第29話 「過去の精算2」

(霧野俊視点)

「ごめんね。⋯⋯俊。」

何故だか分からないが俺の前に座っている七海が謝ってきた。でも、多分独り言だろう。なので俺はその言葉に返すことはなかった。




キーンコーンカーンコーン──────。

六時間目の終了を知らせるチャイムが校内に流れる。今日は六時間目までの日なのでこれで学校から帰れる。

俺は七海に声をかけて一緒に俺の家まで行くことになっているので予定通りに行動した。


そして、俺たちは家に到着した。それから少し遅れて七海の母、今井かぐらが到着した。


「本当に、すみませんでした。」

七海の母親は俺と母さんの顔を見て、深々と頭を下げそう言った。

「良いですよ。おばさん。俺、もう怒ってないし、七海とは仲直りもできたので大丈夫です。」

「で、でも⋯⋯。何か、お詫びをしたいと思って、これ⋯⋯。」

そう言ってかぐらは紙袋を手渡してきた。

その中にはお菓子が沢山入っていた。


「おばさん⋯⋯。これって⋯⋯。」

そう。入っていたお菓子はどれも俺が昔大好きだったやつばかりだった。おばさんはそれを覚えていたのだろう。

「こんなことで許されていいとは思ってないですが、」

「いや。ありがとうございます。おばさん。それに、俺は怒ってないですって。」


結局俺たちはリビングで同じような会話を繰り返してからしばらく無言の状態が続いた。


「七海、ちょっと出かけよう。」

「「「え?」」」

俺は思ったことを口に出した。何故だか分からないが今は無性に七海と遊びたい。昔みたく仲良く遊びたい。だから俺はそう言った。


「母さん、良いでしょ?」

「え、えぇ。でも七海ちゃんと今井さんは?」

「私は、良いよ。」

「えぇ、かまわないわ。」

と、全員の許可を得ることが出来たので俺は七海と出かけることにした。


もちろん、目的の場所は決まっている。




──────過去の清算だ。




「俊⋯⋯ここって⋯⋯。」

そう。俺たちが来ていたのは昔泥だらけになって遊んでいた公園だ。大きいという訳ではなく、どちらかと言うと小さいが公園の真ん中にクジラの形をした遊具があることからみんなからは『クジラ公園』と呼ばれている。


この公園で俺と七海は毎日のように遊んでいた。あぁ、楽しかったな。そんな風に思えるのはやっぱり仲直りしたからだろう。

前までの俺だとこの公園は『嫌な思い出』とか『トラウマ』の詰まった嫌な場所で、極力ここを通るのは避けていた程だ。でも今は違う。こうしてまた訪れたいと思えるようになった。


「懐かしいな。クジラ公園。遊ぶか。」

「っ──────!」

「なんで、泣いてんだよ。」

七海は泣いていた。

「俊だって、そうじゃん⋯⋯。」

「え、」

本当だった。俺も泣いていた。理由は分からない。でも、何故か涙が出てきた。


夕日で赤く染った空と透き通っていてキラキラとしている七海の涙が美しく映え、写真を撮って額縁に入れて飾りたいくらいだった。

どこか儚げで、繊細で、少し触れたら壊れそうだな。そんな風に思った。


「俊。私、俊に嘘ついてることがあるの。」

「ん? なんだ?」

「転校した理由。あれ、嘘だよ。」

「え、そうだったのか? じゃあなんで?」

「また、いじめられちゃった。」


あぁ。お前はそんなやつだったな。


小さい頃から意地を張って隠そうとするけど、結局は張り切れず俺に助けを求めてくる。


だからだよ⋯⋯。


俺が、お前を嫌いになりきれなかったのは。


俺はお前のそういう所が嫌いだ。


だけど、大好きだ。


とても儚くて繊細な物は実は、壊されて、もう戻れなくて、それで、ここに来た。


この世界に敷かれたレールが導く方に向かう。


なら俺に出来るのは一つだけだろ。


ガラスの少女を守る。


もう、あの時の顔は見たくないから。


「そうか。俺に、任せろ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る