七日目:植物園と侮ることなかれ

 植物園といえばどんなイメージを抱いてるだろうか。

 花壇があって植物を示す看板があって綺麗に歩道が整備されていて――

そんなイメージを持ったまま行くべきではない植物園があった。


 日光にある植物園だ。


 ストレスにさらされた日が続いたある日、私は急に仕事を休みたくなった。

有休を取得させていただきます、と言い切り方で押し切って、私は平日に休みを取り、かねてから伺ってみたかった植物園行きを決行した。


 このように急に休みたくなる日というのがいくつかある。

 もちろん、それは当日ではない。他人に迷惑をかけてまで、自分の欲望を優先したいとは思わないからでもある。そういうときは、同じ週の別の日を決め打ちして、休みを強制的に取得する。(もちろんOKしてくれる上司には感謝したい)


 電車にのって2時間。

 日光は閑散としていた。某キャンペーンがはじまった後とはいえ、やはり自粛が基本なのであろう。申し訳ない気持ちを抱えながら、東武日光駅から歩きはじめた。


 夏が近づく日光の道端には、普段は見慣れない花が咲いていた。

まるで狐のしっぽを思わせるふさふさの形状に、紫色の小さな花がこれでもかとびっしりと密集している。これは後ほど調べたところ、園芸品種の脱走の結果ということで、私はひどくがっかりした。

 実はこういったことが過去にもあり、那須塩原で撮影した黄色の愛らしい花が、これもまた園芸品種キンギョソウの脱走だったということが判明したときだ。


 私は園芸品種には興味がない。ベランダで育てている花々はもちろん園芸品種ではあるが、園芸品種に詳しくなりたいとは思っていない。人為的に手を加えられた花々は当然美しいが、こうして広まっていく様をみると、非常にがっかりするものがあり、どうにも気が進まないというのがある。


 いろは坂へと続く国道沿いは山へと向かってのぼり坂続きであり、たった4キロとはいえ翌日筋肉痛になってしまった。話はそれたが、もちろん、野草たちにも沢山出会えたし、今だに自分では特定できていないものもいくつかある。


 ようやくたどり着いた植物園の入り口で、私は入場料を支払った。500円は安すぎると思いながら、入園しようとすると、係の方から声をかけられた。どうも、ここのところ雨が続いていて、ヤマビルが出るということだった。


 ヤマビルといえば神奈川県の登山客がおこした問題がツイッターで拡散されており、血まみれになってしまうと脳裏に浮かんだ。係の方は事務所からヤマビル避けの液状のスプレーを貸してくれ、長靴まで貸してくれるというのだ。入場料500円にしては、申し訳なさすぎる心遣いだった。


 係の方に感謝しながら私は歩き始めた。未だに梅雨空の中だ。地面はコンクリートなどでは舗装されておらず、土がむき出しの状態で、まるで林の中に入っていくような気分だった。


 私はこの植物園を大した下調べもせずに訪れた。そのため、林の中でひたすらにあまり見かけない植物を見るという情報量の多さに驚嘆することになった。植物を示す看板はある。ただしその植物以外にもその周囲には沢山の植物が生えている。いわゆるそこらへんに生えている雑草ではないもの、ということだ。


 鬱蒼とした林の中に動物注意やらカエンタケ注意の看板。水量の多い川が近くにあるのだろうか、ドドドドっと轟音がどこからともなく響いている。一人で訪れたが、他に人は見当たらない。大きな道はあるものの、脇道は細く、侵入を拒むように草花が道の方まで覆うように生えている。天候は曇り、時々日は差すが、どこか神秘的で自然の中に放り出されたような感覚だ。


 1時間30分ほどの滞在で私は植物園を出た。

 もちろんもう少し長く滞在してもよかったのだが、雨が降ったりやんだりで、ところどころにあるベンチで休憩できるような状態ではなかった。なにせ、売店もないのだ。


 係の方のご厚意のおかげか、私はヤマビルに食われることもなく無事に帰宅した。今度は不安にならないいでたちで、秋にまた伺いたいと思っている。そのころにはこの混乱が収束していればと願いつつ、今は写真で撮影したものの特定に忙しい。

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植物と私の365日 じゅん先輩 @junjun_jun

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