第3話浮気理由

 頭は冷静だけど、感情の整理がつかず、どう切り出せば言いか分からない。


「美歌、話してくれ」


 少し言葉足らずだけど、状況的には十分で、美歌がぽつりと話し始めた。


 ◇


 私は園花美歌。二十歳です。


 私には彼氏がいます。

 名前は音八裕太おとやゆうた


 たまに遊びに行ってご飯をご馳走になるとき、嫌いな食べ物を工夫を凝らして料理に混ぜて、こんなにも美味しいんだって克服させてくれる、優しい彼氏。


 大学が違うから、中々会えないけど、その分はデートで甘えて、裕太も嬉しそうで幸せな顔をしてくれる。


 そんな彼が大好きです。


 だけど、私は浮気をした。

 浮気したのは2ヶ月前。


 裕太をデートに誘うと断られしまった。

 バイトをやってるから、都合のつかない事もあると思った。


 でも、それから一週間。

 裕太と中々連絡もできなくて、デートも断られ続けた。

 付き合い始めて3ヶ月だけど、こんな事は始めてだった。


 もしかして倦怠期なのかと思ったけど、夜に必ず『今日もごめん』とNINEにメッセージをくれるから、そんな事はないと考えた。


 でも、私は寂しくて、裕太が隣にいないのが切なくて、裕太を思い浮かべながら自慰行為をするしかなかった。


 それからまた一週間。メッセージも無くなった。


 怖くなった。

 見限られたんじゃないかって。

 裕太が幸せならそれで良い、そう思ってはいる。好きな人にはやっぱり幸せになってほしいから。


 だけど、一度、見限られたのかなと思ってしまった私は、裕太のバイト先にいこうと思った。


 その時、もし、裕太は別の理由で何処かに行ってたら?その瞬間を見てしまうかもしれない。そんなイフでしかない想像が恐怖や寂しさとなって襲った。


 この寂しさを、恐怖を和らげたい。

 私は拠り所が欲しくて、幼馴染の田嶋春斗たじまはるとという男子と会うようになった。


 一日、また一日と過ぎていき、春斗と頻繁に会うようになってる間も裕太と連絡来なかった。

 そんな中、私の寂しさや恐怖は消えることはなかった。


 そんな状態からもうすぐ1ヶ月経とうとした時、寂しさと恐怖に我慢できず、私はやってしまった。


 春斗に初めてを捧げてしまった。

 本当なら裕太に捧げるはずだったものを私は自ら消してしまった。

 その初めては全く気持ちよくなくて、幸せでもなかった。


 何かを外堀から埋めるだけの行為でしかなかった。

 それでも数回会っては行為に投じてしまった。本当に愚かだよ私って。


 翌日、裕太が久しぶりにデートに誘ってくれた。

 その日は某有名遊園地に連れていってくれた。

 とても楽しくて、幸せだった。

 でもそれとは別に後悔、罪悪、喪失感に苛まれていた。


 そして、夜。

 パレードが行われている最中に、裕太は包装された長方形の箱を、「お誕生日おめでとう」と言って私にプレゼントしてくれた。


 裕太と会えなくて忘れていたけど、このデートの日は私の誕生日だった。


 包装を外すと、黒い箱を開けると中身は綺麗なネックレスだった。

 私は理解してしまった。この期間、裕太は私の為にプレゼントを用意しようと頑張っていたんだって。


 浮気なんてしてなかった。裕太は私の事をずっと好きでいてくれたのに。

 私は先に裏切ってしまった。


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


 懺悔しかなかった。 どうしようもないほどに後悔、罪悪、自己嫌悪に身を委ねてしまったことに、裕太が知ったら絶望している光景が浮かんでしまった。

 自分に殺意が湧いた。


 でも、そんな表情、見せるわけにいかない。

 その時は必死に耐えて、嬉しくて幸せ感情だけを見せようと笑った。


「ありがとう、凄く嬉しい」


 私は決意した。

 もう二度と裕太を疑わない。

 もし、疑ったならちゃんと聞こう。

 バイト先は気まずいかもしれないけど、寂しくなったら会いに行っても大丈夫か尋ねよう。

 絶対に裏切るようなことはしない。


 そう思っていたのに、翌月、月の生理が来なかった。

 警鐘がなった。


「あああああああああああああああ!」


 泣くしなかった。喚くしかなかった。

 裕太の代わりの温もりが欲しくてと、安全日だと浅慮あさはかな愚考と愚行で最後の一回コンドームが無いけど良いかと尋ねられて、裕太の穴を埋めたいが為に自己保身に走ってやったことが原因だってすぐに理解した。


 裏切ってしまった、また裏切ってしまった。

 二度としないと決めておいて直ぐに裏切ってしまった。


 もうどうしたらいいのか分からなかった。


 そんな困惑の中で、裕太の顔が浮かんだ。

 裕太に話そう。

 それでどうなっても仕方ない。

 それだけの事を私はやってしまったんだから。


 そして、私は裕太に妊娠したことを言った。

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