳守に忠実な剣誠は俺より早くに到着したようだった。
集合場所は米軍の陸軍省の会議室だったが、1人でそこに行くのは心細いので3人で近くのパーキングエリアに集合してから会議室に行く予定となった。
近くのと言っても、陸軍省まで300mぐらいの距離があったが。しかも、会議室は陸軍省の20階にあるのだが、瞬一たちは知らない。
「おはようございます。瞬一。随分早く寄越しましたね。」
それを言うならお前もなっと思ったが、口にしないでおく。別に今日にだけではなく、いつも通り剣誠はこんな感じだったからだ。
ちなみに、剣誠よりも早く、約束した集合場所に着いた者は居ない。どれだけ早く出ようとも、何故か剣誠は先に着いているのだ。
「まぁ、俺のせいでみんなが集まることになったからな。俺が早く来ないと意味ないだろ。」
確かに、瞬一がドミニオンの本部に行く事になったから集まっているが、誰も瞬一のせいだとは思っていなかった。それは、剣誠も思ったらしく、
「大丈夫ですよ。僕も、そして皆様も『瞬一のせい』だなんて思っていませんから。それに、皆様は自分の意思で協力しているんですから、そんな負い目を瞬一が背負うことないですよ。」
「それもそうだな。他の人の意思を尊重しなきゃな。」
瞬一は、緊張を紛らわすためにか、冗談を言いながら笑っていた。
「にしてもジェイルは遅いですね。」
時計を何度も確認しつつ、ぼやくように言う剣誠。
「まぁ、いつもの事だろ。」
そう、ジェイルの遅刻癖は昔からの事で、入学式の時に遅れて体育館に入って来たときから知られている事だった。
しかし、
「ジェイルにだけ、2時間30分早く来るように連絡したのですが。」
そうすると、もう2時間30分近く遅れていることになる。
「だからか、俺が連絡したとき、『ジェイルの連絡は、僕にさせて下さい。』と言ったのは。」
それは、瞬一がゴードミラスさんとの話の後、次の会議の連絡を忘れない内にと、剣誠に集合場所と時間を伝えた時、剣誠がいきなりそう言ったのだ。いつもと雰囲気が違った剣誠に驚いて理由を聞くと、『のちに分かる。』と言われて了承したのである。
「はい、瞬一がいない時に、重要な会議があったのですが、ジェイルは3時間の遅刻をしまして会議が出来ませんでした。と言う話が過去にあったものでして。」
3時間の遅刻となると、もはや遅刻とも呼べないかもしれない。と言うレベルの遅刻をした過去がジェイルにはあるらしい。
前科ありって事だな。
「最悪の場合、ジェイルを置いて会議室に向かうか。多分、15分前くらいから移動しないと間に合わないし。」
会議を優先し、友を見捨てる瞬一。
それに対し、剣誠は、
「駄目ですよ、瞬一。ジェイルは友達でしょう。ヨハネの
なんか、カッコいいな。ヨハネの福音書って響きが。
じゃなくて、よくそんな事知ってんな。でも、なくて、何で遅刻の話から、生命を賭けることになったんだ?
「まぁ、しかし。会議の方も重要なので、10分前には出発しましょうか。」
剣誠は、なかなかギリギリな時間を提案する。
「まぁ、良いか。走ればギリギリ間に合うし、そもそもそれまでにジェイルが来れば良い事だし。」
瞬一が時計を見ると、限界の刻限まであと20分を刻んだところだった。
特に話す事も無く、つかの間空間が出来る。しかし、その時間は静寂に包まれていたわけではなく、周りの
「多分、来ると思いますが。万が一はしょうがないですね。」
ずいぶん前から諦め始める剣誠。
「諦めるの早いな。お前らしくないぞ。」
その事は瞬一も思ったらしく、声に出す。
それに対し、剣誠は
「考えてみて下さい。もう、僕らが集まってから30分が経ちます。しかし、ジェイルは一向に来る様子がありません。」
剣誠が言いたいのは、ジェイルが遅刻時間記録を更新したと伝えたいらしい。
「じゃ、もうすぐ来るんじゃね?大幅に記録更新はしないだろ。」
瞬一が言いたいのは、もう限界突破しているからそんなに遅くはならないだろうという事だった。
「しかし、あと3分ですが、近くにジェイルの気配を感じませんよ。」
そう言えば、こいつも気配が分かるんだった。しかも、剣誠の気配察知の方が性能が良いし。
実際に、瞬一が気配を察知出来る範囲より、剣誠の気配察知の範囲の方が広かった。
まぁ、どちらも常人離れした化け物並みのステータスだが。
「あと15秒くらいになって来るさ。」
気楽に、楽天的にとらえる瞬一。
「そうだと良いですけど。」
「・・・・・」
忍耐力に長けた2人でも、残り1分を切ると、待ちきれなくなる。
「来ねーな。・・・置いていくか。」
「・・・・流石に、もう、置いていくしか。」
あと30秒。
「そうだな。」
瞬一は、腰かけていたベンチから立ち上がり、荷物をまとめ始める。
あと15秒。
「瞬一の予想が外れましたね。15秒を切りました。」
「もう、諦めるか。」
あと5秒にさしかかった
「あ、高速でこちらに向かってくる物体、いや生命体を察知しました。」
剣誠の気配察知に引っかかった者とは、ジェイルの事だろうか?
「どれどれ・・・・ホントだ。てか、めっちゃ速い。」
「法定速度なんて知ったことか。」とでも言いそうなぐらいのスピードだった。
あと-10秒。
高速移動している生命体が角にさしかかり、姿が見える。
「ワリィ、遅くなった。」
派手なスポーツバイクに乗ったジェイルがこっちに来る。
「おいおい、遅刻者が随分と派手な登場だな。」
「そうです。瞬一の言う通り。ちなみに、3時間17分10秒の遅刻です。」
秒まで計測してくる辺り、剣誠らしさが出ていた。
「お前、何してたんだよ。」
軽く
「いや、ちょっと重い荷物を運んでいるおばあちゃんを手伝ったり、怖いおにーさんに絡まれているレディを助けたりしていたのさ。」
もちろんこれは嘘である。しかし、少女ナイラの涙ように演技がかっていた。
「ところで、お前、
ジェイルの演技をスルーし、尋ねる瞬一。
「あー知らね。探せばあるんじゃね。」
何とも曖昧な返答だった。多分、持ってないのだろう。
てことは、免許不携帯運転・免許不所持運転として捕まるぞ。
ちなみに、アメリカも免許証取得は16歳以上で、日本よりも早くて試験も緩いそうだが、21歳未満は特別補講を受けるらしい。
「じゃあ、
「Legalspeed?知らねーよ。俺、English嫌いだし。」
おいおい、こいつやベーな。
と、瞬一とジェイルは呑気にしているが・・・・
「2人とも!何をしているんですか!」
瞬一が慌てて時計を見ると、
「-1分30秒、つまり会議開始まであと8分30秒。・・・・・ヤベェ。」
すぐさま、
「あ、それは、少し卑怯ですよ。」
そう言いながらも、剣誠は剣誠で特殊な歩法で空を蹴って瞬一を追いかけていた。
残ったジェイルは・・・
「免許ねーけど良いか。」
軽々しく道路交通法違反を犯していた。しかも、これから警察とも密接な陸軍のトップ、陸軍省に行くのに、また法定速度を無視したスピ-ドで走っていた。
◇
「はぁ、はぁ、疲れた。」
会議室の扉の前で、荒い呼吸をする瞬一。いや、瞬一だけではなく、剣誠も、そして何故かバイクに乗っていたジェイルも肩を大きく上下させていた。
「まさか、会議室が20階だとは思いませんでした。」
そう、どうにかしてたどり着いた瞬一たち一行だが、インフォメーションセンターに行って、場所を聞いた途端、愕然とした。20階に会議室があると聞いた時はまだ良かった。しかし、エレベーターが故障して階段しか使えないと聞いた瞬間、茫然とした。
ただでさえ、ダッシュでこっちに来ているのに、ここからまた急勾配な階段ダッシュをしなければならないと考えると、めまいがした。
しかし、どうにか力を振り絞って登り切り、今に至る。
「ともかく、もう中に入ろう。」
強制的に息を整えて、ドアノブに手をかける瞬一。
ジェイルも膝についていた手を離し、立ち上がる。
「
ドアをノックし、声をかける。
「
中から、ゴードミラスさんの声が返ってくる。やはり、瞬一たちは来るのが遅かったようだ。
瞬一はドアノブを回し、会議室に足を踏み入れる。
「やぁ、瞬一君。会議を始めようか。」
中には、70人近くの陸軍士官、兵士、上官たちが居た。
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