第18話 変況

◇久々の登校日


予期していたが、やはり視線を浴びる。


「はぁー。ミスった、マジでミスった。」


何故あんな事をしてしまったのだろう。注目を浴びるのは嫌いなのに。


色々と思案している内に学校に着いた。


「ん?」


下駄箱が思うように開かない。何かがつっかえているようだ。


力ずくで開けた瞬間、ドバァーと大量の便箋やら手紙が出てきた。


「なんだこれ?新手のドッキリか。それとも嫌がらせか?」


状況を理解していない瞬一。

拾っている便箋の止め口に貼っていた、ハートのシールを見た時やっと理解した。


「これ全部がラブレター?」


周囲にいた男子の視線がに変わって来たので、急いで教室に非難する。



階段を上り、教室の前に立つ。


「はぁー、憂鬱だわ。」


覚悟を決めて、教室に入る。


扉を開けると、皆の視線が集まる。


「お、ヒーローのお出ましだ!」


亮太がそう言うと、自然と拍手が起きる。


おいおい。こういうのは俺の嗜好に合わないんだが。


「やめろって。恥ずかしいだろ。」

「いやー。俺らの英雄様だぞ、お前。女子からも人気者になってたぞ。」

「あーあ。終わった、人生。」

「女子にモテて残念に思っているの、お前だけだぞ。世界中で。」


右手に抱えたラブレターをちらりと一瞥する。


「何持っているんだ?瞬一。」


目ざとく亮太が気づく。


「おい、それってもしかして、」

「なんだろうな。」

「俗に言う。ら、ラヴレターってやつか!?」


妙にネイティブに発音した。


「まさかな。そんなわけねぇよ。」

「誤魔化すなよ。絶対ラヴレターだろ。」

「だって俺だぜ、絶対貰えないだろ。」

「あーこいつ話が通じない。鈍感だな。」


なんだと、気配などには敏感なのに。なにが鈍感だって言うんだ?

でも、颯太にも同じことを言われた気がする。


「でも、こんなに貰ったところで返すのが大変なんだよな。」

「は、面倒だって言うのか?おい。」


亮太が軽くキレる


「ちがうよ。断るこっちもつらいって事だよ。」

「まだ中身を見ていないのに断るのかよ。モテる男はもう彼女でもいるのか?」


皮肉そうに言う亮太。


「いや、居ない。居たこともない。年齢=彼女居ない歴。」

「嘘だろ。マジで?」


実際には、瞬一は告白されたことはあったが、彼女と言う存在がいたことは無かった。


「正真正銘のホントの本当。」


3回続けて肯定する。


「そう言うと、嘘くさいな。」

「まあ、それはいいとして、本題はどう断るかだな。」


話題が脱線しかけていたのを、無理矢理戻す。


「錦宮さんか東雲さんに彼女役頼めば?」

「それは最後の手段だな。」


多分、2人は手伝ってくれるだろうが、余計な噂が立つだろうし、2人に迷惑をかけてしまう。


「じゃあ、普通に断ればよくね?」

「それだと相手が傷つくだろ。」

「断るという選択をした時点で、相手が傷つく事は必然となるだろ。」

「俺は白黒つけるのが嫌いなんだよ。だから、いつもグレーで曖昧に終わらせたい。」


瞬一は遠くの空を見つめて、ぼんやりと言った。


「おいおい。それじゃ逃げているのと変わらないだろ。相手だって勇気を出してお前に送ったんだぜ。だったら、ちゃんと向き合わなきゃダメだろ。」


亮太にしては珍しく熱く語っていた。

だからこそ、瞬一にもその気持ちが伝わったのだろう。


「分かったよ。ちゃんと断ってくるよ。」


時間がかかるけどな、、、

手にした便箋に目を落してそう思った。



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