第17話 父
私の父は、14年程前に亡くなっているのですが、父が建設現場
の仕事をしていたので、ダメもとで申請したアスベスト認定を
受けることができ、そのエピソードとして、ある方に、
父の生涯を文書にしてくれと頼まれ、
母が文書を書き、心配だからと私にみせてきました。
何気なにしその文章を読み、私は、自分が、父の事を何も
知らなかったという思いと、何も伝えられなかったという
思いで、涙が溢れてきた。
その文章を読み進めるうちに、必死に生きていた、私の知らな
かった父の姿が浮かんでくるのだ。
生前の父は、余計な事は一切しゃべらない人で、愚痴や文句、
不平不満とかもいわず、悪口は、言うのも聞くのも嫌がって
いました。
物静かで、自分の過去は、しゃべったこともなく、特にいっても
しょうがないと思っていたのか、辛かった思い出だったから
言わなかったのか、今では、確認することもできませんが、、、
そんな父だったので、子供の頃の私の印象は、
「ひょうひょうと生きてる人だな」位な感じでした。
父は、思いはあったのでしょうが、特に、目に見えて家族を
大事にするとか、子供に愛情を注ぐと言う事がなかった為、
私自身、すごく愛情を受けて育ったという思いががなく、
そういう意味では、自己肯定感が低かったと思います。
でも、大人になると、そんなもんだろうなと自分の中で
割り切っていました。
父が生まれた時は、戦後すぐで、沖縄の石垣島という小さな
産業の無い島では、みんなが、生きるのに必死だった時代
でした。
父の実家は貧しく、幼い父は、馬車で山まで行き、働きながら
小遣いを稼いでいたようで、子供といえど、労働するのが
あたり前、学校に行く前も朝早く起きて、草刈りや、畑仕事など
をしていたようです。
高校も貧しくていけないので、祖父の所にお世話になりながら
卒業し、その祖父も、時代もありますが、厳しかったようで、
朝3時から畑仕事に行かされていたという話も、初めて
聞きました。
卒業後は、沖縄本島に行き、建設現場でためたお金で、
クラブの経営を始めたり、それが上手くいかなかったら、
今度は、これをやってみる、とトライ&エラーを
繰り返し、負債があった時は、マグロ漁船に乗っていろんな
国に行っていたようで、今思えば、当時の技術の漁船なので、
命がけだっただろう。
その後、友人に誘われ、東京の方の建設現場の仕事をし、
それが、アスベストを使用していた仕事だったみたいで、
当時は、そんな知識もなかった為、
防御もしっかりせずに、朝から晩まで働いていたようです。
父は、もともと体が弱かったので、職人さんを集めて、
現場に行ってもらう方に仕事を転換していき、生活もだいぶ安定
してきました。
なので、この職人さん達にすごく気を遣ってましたし、子供の
私は、私より、よっぽど、職人さんの方が大事にされてるって
思ってました。
父は、「この人達のおかげで生活できてるんだって」いって
いましたが、それ以上のことは、何も言わなかったので、
頭ではそうだって分かっていましたが、心では、
もうちょっと、他の子みたいに、子供にいろいろしてほし
かった。
だから、この機会に、母にその思いも伝えた。そしたら、
父は、体が弱くて
職人さんに辞められたら困るから、気も遣っていたし、
自分ばかり贅沢してるって思われてもとか、かなり気苦労して
いたようだ。
今、思えば、昔の人なので、女の子にどう接していいか
分からなかったのもあるでしょう。
そんな思いも知らずに、私は、なんのお金の心配もせず、
成長させてもらっていた。
父の事を知る度に、封印していた思いが、川のように浄化されて
いった。
父自体が、大事にされたり、十分な愛情を与えられて育って
いないのに、それをすることは無理だ。貧しい中、自分の体しか
稼ぐ道はないから、必死で生きてきた。
そのおかげで、私は生まれ、愛する子供達にも巡り合えたのだ。
どうして、自分が与えられない事ばかりにフォーカスしていたの
だろう、どうして
「必死で生きてきたお父さんを誇りに思うよ」とか
「今まで頑張ってきてくれてありがとう」って、愛ある言葉
をかけられなかったんだろう。
今まで、させられる事ばかりで、与えられることの
少なかった父に、できる事はたくさんあったはずだと思うと、
とても悔しい。
だから、私は、今、親と仲が悪いとか、愛情をもらってないと
感じている人がいたら、その親の今までの状況とか、
大切にされていたか?
愛情を与えられていたか?
どんな思いで生きてきたか?という事を
知ってほしいと思いますし、親の方も、言ってもしょうが
ないって思わないで、今まで自分がどんな思いで生きてきた
かったって事を伝えてほしいと思います。
伝えないと伝わらない。
相手がそういうことを考えたり、言ったり、行動するには、
するなりの、その人の中に理由があるのだ。
母の文書を読み終わったあと、ある人が言っていた言葉が、
ふと頭に浮かんだ。
「自分も相手も許しなさい」
「相手も、相手の理解と経験の中で、ベストをつくして生きて
いるのだから」
言われた時は、ピンとこなかったけど、この時腑に落ちた。
自分自身も、食べさせてもらっているのに、こんな思いもって
という罪悪感があったが、それでいいのだ。そういう風に思って
いる自分も、正直な自分だからそれでいい。
そう思っている嫌な自分も許して、愛してあげる。
そうすると、父の中での理解と経験でベストを尽くしていた父も
許して、愛せる。
どんな自分もあっていいし、どんな父があってもいいのだ。
父の子として生まれたからこそ学べたことがたくさんあった。
父は、亡くなってからも、私に多くを学ばせてくれた素晴らしい
存在です。
今年のお盆、父がきたら伝えたい
「お父さんの子に生まれてきて幸せだったよ。ありがとう」
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