第13話 来客

「以上で報告は終わり。みんなお疲れ様。」


夏稀さんが労いねぎらいの言葉をかける。

しかし、男性陣の怪我は痛々しいままだった。金剛さんは肋骨にヒビが入り、柳さんは、全身の打撲と頭部の損傷(記憶障害は無かった)。さらに、瞬一は左腕の粉砕骨折及び、背中の打撲。制圧したとは言え、あまり気分の良いものでは無かった。


「あと、結実ちゃんの手掛かりについては捜索中よ。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「じゃあ、このあとは特に活動が無いから、しっかりと休養してね。」


〈蓋世〉の活動報告を終了し、本庁を出た。


「瞬一。大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。柳さんの方が重体だしな。」

「ん。無理しないで。」

「分かったよ。気を付けるから、ほら泣くなって。」


花梨の目には、大粒の涙が輝いていた。


「うん。気をつけて、約束だから。」

「了解。」



「これから瞬一はどうするの?」


落ち着いた花梨が聞いてきた。


「強くならなきゃいけないから、爺ちゃんの所に行って修行でもしてくるか。面倒くさいけど。」

「その腕じゃ無理でしょ。しっかりと休養して。」

「言われてみればそうだったな。のんびりとするか。」


「そう言えば、瞬一の家行きたい。」


唐突に花梨が言い出す。


「ん、ああ。そんな約束していたな。行くんだったら、アリサも誘うか。」

「む、いいよ。瞬一が言うなら。」


しかめっ面をしながらも了承してくれた。

それにしても、アリサと花梨って仲悪かったっけ?


「実家じゃなくて、俺の住まいだな。マンションだけど。」

「うん。そっちがいい。」


実際、アリサは実家に来た事があるんだけどな。あの頃は壊れてたけど。

あんな事も今では思い出として、過去の話になっている。


「じゃ、ちょっと待ってくれ。」

「ん。」


スマートフォンという文明の利器を取り出して、アリサに電話をかける。


「もしもし、アリサ。」

「もしもし。どうしたの?」

「ちょっと今暇か?」

「うん、大丈夫だよ。」

「今、花梨と一緒に居るんだが、なんか俺の家に行く事になってな、アリサも来るかって連絡してみたんだ。」

「え!家行っていいの?」

「うん。だから連絡したんだけど。」

「なら行くよ。どこに行けば良い?すぐ行くよ。」

「そんな急がなくて良いぞ。1日の長さは平等だ。」

「何それ?面白くないよ。」


そう言いながら笑っていないか、アリサ。


「じゃあ、学校近くの駅まで来てくれ。」


颯太との待ち合わせ場所にも使った場所にする。


「分かった。ちょっと待っててね。」

「こっちも時間かかるから、急がなくて良いからな。」

「はいはーい。」


通話を終えたら、すぐに指摘が飛んできた。


「1日の長さは、平等とは言えない。地球は球形であるため、日の出にもタイムラグが起こるし、自転と公転によって時差も生まれる。また、1日の長さは正確には24時間では無く、24時間と約59秒である。」


コンピューターモードの花梨先生による、雑学教室が展開されていた。


「はい、ありがとうございます。とても勉強になりました。」


ちなみに、1日が24時間じゃないのは、初耳だった。


「じゃ、俺らも駅に向かうぞ。」


「おーい。瞬一。」


駅前広場に出ると、アリサが手を振って呼んでいた。

まったく、目立つからやめてほしいものだ。


「悪いなアリサ、待ったか?」

「ううん。今来たところ。」


テンプレの台詞を言うが、俺たちは恋人同士ではない。しかも、花梨居るし。


「あれ、瞬一どうしたの?」


アリサが俺の左腕を指して尋ねてくる。


「ああ、これか。爺ちゃんの発頸はっけいをくらった時にポキリとな。」


ちなみに、まだ〈蓋世〉の事はアリサに言わない事にした。これは、花梨とも話し合って決めたことだ。


「大丈夫?痛くない。」


心配そうに尋ねてくる。随分と親身になってくれているな。

あの時だってそう、、、


「ああ、もう治りかけているし。」


俺がそう言うと、後ろで驚愕きょうがくの表情を浮かべている花梨がいた。

そりゃそうだ。折れてから1日も経ってないし。昔から治りが速いって言われてたな。


「なら。大丈夫ね。早く瞬一の家に行きましょ。」

「そうだな、ここで話すのも目を引くし。」

「瞬一は変な所にこだわるよね。」

「そうか?」

「確かに。」


続けて花梨も同意する。


「そんなにか?」


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1日の計算はうるう年が無かった場合の計算です。年に6時間余るそうです。

                        by ぽむむん

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