三日目:見えない方が幸せなこと
私は視力がとんでもなく悪い。片方は強度の近視、そして、もう片方は強度の乱視である。強度の乱視の場合は、眼鏡で矯正ができない。ハードコンタクトによる屈折矯正が必要だ。眼鏡で過ごしているときはほぼぼやけて見えているような状況で、あくまでも生活の補助として使わなければならない。
私はこの年になって植物に興味を持ったが、旦那は草花が好きなほうで自宅の庭での栽培経験もあった。ただし、育てるのであれば実用的なものが良いとのこと。私は気が進まないまま、ピーマンとオクラを育てることにした。
オクラの方は順調で、とても柔らかい羽のような手触りの花を咲かせ、そのあとに次々にオクラと認識できる果実をつけた。オクラはアオイ科の植物であり、同科の芙蓉にそっくりな花を咲かせ、花としても楽しめる野菜だ。オクラは栽培は容易だと思うが、大きくなるのを待たずして早く摘み取らなければ、非常に硬くなって食べられたものではなくなる。次々に生えるというのはたとえとして難しいが、毎日食すぐらいの勢いがないとほとんどのオクラは食用に耐えないほどに固い繊維に覆われ、残念な末路を辿る。
ピーマンもこちらも順調に花が咲き実をつけた。見たままそのままスーパーで販売しているピーマンそのものだ。ピーマンはナス科の植物で、ナス科の植物というのは非常に分かりやすい花をつける。ピーマンも例にもれず、特徴的なナス科の白い花を咲かせた。
さて、私は目が悪いということは先に述べた通りだが、植物の世話というのは仕事に出かける前の朝に行うことが多い。当時の私はオフィス用の衣服が汚れるのを嫌い、準備を整える前、目ボケ眼のまま世話をしていたので、植物の状態がよく見えていなかった。
気温が上昇してきた頃、朝より夕方の水分に気を配るようにと職場で植物に詳しいシニアの方に教わった私は、帰宅して早々ベランダに出て、土の水分を確認した。
コンタクトで矯正された目で見たところ、ピーマンの茎に小さな緑色の虫や、葉にはこれまたハエをどうにかしたような気味の悪い虫がびっしりとこびりついていた。
もし、ピーマンの実りが悪ければ、もう少し気を配ってみていたかもしれない。ただ、それらがびっしりと蔓延っていたとしても、ピーマンは元気よく実りをもたらしてくれていたので、これまで注視することがなかった。
クリアな視界に鳥肌がたつような地獄模様。アザミウマや、コナジラミ、アブラムシが大量発生していたのだった。調べてみると猛者は指で潰したり、歯ブラシでこそぎおとしたりするらしいが、私にはとてもそんなことはできなかった。一度試しにやってみようと思ったが、潰したときの感触を想像するだけで吐き気を催した。
困った私は、職場のシニアの方に相談した。どうしてもそれらに触れずして退治したいとわがままを言った。すると、その方は駄目もとで、アルミホイルを株元にまいてみたらどうかという。アブラムシは光が苦手ということだ。既にアブラムシまみれのピーマンは、申し訳ないことに、目にすることも憚られ、水をやるのがやっとだった。旦那に頼み込んでアルミホイルを巻いてもらったところ、2,3日でそれらは一気にどこかへと消えていった。
よく、知らない方が幸せなことがあるというが、見えない方が幸せなことがあると思う。つまり、眼鏡をかけたまま世話をしていたほうが幸せだったということだ。とはいえ、植物の状態を確認するためには視界はクリアでなければならない。今となってはコンタクトを装着した上で植物の面倒をみているが、未だにアブラムシがびっしりついたピーマンを思い出すだけで吐き気がするほどである。
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