第21話 「祭りが終わればあれがある。」

ドーンバチバチ──────

ヒュードーン──────。

頭上で煌びやかに輝く火の花に思わず見とれてしまう。

今、俺と花恋さんは人の少ない河川敷で花火を見ている。とても綺麗だ。派手に打ち上げられ、派手に散っていく。時間はほんの数秒。でも、なんだかその数秒の為に信じられないほどの労力、努力、愛情が詰め込まれているんだろうなということをとても痛感した。


「きれいですね。花火。」

「うん。本当に綺麗。」

俺たちはそれから花火大会が終わるまで、一言も話すことは無かった。


多分、今日この場所に来てこの美しい花火を見ていなければただうるさいだけだと。そう思っていたに違いない。だけど、花恋さんとこうして、生で見ることで花火がとても綺麗だという、世間からすれば当たり前のことを感じることが出来た。だから、俺は感謝の言葉を知らないうちに口に出していた。


「ありがとう」と。


なんでだろう? 花恋さんとはまだ会ってからそんなに経っていないのに、昔から、ずっと昔から知っているような気がする。


俺は、中学生だった頃の思い出と言われたら、やはり、悪い思い出。七海との思い出くらいだ。


そのはずなのに、なんでなのだろうか? 時折夢で、俺が一人の少女を助ける夢を見る。

初めは、よくあるラブコメ展開だな。くらいにしか思っていなかった。だが、何か違うんだ。具体的に何が? と聞かれたら困るが、とにかく何かが違う。

実際に経験したことがあるような⋯⋯。そんな気がする。


「俊。一つ。質問をしてもいいでしょうか?」

「ん? あぁ。良いよ。」

「もし、この世界が偽りだとすれば。この世界にタイムリミットが存在するとすれば、あなたならどうしますか?」

「う〜ん。難しいな。その、何をどうするんだ?」

「例えば、私が言ったこと。俊の事が好きだということ。あとは、幼なじみの方の事。」

「そうだな。俺は、この世界にタイムリミットが存在するとしても、このまま楽しく、その最後の時間まで笑っていたいな。俺はさ、幸せだから笑うんじゃなくて、笑えるから幸せなんだと思うんだよ。だから、花恋さんや愛海。それに、七海や咲良。他にもお母さんやお父さんも、みんなと笑って過ごせたら、後悔はないな。」

我ながらくさいセリフだったと思う。でも、これは俺の本心だ。それを理解してくれたからか花恋さんは笑うことなどせずに、一人、納得したように頷いていた。





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(夏樹 花恋視点)

私は変な質問をしました。でも、俊は笑わずに真摯に向き合って、答えてくれました。


『花恋さんや愛海。それに、七海や咲良。他にもお母さんやお父さんも、みんなと笑って過ごせたら、後悔はないな。』

そう答えてくれました。とても、嬉しかったです。


私と、笑っていたい。そう思ってくれることが⋯⋯。とても、嬉しくて、でも悲しくて、なんだか訳が分からなくなりました。


「なんなんでしょうね⋯⋯ホント。」




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(霧野 俊視点)

あの夏祭りから今日で一週間が経つ。俺は課題を全て終わらせ、夏アニメの消化に勤しんでいた。


夏アニメは本当に面白いものが多い。俺は特に一期から見続けていて、俺がアニメにはまったきっかけにもなったソードアート・オンライン通称SAOを本当に楽しみにしている。因みに原作は買ったけど敢えて読んでいない。


あとは、俺の大好きなラノベ「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」のアニメ化決定というツイートを見て、一人で飛び跳ねていた。


そんな感じでだらしない生活を送っていた。

そのせいか、まだ一つだるい予定が残っている事を完全に忘れていた。

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