第33話 「目覚め。」
「頑張って」
そう言われた。
誰か分からない少女。
愛海。
そして七海に。
だけど不思議なことに自分でも今見てるのは現実じゃないと分かっていた。これは、多分夢なんだろうな。そう思っていた。
気分がふわふわしている。まるで広い海に一人でプカプカと浮いているような気分だった。体が痛む。鎖で締め付けられたように。腕も、足も動かせない。なのに、今の自分ならできると、そう思っている。不思議な感覚だった。
急に目の前が明るくなった。目を開けた。そしたら寝ている母さんと、七海がいた。俺は安心させたくて手を伸ばそうとしたけど、痛くて動かせなかった。右手、頭、右足、胸の当たりには包帯がぐるぐるまきにされていて血が滲んでいた。
段々と意識がはっきりしてきて、何故こうなっているのかを思い出した。
「俊⋯⋯? おばさん! 俊が、」
気配に気づいて起きた七海が母さんを起こした。
「俊。俊! 大丈夫なの? 七海ちゃん。お医者さんを呼んできて。」
「は、はい。」
七海はそう言って勢いよく病室を飛び出した。
俺はいつも見ていた母の顔が懐かしく、新しく感じた。
「母さん。」
「俊⋯⋯。」
大丈夫だから。泣かないで。と俺は言った。
それから程なくして医者が部屋に入ってきた。知らないうちに一週間経っていたらしい。正直医者も諦めかけていたが奇跡的に。といったところだそうだ。
事故にあったのがちょうど一週間前で、確か俺は私立海凛高校に行って喧嘩して、それから車にはねられたんだ。
これは七海に聞いたがその時の俺の様子は酷かったらしい。
車にはねられて頭を強打したせいで俺の周りには赤い海ができていた。腕は変な方向に曲がっていた。今考えれば背筋がゾッとする。でも、なんで死ななかったんだろ。
意識が戻ってから約三週間ほど経った。明日いよいよ退院出来るそうだ。約一ヶ月ぶりの登校に普段なら絶対にありえないほと気持ちが昂っていて、なぜだか学校が楽しみだった。
俺が入院してる際、お見舞いには花恋さんや愛海、七海、それに担任の先生、あとは咲良も来てくれた。それからクラスメートが色紙にメッセージを書いてくれていて泣いてしまった。
男子からのメッセージは酷かったが⋯⋯。
『三大美女を独り占めすんな!』
『罰だ!』
などなど、おおよそけが人に対して向ける言葉とは思えないものばかりだった。
それとは反対に女子からは
『辛いと思うけどリハビリ頑張って』
『また学校に来てくれるの楽しみにしてる!』などの暖かいメッセージを頂いた。ありがたい限りだ。
特に嬉しかったのは花恋さんからのもので
『俊がいない学校はとてもつまらないので頑張って下さいね。また一緒にお昼ご飯食べましょ! それと、今井さんばかりでなくて私にも構って下さいね。』と書かれていた。
文章から花恋さんの暖かい性格が垣間見えて、その中にも可愛らしい一面が見られた。とても心がほっこりした。
俺は本当に最高の友達を持ったよな。
誰もいない病室に少年の明るい声が響いた。
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