第7話 月の上で告白を
ローヴェンバッハたちの加速は止まることなく時速20万㎞という常軌を逸したスピードで宇宙空間を飛んでいた。
これは海面で気温20度の場合、
なぜオレが単位がわかるかというと、先日言葉と一緒に学んだ時に、⟬地球全集⟭という書物を貰ったからだ。
『どうしたんすか、スサノオさん』
『ヴィセンテ、おまえにこの書を託す』
『青い本?』
『地球全集だ。頼む、その時が来たら……救ってくれまいか』
『……はぁ』
断れずに貰っちまった。
星の誕生から未来まで全てが記載されているため、悪用されてはいけない代物である。
この星の人類誕生はエリュトリオンとは違うんだってさ。
エリュトリオンでは異界からの移民が大元の先祖。地球の秘密については口外するなとスサノオさんから釘を刺された。
中々面白ぇが、地球人たちが自ら解き明かすまで見守るつもりらしい。
まぁ、それはともかく、宇宙から見た地球はなんて美しいのだろうか!
海の青い光と人々の文明の灯火が世界を照らし、青々とした豊かな大地が広がっている──!!
エリュトリオンでは星の外について研究している奴の話をあまり聞かないが、このように見るのは夢なんじゃないか、と思った。
息を飲む美しさに、
『おっ、ヴィセンテ、気に入ったのか?』
「はい! これ程綺麗なものはそうそうないっすよ!!」
『そうだな。この宇宙空間は気温は-270度で酸素もない。普通の人間ならば死んでおるが、神か
宇宙空間はそこまで酷な世界なのか。それで
「相棒、
新世代の神か……悪くねぇ。
マサオミさんを影から支える者としてこれ程素晴らしいものはないだろう。
「なぜ月なんすか?」
無粋だなとでも言うように、スサノオさんの声が脳内で木霊した。
『カーハーッハー! 一つは月の果実を食べるため。これには不老長寿の効果があり、寿命以外では死ななくなる。一つは儂と月読でお主を神の座へと推挙する。三つ目は……』
「三つ目は?」
「チトセを呼んで告白するが良い!」
え、え? ぬぇぇぇぇぇぇぇ!!?
おいおい、マジかよ!? そりゃ、ちょっとゲスいわ! だけどここで告白したら御断りされないんじゃね!?
「主よ、そろそろ着きます。月の裏側へ──」
「おぉ、すげぇなこれ」
そこには国一つ分ある広大な街と庭園、そしてエリュトリオンの世界樹にも似た大樹があった。
ローヴェンバッハらは庭園へと飛び華麗に降り立った。スサノオさんから憑依を解けと言われたので解除して霊体のまま庭園を歩いた。
そしてその庭園の中央広場に一人、濡羽色の髪に夜を具現したかのような紺の瞳を持つ長身の男が佇んでいた。
中性的な魅力があり、見つめられるとドキドキする。
「おや、
「オレはヴィセンテ・ガトニスです。異界エリュトリオンから来ました」
月読様は納得したようで手を打った。
「あー、はいはい。君が噂のヴィセンテくんね。下界が騒がしいから水鏡で覗いたが、姉君はお怒りのようだ。騙されるのは大嫌いだから後で謝っておくと良いよ」
「わかりました」
「うん、宜しい。して、用件は何だい?」
先程言った通りの用件をそのまま伝える。
「ほう、面白い。君を神にね……。健気な子だ。
「あぁ、そうだろう? 」
「良いだろう。君を完全なる
マジっすか!! そこまでやってくれるのか……。
「交渉に20分欲しい。それまでに君を神へと昇格するが、記憶が失われるリスクがある。魂の力を強く放てば記憶は失われない。それまで月の大樹の実を食べると良い。肉体・霊体を強化して不老長寿になれるよ。」
そう言うと植物のトンネルを通って何処かに去っていった。
「ヴィセンテ、儂が案内する」
「はい!」
一㎞程歩いた所で大樹の麓についた。世界樹ほどではないが雄大で美しく、幹には樹液が固まったような宝石がある。木には赤と青い実がなっている。
オレの疑問を汲み取ってスサノオさんが説明する。
「幹にあるのは
スサノオさんが月琥珠がある場所へ手を翳すと引き寄せられて手のひらに収まるサイズ分抜き取れた。
ミスリルよりも白銀色に輝いている。
「ヴィセンテ、魔力を込めて握ってみよ」
宝石を受け取り、魔力を込める。
すると、銀色だった月琥珠が金色・水色・青色・黄土色・紫色へと変化して輝いた。
「それぞれ水・氷・土・闇属性、金色に輝くのは神への適性がある証拠だ。あと、火属性には適性はない。諦めよ」
色には納得したけど、え、マジっすか……。
火属性の剣を作って貰ったのに…意味ない……。
「大丈夫。心配するな。月琥珠は縁結びの宝石としても名が知れている。ピアスとペンダントに加工しておこう」
ブフォーー! どんだけお節介なんだよ、もう!!
「カハハッ、本当に効果があるのだぞ。一年後には婚約者に必ずなる加護つき!」
「呪いかよっ!」
「呪いではないぞ。さっき、〘念話〙で鍛治の神、
再作成してくれるなら良いか。
スサノオさんがムベに似た赤い実とブルーベリーに似た青い実を引き寄せた。
その力、欲しいっす。
「赤い実は不老長寿を叶える生命の実。青い実は全智に近付ける知恵の実。知恵の実は元人間が喰らうと溢れる知識に呑まれ狂ってしまうが……お主なら大丈夫だろう。ほれ」
投げられた二つの実をさっきスサノオさんが使っていた引き寄せの力を真似てみると、ふわりと浮いたままオレの前で止まった。
人差し指を突き出してくるりまわせば、そちらも回ってる。
お、便利じゃんこれ。
「ッ!! お主、天才か!? これは大神になりそうだな」
「そんなわけないっす」
浮かせたまま食べてみる。
赤い生命の実は甘くてほろ苦い味だ。
これは人生に苦もあれば楽もあることを伝えた味といったところか。
放置した肉体を引き寄せて元に戻ると細胞がボコボコ浮き出た後、安定した。
体調が恐ろしいほどわかる──。
神の肉体を手に入れたようだ。
青い知恵の実は甘酸っぱい。そして少々辛い。
叡智を手に入れる為には辛いことを知ってしまうだろうが、それを乗り越えて己の糧とせよ、という味といったところか。
突如、頭に激痛が走った。
うぅぅ……あああ、が、ガハッ!!
押さえた手には血が出ている──!
「大丈夫か! お主なら出来る! その知りすぎる苦難を乗り越えろ!!」
「相棒なら出来る! 」
スサノオさんが背中を摩り、くずおれそうな身体をローヴェンバッハが支えてくれている。
幻覚という幻覚が見え、様々な音が耳を浸食し、全ての事象と知識が絶え間なく流れていく──!
そしてある場面で止まった。
『お前は死ぬ運命なんだよ、我が片割れよ!! 』『ぐっ、ぐはっ!』
黒服の男にマサオミさんが刺され死ぬ場面だ。
これは未来の光景? いいや、なってたまるか!
最悪を壊してあるべき世界にする!
ひれ伏せ、このやろぉぉぉぉ!!
オレの願いに答えたビジョンは軈て無くなって常に聞こえていた様々な音も無くなった。
ただ、一つ加わったのは数秒先の未来が見えるようになったことだ。
「上手くいったか……! 儂はとんでもない逸材を見つけたのかもしれぬ。ようこそ、破壊の神ヴィセンテよ!」
「あ、あはは。破壊の神だなんてとんでもねぇっす」
「いやぁ、お見事!!」
拍手と共に現れたのは月読様だった。彼の背後には神々しさを感じる男女たちが同じく拍手をして現れた。もしや神なんじゃないのか?
「うん、君は我ら月の神73柱の推挙によって正式に神として認められた」
え? 地球の月の神って73柱もいるのか!?
「そうさ。君は滅亡と破壊の神として増えすぎた者を調整するバランサーとしての役割を持つ神だ。神々の世界、神悠淵界の通行証もプレゼントしよう」
何か神っていうのも実感湧かないが、貰えるモンを貰っておこう。
美しい女神から青地に月と破壊と滅亡をイメージしたっぽい紋章入りプレートを手渡された。
俺の好みの色を知っているのが怖い。
「貴方のような逸材は6245万年ぶりだわ。ようこそ、神々の領域へ」
「そんな、とんでもないっす」
「ヴィセンテくんといったか。皆を代表して祝福と加護を授けるから我のもとへ来てくれ。」
身長2mは優に越える筋骨隆々な男神から手招きされたので、彼の元へと向かう。
「これより、祝福の儀を執り行う。準備は良いかね?」
「いつでも大丈夫っすよ」
彼が俺の額に触れ、両手から暖かい光を灯らせると言葉の奔流と能力の使い方が頭の中に説明されていった。
「これも渡しておこう。忘れた時の為の祝福一覧表だ」
「あざっす」
受け取った祝福一覧表にはこう書かれていた。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
祝福一覧表
◎ 不老長寿
◎未来予知
◎念力(引き寄せの力)
◎圧倒的な剣術
◎無から火を起こす
◎水と海を操り創造する
◎海の生物と仲良くなる
◎蛇・竜特効
◎八重垣を出現させて己の身を守る
◎人間の女性と共にいると能力向上
◎酒に強くなる
◎縁結び(絆と縁が深まると力が増大する)
◎良縁成就(自身、他人の運命の人が誰なのかわかる)
◎夫婦円満(男女ペアパーティーだと能力向上)
◎子授(子供に好かれやすくなる)
◎安産(妊娠しているのか一目でわかる、流産しないように加護を授けられる)
◎無病息災(病気で死なない)
◎厄除け(自身及び周囲50mは呪いが効かない、不意打ちが効かない)
◎厄払い→災禍転福(呪いにかかった者をはねのけ祝福へと転換する)
◎所願成就(願えば如何なる願いも叶う)
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
うわぁ、豪華なことだ。
へぇ、あの引き寄せの力は念力っていうのか。
スサノオさんから言われた祝福も貰ったし、一番気になった〘良縁成就〙を発動した。
さて、ヴィセンテとチトセの相性はっ!?
〔二人の相性は……実は運命の人かも!? 頑張ってアタックしてみよう! 断られても彼女は内心嬉しい人だから諦めないでね! 焦りは禁物。一年後には正式に恋人としてお付き合い出来そう!〕
そうなのか……オレ頑張ってみるぜ。
「あ、チトセさんを呼ぶんですね?」
つ、筒抜けかよ、 月読様!? 心が読める神々は良いなぁ! オレみたいな新人の神と違って!
「そう自分を責めなくてよい。チトセを呼ぶぞ」
フォローしてくれた優しいスサノオさんは柏手を4回するとチトセが現れた。どうやら召喚したらしい。
うぅ、ドキドキするぜ。
「え、え? どこなの、ここ?」
混乱するチトセにすかさずスサノオさんが解説をする。
「すまない、呼んでしまって。ここは月の上だ。儂の友人が君をご指名だ」
スサノオさんがオレを指差して、月神達も言動に注目している。
「はっ、はじめまして! オレ、ヴィセンテ・ガトニスと言います。」
「はじめまして、萌木チトセです。センゾウさんやローヴェンバッハさんから話は聞いてます」
次にチトセは衝撃の一言を発した──!
「……わたし、実は気付いていたんです。スサノオ様の泥で汚れた顔を拭っている時にイメージが伝わってきて……それで貴方が憑依していることに気付いちゃったんです」
そっか……。触れられたら憑依していることはバレてしまう。あの時からもうオレの存在は知っていたのか。
「ハハッ、バレていたのか。スサノオさんが代役を務めて欲しいと頼まれたのがきっかけなんだ。それから田植えをしたり、勉強したり、剣術を学んだり、コンビニでアマテラス様所望のプリンを買ったり……。相棒のローヴェンバッハは茶化す所があるから巻き込んでしまった。すまねぇ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。楽しかったです」
微笑む彼女に心突き動かされ、意を決してあの言葉を言う。
「出会った時からずっと好きでしたっ! 付き合ってくださいっ!! ダメなら友達からでも……」
「恋人からは無理ですっ! だって、貴方のこと知らないし、友達からでお願いしますっ!!」
ここですかさずちゃかす|ゲスな月神たち。他人の色恋沙汰好きどもが群がっていた。
「ヒューヒュー! いよっ、ナイスカップル!」
「いや、違うね、ベストフレンドッ!」
「結婚式が楽しみだっ!」
「はい、そこの月神っ! 結婚とか言うんじゃねぇ! まだ早いわ!! 親戚のノリか!?」
俺のツッコミを笑いながら、
上手くいったっぽいので、この美しい地球を背景にして記念撮影をしようと思った。
「チトセって呼んでも良いか?」
「良いよ。友達だもの!」
「んじゃ、友好の証に写真取らない? オレとチトセのツーショットと、月神様達の集合写真を撮ろうか! ほらほら、ゲス神たちは一旦どいて!」
下衆神と呼んでしまった月神達は「祝福剥奪するぞ~」と悪態をつきながら引いてくれた。
「チトセ、撮るぜ~笑顔で!」
インスタントカメラで撮ったこの一枚はずっと忘れられ無い一枚になるだろう。
画角は庭園で地球を中央にして撮った。
失くした時のことを考え、4枚ほど焼き増しも欠かさない。
出来上がりを確認したらスサノオが端っこで顔だけ見切れて邪魔していた。
オォィ!邪魔すんなや!
最後に他人の色恋沙汰が好きなちょい下衆月神様達と一緒に記念撮影。
画角は右側に月の大樹、中央上に地球、下側に皆が写った写真だ。こちらも予備多めに焼き増ししておく。
この二つの写真は今でも大切にファイリングして持っている。あの時、チトセにあって正解だったと思ったオレだった。
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