第39話 「女神様の気持ち3」

「では、明日は十時に駅で待ち合わせということで。絶対に遅れたらダメですからね。」

「あぁ。わかってるよ。」

俺はそう言って腰に左手をあて、右手の人差し指をピンっとたててまるで先生が小さい子に注意するように言ってきた花恋さんに苦笑しつつ、そう返事をした。


俺たちは家が近いので必然的に同じ電車に乗り込み、ガタガタと揺られながらお互い話さずにただ、沈黙が流れた。


あぁ、わかってるよ。花恋さんがどういった意図で俺を遊びに誘ったのかくらい⋯⋯。

だから、そんなに悲しそうな表情をしないでよ。


でも、これはまだ言えないんだよ。気づいてるって。そんなこと言えない。


「なぁ花恋さん。」

「なんですか?」

「⋯⋯いや、やっぱなんでもないや。」

「ふふっ。なんですかそれ?」

花恋さんはふふふと、上品に笑い、「やっぱり俊はおかしな人ですね」と言った。


「それなら花恋さんもよっぽどの物好きだよ。」

そう心の中で返してやった。


しばらく電車に揺られてようやく最寄りの駅に到着した。あとは歩いて帰るだけ。俺は最近慢性的な運動不足を解消するために駅まで歩く、というより基本的に自転車は使わずに歩くことにしている。あとは軽く腹筋や腕立て伏せなどの筋トレも始めた。目指せシックスパックだ。


どうやら花恋さんは自転車で来ていたようで、今は俺の隣でおしながら歩いている。ただ歩いているだけでも視線を集めるんだからすごいと思う。


「花恋さんはやっぱりすごいな。」

自然とそんな言葉が漏れていた。



「じゃあ、また明日な。ばいばい。」

「はい! さよなら!」

そう言って俺の一日は終了だった。




俺は起きたら九時半だった。ということを盛大にやらかしてしまい、新幹線バリのスピードで準備を済ませ、ジェット機バリのスピードで今日ばかりは自転車を使い駅までダッシュした。


着いたのはピッタリ十時。花恋さんは到着していた。


「はぁはぁ。おはよう花恋さん。」

「お、おはようございます⋯⋯。まさか、寝坊しました?」

「はい⋯⋯申しわけないです。」

「うふふ。でも、急いでくれたんですね。」

「そりゃもちろん! 俺だって今日が楽しみだったんだから⋯⋯。」

「っ⋯⋯不意打ちは禁止です⋯⋯。い、行きましょっ!」

「あ、あぁ。」

どうしたんだろう。いきなり耳まで真っ赤にして。まぁそれはいいとして。

「花恋さん、その服似合ってるよ。」

「あ、ありがとうございます⋯⋯。」

あれ? 一層耳が赤くなったような⋯⋯。


「もしかして⋯⋯照れてる?」

「っ⋯⋯ばか! 俊のばか! 無神経! 無自覚! 性悪!」

お、怒った⋯⋯。

「ごめん⋯⋯。」

「ふんっ!」

なんか、拗ねてる花恋さんも子供っぽくて可愛いな。そんな風に思ってしまった。



それから俺たちは遊園地に行った。そして無理やりお化け屋敷に連れていかれて泣きそうになったり、意外と花恋さんがジェットコースターが無理で泣きそうになっていたり、お昼ご飯が美味しすぎて感動したり、まぁ、楽しかった。


そして日が沈み始めて空が赤くてらされる時間になった。時刻でいえば十八時。


「そろそろ、帰ろうか。」

「はい⋯⋯でも、少し、お話、聞いていただけますか?」

「あぁ。」

俺たちは近くの河川敷にやってきた。そこでは夕日がとても綺麗に見え、俺のお気に入りの一つだ。


「俊っ! 今から言う私のわがまま、聞き逃さないでください!」

「お、おう。」

「私は、あなたが好きです! 以前にも言いました。でも、もう一度。これが私の気持ちです。まだ、返事はいりません。もう少しすればその意味が分かるはずですから。だから、俊は俊の気持ちと向き合って下さい。これが⋯⋯私のわがままです。」

花恋さんの顔が夕日に照らされ、赤く輝いていた。まるでこの風景の全てが彼女をより綺麗に見せるための道具だと言わんばかりに美しく見えた。


「分かった。ありがとう。花恋さん。」

「はい。私は待っていますから。例え、どんな答えでも。」

「あぁ。」



俺たちは二人、並んで家に帰った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る