干ぶどうの菓子で私を力づけ りんごで私を元気づけてください
月が見ゑぬ 濡れ羽が広がつてゐる
爪櫛の如く 敷き詰められた 羽根が広がつて
一条の光すら無く 啼くや恋しき
ぴいりぴりりと 唄つてゐる
此処は獄 永久に開かぬ 放たれぬ
見ゑぬ見ゑてる 見ゑる見えて 見たゐ見えて
歌う金糸雀 沈黙知らず 劈く声を
ちいろちろろと 響かせる
おお なんと愛らし 羽根であらう
小指の爪の 隙間にすら 侵されて
雪化粧のやうな この膚を
すりやすりやと 撫でれば見える
此処は厩 畜生が棲む場なれば 人は暮らさぬ
見ゑぬ見ゑてる 見ゑる見えて 見たい見ゑて
干し草の かほりだけが 私を包むのを
すうんすんすん 鼻を使へば 山見ゆる
何も見ゑぬ 故に
愛するその聲 低く地鳴りのやうな 歌声を
がふがふ唸つて 這つてくる
我が手は椛 脚は丸く 立つこと適わず
瞳開かずとも 御身に縋る 手と膝を使ひて
吁々 逃げらるるな 我が愛 奪ひ給ふな と
ずろりずろろと 這いずり縋る
我が胸 未だ薄く 我が腹 未だ丸く
腰布を外すだけの 自制を忘れ
全て支配し給へ 粥一杯乳一滴
あゝ あゝ あゝ あゝ 逃げれぬ逃さぬ
母は子を捨てぬ 捨てぬ故に 我は
母上 母上 我を愛し給ふ
我が
その胸吸わせ その手で
全ては一時の夢 稚児の児戯
愛しき母 仮初の母 今は我が友と 戻り給ふ
楽しき時 矢の如く過ぎ去る 幼子の時分へ
ほんの戯れ 垣間見た 有り得なかった過去を
その夢は また見られる
その夢のため さもしひ世に 舞ひ戻り
机に縛られ
崩れゆく 夢が崩れて 消えてゐく 何てこと
七日後 会ひに来ます 我が母よ
名も顔も知らぬ 我が兄弟を愛されし母上
七日目だけは 我が母に成り給ふ
偉人の顔を 数えて祈り
ああ 恋しきは我が母 名も顔も知らぬ我が母
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