第12話 苦戦

「もしもしっ、緊急事態なの!」

「うわっと。夏稀さん、驚かさないで下さいよ。」


しかし、夏稀さんは逼迫ひっぱくしたような声色で続けた。


「それどころじゃないの。清雅君の連絡が途絶えたわ。」

「え、どういう事ですか?」

「まだ、余り分からないけど、『通話している余裕が無い』とか言って切れちゃたのよ。それからずっと連絡が途絶えているわ。」

「じゃあ、敵に捕まったとか。そう言う事ですか?」

「ええ、最悪の場合そうよ。」

「少し、状況が悪いですね。」

「ともかく。制御室がある、中心部に向かってくれる?金剛さんとも合流してね。」

「分かりました。」


「金剛さん。こっちに合流してくれますか?少し、状況が悪いくなりました。」


マイクをonにして、呼びかける。


「分かった。すぐに行く。」


こういう時に冷静で居られる金剛さんはすごいな。


「ありがとうございます。中心部付近で合流しましょう。」


「そっちはどうでしたか?こっちはあまり敵がいなかったです。」

「ああ、こっちもだ。」


やはり敵は一か所に固まっているのか?それとも逃げたのか?


「状況は聞いてます?夏稀さんから。」

「いや、マイクはこっちに繋がっていないんだ。」


やべ、そうだった。夏稀さんから言われていたけど、忘れていた。


「あ、すみません。じゃあ、簡単に説明すると、前を先行していた柳さんの連絡が途絶えたそうです。その為、連絡が最後にあった制御室付近の中心部を捜索するらしいです。」

「柳は大丈夫なのか!」

「まだ、分からないです。多分、殺されてはいないと思います。」


根拠を持たない、ただの臆測だが一応言っておいた。

しかし、今思うと俺って感情が薄いな。胸中もさざ波すら立っていない。 人が死んだかもしれないのに。

あの事件以来、ずっとそうだ。

こういう自分は嫌いだ。戯言ざれごとだけど。


「ああ、そうだな。諦めるのは早いか。」

「じゃあ、進みますか。ここから先はセキュリティシステムが生きているんで。」

「つまり、柳はここを通っていないのか。」

「それか、システムを壊す余裕が無かったか。」

「どっちにしろ、進むしか無いだろう。」


「ここが制御室ですか。」


扉の前に立って、小声で問いかけた。


うん。と首をうなずかせて金剛さんは肯定する。


「じゃあ、行きますよ。」

拳銃のホルスターに手をかけながら扉を蹴破るけやぶる

しかし、その先には、、、


「誰も居ない?」


人影すら、見えなかった。


「誰も居ませんね。金剛さん。」


そう言うが、返事が一向に帰ってこない。不振に思って振り返ると、倒れている金剛さんが居た。

その瞬間、

ぞわりと背後から殺意がした。

動いたら殺されそうな。そんな感じがした。

しかし、


「あっぶねーな。おい。」


そう言いいながら、バックステップ加速アクセラレートで死の暫撃を避ける。


「活きの良いやつもいるじゃねーか。ひゃっはー。」

「そりゃ、こっちの台詞でもあるな。ハイテンション。」


お互いに対峙する。


「ドミニオン8幹部が1人。〈暴虐〉のグラゼル様だぜ。」


巨人のような体躯をした男が言った。

にしても、こいつ口が軽いな。さっきの言葉だけでこいつ並の強いやつがあと7人居ることが分かった。


「どうも、通りすがりの高校生です。」


一応、挨拶を返す。


「ひゃっひゃっひゃ。お前みたいな若造も嫌いじゃないぜ。」


どうやら、好印象のようだ。まぁ、こんな奴に好かれたくないけど。しかも最初、殺されかけたし。


「1つ忠告する。妹の場所を教えれば、殺しはしない。」


沸き上がる怒りを抑えて言った。

しかし、


「悪いが若造。俺はそんなもんで怯まねえぞっ。おらぁっ。」


返ってきたのは、ファルシオンのようなメイスのようなものの攻撃だった。


「大振りじゃ当たらねえよ。」


お返しとばかりに掌底打ちを食らわす。


「ぐはっ。良いなぁその目。お前の妹に似て強気だぜ。」

「おい、今何て言った。お前、結実をどうした。」


瞬一の言動に怒気が混じる。


「おっと、口が滑った。まぁ、俺様はそんなに知らないけどな。」

「痛い目会いたくなかったら、さっさと吐きやがれクソ野郎っ!」

「ガキがイキってんじゃねえよ。」


その後も斬撃は降り注ぐが、あたりはしない。しかし、瞬一も攻めあぐねていた。


グラゼルがファルシオンメイスを大きく回す。


「だから、大振りは当たらねえんだy、」


グラゼルは瞬一に振り下ろす直前に前に出て、間合いを詰めた。

そのため、間合いを見誤った瞬一は、


「ヤバいっ、間に合わn、がはっ。」


バキッと鈍い音がして、おもいっきり壁に叩きつけられた。


「いってえな。グッ、、、、もう左腕が使い物にならねえか。」


瞬一の左腕はぷらんと垂れ下がっていて、見るからに骨折していた。


「まだ立っていられるとは、驚きだぜ。」

「体だけは丈夫なもんでね。」

「そうか、お前みたいな人材は惜しいがお別れだぜ。物事に終わりってもんは必ず付くんだよ。」


まだ、立ったままの瞬一に向かってファルシオンメイスを振るう。

あと、少しで死の暫撃が届くというところで瞬一が動いた。

超高速の加速アクセラレートによって、ファルシオンメイスの死の暫撃をくぐり抜けて、瞬一は大きく跳躍した。


「その攻撃はもう見切った。」


空中で構えて、そのまま、落下の運動エネルギーに身をゆだねて、拳を振り切った。


「がっ。」


ゴリッと骨が擦れる音がして、グラゼルの首が折れた。


「お別れするのは、お前だよ。」


「瞬一君。聞こえる?」

「あ、はい。大丈夫ですよ。」

「そう、良かった。何かあったの。途中、連絡が無かったけど。」

「敵のボスと交戦しました。一応斃したおしましたけど、骨折しました。あと、柳さんと金剛さんが気絶しています。一応、2人とも命に別状はありません。」

「そんな事があったの。お疲れ様。あとは、処理班が片付けてくれるわ。」

「そうですか。今、戻ります。花梨にも、宜しく言っといて下さい。」

「ええ、分かったわ。」


通話を終えて、出口に向かって歩き出す。

ドミニオン8幹部、結実の行方、左腕の骨折、色々な面倒ごとが増えた。

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