第2話別れ拒否

 悔しくて、怒りがどうしようもなく纏わり付いてくる。

 抑えようと、下唇を噛み、握り拳を強く作る。


 でも、美歌を見るとどうしても口から言葉が溢れ出てきてしまう。


「浮気しておいて、都合がよすぎる」

「っ!!」


 このままだとどうにかなりそうだと、早く気持ちを抑えようと美歌に別れの意味も含めた言葉を告げ、俺は家を出ようと再び踏み出した。


 だけど、その時、後ろからグッと強く着ていたジャケットが下に引っ張られ、少し仰け反り俺は歩むのを止めることとなった。


 美歌に引っ張られて、ジャケットから手を離そうと勢いよく振り返った。


 すると、美歌が顔ぐちゃぐちゃにボロボロと泣きじゃくっていた。


「都合が良いの分かってる。けど……けど、裕太と離れたくない、裕太と一緒にいたいよぉ…うっ…ううぅ…」


 映画で感動して泣くなんて事はあったけど、泣きじゃくって、俺を離すまいと腰に抱きついて、必死に止めようとする美歌。


 こんな美歌は始めてだった。


 そのせいか、俺の怒りは心の内に留まっているのに、不思議と頭がとても冷静になった。


 これは俺にも問題があるのかもしれない。構うことが出来なかったツケが回ってきたのかもしれない。


「ごめんな」


「……裕太は悪くない」


 俺は首を横に振って美歌に言った。


「いや、あると思う……だから、美歌聞かせてくれ。何で別れたくないのか、何で浮気したのか」


 俺は美歌が好きだ。


 浮気して、妊娠したと聞かされた今でも、俺の思いは一向に冷める気配がない。


 彼女の幸せを願ってしまっている程にまだ未練がましく美歌と一緒にいたいと心の中で思っている。


 いや、もし、美歌が俺を引き止めなければ、泣きじゃくっている姿を見ていなければ、辛くて、現状から逃げたくて俺はそのまま無視して離れていたかもしれない。


 でも、俺と本当にいたいと思ってくれているなら、聞いておきたい。

 そう思った。


「うん」


 美歌は力弱く頷いて、スッと俺の腰から離れた。


 俺はぺたんと床に座る美歌の手を取って一緒にリビングテーブルまで戻った。



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