第8話 エピローグって突然だ

 あの記念撮影をした後、武具の素材を貰い、チトセも弓と銃が得意と聞いたので素材を貰って高天原に戻った。


『このバッカモーン! 特に少年ッ!! 知らないといえ、おかしいのじゃ。妾は寛容じゃからなブツブツ……』


 戻ったは良いものの、こっぴどく叱られた。

 神々の法で人間が神に憑依するなどあってはならないこと。

 異界での出来事だが、憑依関連で神に取り憑いて乗っ取り、世界を滅ぼしたことがあったらしい。

それを踏まえて高天原では原則憑依は禁止で法に触れたスサノオさんとオレの罪は重い。


神話の時代、高天原から追放されたことがあるスサノオさんはもう一度追放するという決断が*別天津神ことあまつかみによって決定されかけた。


 ※天地開闢の際に現れた5柱の神々のこと。


 だが、チトセとオレの必死の懇願によって情状酌量じょうじょうしゃくりょうとなり、オレとスサノオさんは謹慎一ヶ月間追加で終わった。

 プリンで冤罪をかけたアマテラス様も謹慎半月になりました。


「憑依してもらった真意がある」

「その心とは?」


 一つ、身体が辛く怠かったので、自分の代わりに動かしてくれる代役を探していた。

 二つ、地球の海洋汚染によって神としての力が弱っていき、病にかかったこと。


 しかも現時点では治らない。

 咳き込んでいた所なんて見たこと無かったが、弱みを表に見せない神なのでオレが知らなかっただけだ。


謹慎中は暇だったので、スサノオ邸で侍女達に料理を教えてもらったり、将棋を指したり、剣の稽古をスサノオさんとしたりして過ごした。

無駄無く、舐めた態度も取ることもなく、ただひた向きに実直に、文武を極めた。


武は剣、槍、斧はめきめきと上昇したが、弓と銃だけは上昇しなかった。

 己が祝福で調べても適性がねぇ。


〔適性が無い〕の言葉が浮かぶのが最も辛かった。


 認めたくなくて足掻くようにやっていたが、上達することもなく、近距離武器の技術に支障が出始めた頃、チトセからアドバイスを貰ったのだ。


「人は無力よ。だから、わたしは誰かに頼るの。弓や銃は私がやるから」


 こんなに出来た友人はいないだろう。無理せず頼ることを学んだオレは無駄に時間を割かないように心がけるようになった。


 文は新しい肉体のおかげか物覚えが良い。知恵の実の影響で数日あればなんでも覚えた。

 特に将棋は奥が深いボードゲームだと思う。謹慎の解除まで一週間を切った日。


「さぁ、これでどうだ!」

「……ヴィセンテくん、スキあり」

「うっそーん、そこやられるっすか!?」


 オレは将棋を指していた。

 相手は田植え名人こと、譲一じょういちさんとの一局は苛烈を極めた。


 オレが攻めると思わぬ所から攻められ、段々と少考から長考になっていく。


「──王手」


 96ターン目。

 王手をかけられる。だが、成った駒で阻止して何を防ぐ。勝てないのに苛立ちを覚え、未来予知を使うようになる。


「ま、負けた……ありがとう……ございました」

「こちらこそ、対局ありがとう」


 146ターン目。

 オレは惨敗を喫した。王将が四方を取り込まれたことで終わりを迎えた。譲一さんは言う。


「あんたァ、頭だけで考えてないか? 頭脳戦は先読みは勿論、相手の呼吸や癖から次の一手を決める。例えば、こいつは頭を掻いた時、攻勢に移る。なぜかこのタイミングで深呼吸に近い深い息を吐いた……等と考えていると自ずと答えが見えてくる。良いか、ヴィセンテ。『千手先よりもそれを放つ頭から考察する』これを意識してみなさい」


 生前は棋士として伝説的所業を成し遂げた譲一さんは〔機械の棋士よりも強く、どの人よりも優しかった〕らしい。

 その徳の高さから位の高い高級霊として高天原として招かれた。彼の笑顔にはある種の真理を感じた。



 謹慎最後の日。

 それは現実味を感じない勝利だった。


「参った。ワシの敗けだ」


夕方に差し掛かった頃、404ターン目に出した一手が決め手となり、辛勝した。

この時、オレは考えるのを一瞬やめて直感でここだと打ったら何とか勝てた。


「ふむ、勝てたじゃないか」

「直感で打ったんです」

「時にはそういうのを織り混ぜると勝てる。不意打ちは直感から出るものよ」

「明日から旅に出るんだろう?」


そう、明日から旅に出るのだ。

すっかりこの星のことが好きになってしまった俺はチトセと一緒に地球一周旅行をする。全部の国を巡る予定なので三年はかかるかもしれない。


「色々教えてくれてありがとう御座いました」


口調はツッコミ以外丁寧な言葉が出るようにはなってきた。マサオミさんにまた一つ近付けたかなと思う。


「そんなことない。年寄りに付き合ってくれるあんたは孫のようであり友だ。」


オレの友人は年輩のヒトが多いかもしれないが彼らから学ぶことは多いし、どっちでも良い。


最高の謹慎期間だった。



翌日。

スサノオさんから男泣きの抱擁を貰った。


「ぐぉぉぉぉ! お主との二ヶ月間楽しかったぞぉぉぉぉ!!」

天目一箇神あめのまひとつのかみ様から転移門を作ってくれたんすから、いつでも会えますって!」

「そう言われてもなぁ……人との別れがこんなにも寂しいのは久しぶりだ」

「また、会いましょう」

「……うむ、そうだな。また会える。元気でな!」

「はい!」



 餞別として数億円ほどの大金を貰い、別れを済ませ、チトセの家へ行くといた。


「おはよう、ヴィセンテ」

「ぎょえぇぇぇぇぇ!!? 家を折り畳むものかッ!?」

「えーそんなに驚く? 旅に使えたらなって思ったの」

「うーん、地球のヒト達ってこういう魔法じみた技術を未だ信じねぇし、一目がつかないところで使おうぜ」

「うん、そうだね。“転移門”も作って貰ったしね」


 “転移門”というのは数多の世界で活用されている門型の転移ゲートだ。

 安定性も高く、転移魔法と違って、転移失敗することが無いので今日も愛されている。


 地球での移動はなるべく使用は控えるようにしたい。旅の楽しみが薄れると思ったからだ。


折り畳みまくって、手のひらサイズにおさまった彼女の家はポケットへとしまわれた。


「そろそろ、行こうよ」

「そうだな、行くか」


 次は天目一箇神あめのまひとつのかみ様の工房である。このあたりが南西側で、彼の工房は北東の浮島にある。

長距離の移動にはローヴェンバッハしかいない。

馬笛を吹いて呼び出すと近くにあった木陰から登場した。


「お呼びか、相棒?」

「工房まで頼む」

「お安いご用だ。しっかり捕まってろよ!」

「ぬぉぉぉ!?」

「きゃっ!?」


 二人して咥えられて乗せられ、彗星の勢いで天翔けていった。


 数十分で着いた工房はそこまで大きくない小屋で、広さよりも実用性を重視した作りである。

派手な登場に気付いた天目一箇神あめのまひとつのかみ様は表に出てきてくれた。


「派手…ナ……登場…ダナ」

「こんにちは。お支払を──」


お金を出すと、彼は首を横に振って断った。


「ダメダ。オデ、作ル。……オマエ、使う。感想ガ…代金ニナルカラ……払ワナクテ良イ」

「なんかすんません。製作に数百万円かかるのに……。 定期的にメッセージ送っておきます」

「ウン、頼ム。アト、コレヲ」


 オレ専用の破壊の紋章が刻まれた転移門と、チトセ専用の女性が踊る様を彫った転移門を頂いた。2mはある少し大きな門だ。


新たに生まれ変わった愛刀メルガノッサとチトセの弓と銃が一体化した武具エルティス、縁結びのアクセサリーだった。


「メルガノッサ、アウロギが……作ッタンダナ。打チ直シタラ……刀剣階級……序列二位に……ナッタ。全世界デ、タッタ27工シカ……ナイ名刀ダ………」


 たった27工しか無いのか!!? 

メルガノッサは赤い刀身だった。今は水色の半透明な刀身へと変化していた。

 空へ向けて試し切りして見たら空間が裂けた──!


「気を……ツケロ。本気デ…振ルエバ……星ハ真ッ二ツ」

「ひぃえぇぇぇぇ!! 怖っ! こんな凄いものを……ありがとうございます」

「なにそれ、怖ッ!? とんでもないもの貰ったんじゃない?」


 チトセもびっくりしているようだ。

彼女がエルティスを試し撃ちすると亜空間が開いた。

 下手したら所有者が死ぬ。お互い扱いには気を付けよう。

 エルティスは刀とは違う番付があり、序列二位らしい。


「首飾リト……耳飾リ……つけてみて……」


早速着けてみると俺のは青色と紫色に。

チトセのは黄色と緑へと変色した後、変化しなくなった。


「サイズ丁度良シ。アクセサリー、好キナ色……反映スル。……喧嘩シテモ……明日ニハ……仲直りリスル……祝福ツキ」


本当にスサノオさんがいった通りなんだな。

チトセから姿見を借りてチェックしてみる。

好きな色とあってか見ていると気分が上がる。片割れ同士になっていてチトセのと合わせるとぴったりて嵌まって一つになった。

精度の高さと言い、意匠と言い洒落ている。


「ソレ……地球デ……長年流行ッテル。……ダカラ……ヤッテミタ。ヴィセンテ……結婚指輪は……オデに……任セテ」


 このお方もこういう冷やかしとかするんだな。


「いや、その、ね!」

「お、おう!」

「まだそういう関係じゃないんで!」


とりあえず、苦笑いしてお茶を濁しておいた。


「マタ……イラッシャイ……」

「「はい! お元気で!」」


 口下手だけど懐が大きい一つ眼の神に別れを告げ、アマテラス様に会いに行く。あの時のことを謝るためだ。



~神殿にて~

アマテラス様は……相変わらずプリンを食べていた。時刻は……12時である。昼食にプリンなど、食べるのが好きなオレとしては非常に腹立たしい偏食さだ。


「なんじゃ、あの時のことは許すまじき行為よ。ふん!」


そっぽを向く彼女にプリンよりも素晴らしいものを用意した。


「アマテラス様、七色に輝くアワビですよ」

「ヴィッド、食べ物で釣るなんて──」


プリンを置いて目を嬉々として輝かせながらバター焼きにした七色アワビを食した。


「ひゃあぁぁぁ♪ 久しぶりじゃ! 七色アワビ! 」

「え、マジで!?」


 チトセが驚き、アマテラス様が食い付くのも無理はない。

 神話の時代、七色に輝くアワビを奉納し、お気に入りの供物とした逸話が某所にあると『地球全集』に書いてある。

 ということでこの本の機能で描かれたものを引っ張る所作をすると実際に顕現するのだ。移動中にこっそりバター焼きにした。


 ふっ。どうだ、旨いだろ、アマテラス様?


「もう一個、もう一個無いのか!? 」

「先日のことを水に流してください。それが条件です。」

「うぬぬぬ……! はぁ。仕方ないのじゃ。妾の敗けよ。スサノオの病気の調査、頼んだぞい」

「はい、しかと承りました」


 うし、オレの勝利。食べ物で釣るのはいささか気が引けたが、アマテラス様はこれ以外折れそうにないからな。


「もう良い、帰れ。……じゃが、また遊びに来るが良い」

「素直じゃないですね。ツンデレですか?」

「こらこらヴィヴィくん、茶化さないの」

「きー! やっぱもう来るな!! チンピラ神ィ~!!!」

「ハハハ。また会いましょう」

「さようなら~アマテラス様~!」


 もう思い残すことはない。転移門で地上世界に降りて、旅に出よう。

 また会う日まで──。

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スサノオ様憑依転生事件 from『冠絶偉彩の画家、異世界を描き翔ける!』シリーズ 銀河革変 @kakuhenginga

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