第28話 「過去の精算1」
(今井七海視点)
私は本当に馬鹿だったと思う。後悔なんてもうこれ以上ないというくらいしたし、何回も謝りに行こうって。会いに行こうって。そう思った。だけど、頭が拒んでいた。
『俊は私のことが嫌い。だから、会いに行けば嫌がられる』って。
だけど、違った。
俊はやっぱり俊だった。
優しかった。
暖かかった。
胸が、苦しかった。
この二年間胸にポッカリと空いていた穴が、たった数秒で埋められた。
俊が助けてくれた。
許してくれた。
それが⋯⋯。嬉しかった。だけど、辛かった。
母さんに仲直りをしたことを伝えたら『謝りに行く』と言って。だから明日、俊の家に謝りに行く。
でも、私が謝らないといけないことは過去のことだけじゃない⋯⋯。
私は今、俊に嘘をついているから。
今日は雨。天気は薄暗く、分厚い雲に覆われている。窓は風に吹かれてカタカタと音を鳴らしているし、外では雨が地面に落ちる音が聞こえてくる。
私の席は窓側の前から三番目。そして後ろが俊。
今日は俊の家に謝りに行くから、少し緊張している。もし、許されなくても仕方ないと思う。それくらい酷いことをしたから。
私は授業なんて耳に入ってこないで、昔俊と遊んでいた時のことを思い出していた。
『あはは! 俊のお顔ドロドロだよ!』
『え? どこー? 取ってよー』
『あはは。いや〜。』
『えいっ!』
『キャッ!』
ぺたぺた。ドタドタ。バシャッ。
そんな子供らしい音を出しながら俊と七海は泥団子を投げあって、洋服も、顔も泥だらけな状態で二人『えへへ。二人とも泥だらけだね〜。』なんて言って楽しそうに笑っていた。
そんな様子を
『お母さ〜ん。ドロドロ〜。』
七海はかぐらに。俊は聡美に。各々の母親にそう言った。すると母親たちはため息をひとつつき、『帰ったらお風呂入るわよ。』と言った。
そんな日々が俊と七海にはたまらなく幸せだった。
当たり前のことがずっと続くわけじゃないなんて、この時の二人が知っているはずもなく、なんの根拠もなく、ずっと一緒だと思っていた。二人とも。
時は流れて二人が中学二年生になった時だった。
七海と俊は相変わらず仲が良く、登下校はもちろん、放課後もずっと一緒に遊んでいた。さすがに中学二年生にもなって泥団子の投げ合いはしていなかったが。
でもそんな日常は壊れた。
七海が女子の友人と話していた時だった。以前から噂として耳に入っていた霧野俊と今井七海は付き合っている。ということについて、友人から聞かれた。七海は別に嫌じゃなかったが、事実は付き合っていないので、そう伝えると『付き合ってもいない男女にしてはいつも一緒だし、七海ずるいよ。』と言われた。
当時の七海は何がずるいのか分からなかったが、その友人は俊のことが好きだった。だけど、ただの幼なじみの七海がいつも一緒にいることに嫉妬していたのだろう。
それからだった。七海はクラスの女子からいじめられた。俊は当時から顔が整っていて、性格も優しく気取らない性格だったため女子からはモテていた。だからその女子から反感をかわれたのだ。
そして、七海は言ってしまった。
『あんたとは関わりたくない』と。
それからも俊は七海に話しかけた。
でも七海は嫌な振りをして無視し続けた。
そして、俊は俊に好意を抱いていない女子や、男子から色々と言われてしまった。
「ごめんね⋯⋯。俊⋯⋯。」
私は無意識のうちに謝っていた。それから、涙が出ていた。
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