第46話 「俊の気持ち」

初めは河川敷で花恋さんに。

次は高台で愛海に。

そして最後は屋上で七海に。

それぞれにそれぞれの思いを伝えられた。


俺は幸せものだ。それは学園三大美女に告白されたからとかではなく、自分の好きな人に告白して貰えたから。


本当はもっと前から好きだったんだ。


俺は一人、車椅子生活の頃を思い出していた。





『俊。何か困ったことがあれば、迷わずに言ってね。』

七海はそう言ってくれた。

『俊。ノートは私が取りますね。』

花恋さんはそう言ってくれた。

『俊くん! これからは頼ってよ! 今までは愛海が俊くんに助けて貰ってたから!』

愛海はそう言ってくれた。


本当に、本当に幸せだ。


大好きだ。


俺はそんなことを思い出しながら目的である教室へと向かう。


それは一年生の教室の一つ上の階。四階にある。

俺は目的の教室に到着して、深呼吸してからドアを開ける。


「俊⋯⋯なんで⋯⋯私、なのよ⋯⋯。」

「大好きだ。七海。俺と、付き合ってくれ⋯⋯。」

「そんなの⋯⋯でも、私が選ばれたら⋯⋯。」

俺が選んだのは七海だ。


かつてはいざこざがあった。俺のトラウマとも言える存在。だが、そんなことは今、どうでもいい。


何度も繰り返す。これは夢である。


だから、俺は目覚めるための最善策を取ったまでだ。もちろん、俺が七海のことを好きなのは紛れもない事実だ。


ようやく分かった。なんでこの世界があるのか。


ここは、俺の夢の中であり、七海の夢の中でもある。


そんな簡単なことになぜ今まで気づかなかったのか、不思議だ。


この世界は常に俺たちに都合がいいように回っていた。


一番身近なものでいえば俺の事故。あの事故がもし、本当に起きていたなら俺は生きてすらいないはずだ。


骨が折れる程度の怪我で済むような事故じゃない。

それに、あの時だってそうだ。


思い返せばいくらでも出てくる。




「七海。早く、俺を起こしてくれ。お前もわかってるんだろ?」


「うん⋯⋯。でも、それじゃあ私たちは⋯⋯。」

「お前は、俺のことは嫌いか?」

「そんなことないっ! 好き。大好き! でも、俊が私を選んだのは目覚めるためなんじゃ⋯⋯。」

「ばか。俺は本当にお前が好きだ。」

「っ!⋯⋯。」


「だから、もういいよ。お前のことを怒ってない。許してる。だからもう一度始めよう。」

「うん⋯⋯。」















世界が崩れる音がした。

ゴロゴロと。

目の前から色が消えた。

昔見た白黒の写真のように。

次に黒色が消えた。

当たりが真っ白になった。

世界が滅んだ。

否、夢が終わった。















ピピピ⋯⋯。

うるさい目覚ましの音で目が覚める。


午前七時。


いつもと変わらない光景。


そんな中、一つだけ明らかなこと。


──────俺は、夢を見ていた

その夢が悪夢だったか、はたまた幸せな夢だったか、今となっては分かる。



最高に幸せな夢。そして、これから。



俺たちの新しい日々が幕を開けた。



かつての幼なじみは居ない。

いるのは俺の彼女の今井七海。


いじめられて泣いていた夏樹花恋はもう居ない。

いるのは強く、たくましい夏樹花恋。


愛海だってそうだ。

愛海も今、俺たちの通う学校の副会長。


こうして当たり前のように世界は回り続ける。




「おはよう。俊。好きだよ。」

「あぁ。おはよう七海。好きだよ。」


俺たちはそう言ってにっこりと笑いあった。





「スクールカースト最底辺の俺が何故か美少女達に好かれている」


完結。

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