第4章 アメリカ本部編

第25話 渡米

「じゃあ、行ってくる。」


空港まで見送りに来てくれた2人に言う。


「うん、行ってらっしゃい。」 「ん、またね。」


言葉を交わすと、瞬一は後ろを振り返らずに進んでいった。

また、アリサと花梨も静かにその後ろ姿を見守っていた。


瞬一の乗った旅客機はアメリカに向けて飛び立っていった。


◇ 数日前

「あ、あの、天河隊長。」


ドミニオンの資料を閲覧していた時、言葉さんが呼んできた。


「はい。何でしょうか。」


見ていた資料をデスクに置き、言葉さんの方に向き直る。


「ひっ。」


目が合った言葉さんは怯えたように小さくなる。

あ、すみません。なんかこっちも傷ついたけど。


「あー、で何の用でしたか?」


落ち着いた頃合いを見計らって、再び尋ねる。


「ぁ、すみません。。。あ、で、結実さんのことで新たな発見があったのですが、き、聞きたいですか?ただ、良いお知らせではありません。」


最後の1文をいう時、顔に影がさす。

本当に良くない事なのだろう。どちらかと言うと、悪い知らせの部類だろう。


「はい、聞かせて下さい。妹の事から目を背けるのは兄失格ですから。」


当然聞きますとでも言うように答えていた。


「じゃあ、お気を悪くしないで下さい。結実さんのDNAとルナの雫ルナプトースィの作成に使われたとされる、人の体液のDNAが69.2%一致しました。」


つまり、それを作るために結実を使ったってわけか。非人道的すぎんだろ。てか、ふざけんな!あれだけの量を作ったとなると、結実が助かる可能性が低い。

悲しみなど無く、ただひたすらに怒りが沸き起こる。


「ま、まだ諦めるのは早いです。」


頑張って絞り出したような声だった。

瞬一も驚いて言葉さんの方に向く。


「重なった部分は69.2%で低いです。更に、結実さんのDNAデータは古いものです。また、これだけの量を作るには、細胞培養やクローンを作らなければいけません。となると、オリジナルである結実さんが生きている可能性は高いです。」


言葉さんは、真剣に話していた。さっきまで見ていたレポート用紙も置いて、ちゃんと瞬一の方に向いていた。


「分かりました。ありがとうございます。」


静かに瞬一は去っていった。


「アリサ、花梨。ちょっくらアメリカに行って来る。」

「は?」 「えっ?」


予想していた通り、2人とも硬直する。


「で、何しに行くのよ。」


硬化魔法から抜け出したアリサが尋ねる。


「いやー留学?」


適当にそんな事言ってみる。


「意味ないでしょ、、。」


呆れたように返された。

確かに英語は話せるが、意味はあるだろう。留学したことはあるけど、、、まぁ、アメリカに行ったことは何回もあるが、てか、住んでいたけど。


「まぁ、プリズマティック学院に遊びに行ってくる。」


プリズマティック学院とは、アルティミア学院の姉妹校である。アルティミアの方が歴史は長いが、プリズマティックの方が学力=偏差値は高い。なので、アルティミア学院 初等部からプリズマティックに行った学友も多い。また、姉妹校なので友好も深く、俺も交換留学生としてよく遊びに行ってた。


「あ、そうなの?じゃあ、ソフィアによろしくって言っといて。」

「はいはい、分かった。」


ソフィアとは、学院で仲の良かった、、、かな?ともかく、よくつるんでいた3人組の1人である。

うん、金持ちのお嬢様。ソフィアの父が米軍の偉い人なんだよな。


「あと、ジェイルと悪ふざけしないでね。」


釘を刺すように忠告するアリサ。まったく、俺はガキじゃねーぞ。

ジェイルは俺たちが小さい頃、良く一緒に遊んでいた。3人組のもう1人。あいつはアルティミア学院に居たため、毎日のように遊び呆けていた。よく学院長に怒られたな。


「じゃ、明日に出発するから。」


「早っ。」 「あ、明日!」


まぁ、こちらには目的があるからな。


「じゃーな。」


当惑している2人を置いて、瞬一は去っていった。




「ねぇ、花梨。」


瞬一が居なくなったのを確認すると、アリサが口を開く。


「何? 瞬一の事?」

「そ、絶対何か隠しているわ。」

「うん、分かる。ちょっと挙動が不自然だった。」


2人は瞬一の事を念入りに観察しているため、少しの変化に敏感に気付いたのである。


「結実ちゃんの事かな?多分、、」


花梨がニアイコールでは無く、いきなり核心を突いていた。


「わかんないけど、〈蓋世〉に相談してみる?」


多分、なっちゃんなら勘付いているかもしれないと思った判断だった。


「うーん、、まず、玄璽さん?」


確かに、瞬一の家族に相談する方が手っ取り早い。


「じゃ、明後日あたりに行ってみる?天河道場。」


その単語を出すだけで、剣呑とした雰囲気になる。


「うん。」



この後、あれほどの大事になろうとは、誰も知らなかった。

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