第19話 「女神様との夏祭り2」

時刻は午後五時。祭りが始まるのは六時からなのでちょうど一時間前ということになる。ここから祭り会場までは歩いて十分程なので、まだ時間はある。俺はそう思いながら録画していたアニメを消化しようとテレビを付けた。

その時だった。

ピーンポーンと、誰かの来訪を伝えるベルの音が鳴った。ある程度、というか相手は予想出来た。十中八九花恋さんだろう。俺はモニターを確認して予想が当たっていたことに何故か喜びを感じていた。


「はーい。まだ早いけど、もう行く?」

『す、すみません。俊とお出かけと考えるといてもたっても居られなくて⋯⋯。』

「そっか。」

俺は気恥しいのを隠すように少し素っ気なく言いながら玄関の扉を開く。

そして、花恋さんの姿を見て俺は息を飲んだ。だって、花恋さんは浴衣を着ていた。色は淡いピンクの浴衣で、花の絵が描かれている。可愛い。とかじゃなくて、綺麗だったのだ。


「花恋さん。その浴衣、とてもよく似合ってるよ。綺麗だと、思う。」

素直に褒めるのにも勇気がいるんだな。

「き、綺麗だなんて⋯⋯嬉しいです。ありがとうございます。」

そう言った花恋さんは余程恥ずかしかったのか耳まで真っ赤に染めていた。


「上がって。外暑いでしょ。」

さすがに今から外に出るのは暑いし、どうせ人多いし⋯⋯。なので、ギリギリまでクーラーの聞いた涼しい部屋でのんびりしようと思って、言ったのだが⋯⋯。

「へ? え、えぇぇぇぇ!? そ、そんな! し、俊のお家ですか? 入っていいんですか?」

「何をそんなに焦ってるんだ? 良いよ。外暑いでしょ? 俺の部屋クーラー効いてるから早く。」

「は、はい! 失礼します!」

そんなに嬉しいのか? 花恋さんは心底幸せそうな表情で綺麗に靴を並べ、上がってきた。



随分と話が変わるが、最近気になっていることがある。

父さんが帰ってこないことだ。父さんは仕事の関係上帰ってこないことは今までもあった。だけど、だいたいそういう時は前もって報告してくれる。だが、今回は突然どこかへ行ってしまった。


気になった俺は花恋さんには申し訳ないが母さんに聞いてみることにした。


「母さん? ちょっといいかな?」

「ええ。どうしたの?」

「父さん、いつ帰ってくるんだ?」

「帰ってこないわよ。」

は? 何を言ってるんだ? 冗談にしては顔が真面目すぎる。帰ってこない? それって

「まさか、離婚⋯⋯したのか?」

「えぇ。言ったじゃない。『出ていった』って。」

「それ、そういう意味だったのかよ⋯⋯。」

衝撃⋯⋯とまではいかないが、びっくりはした。まあ、前々から両親の仲はお世辞にも良いとは言えなかったので、いつかはこういう日が来るんじゃないか? とも思っていた。だが、それについての相談くらいしてくれても良かったんじゃないか? と思う。


俺はさっき聞いたことをひとまず忘れて、花恋さんのいる自室に戻った。


「俊。何か、ありましたか? 表情が少し、暗いですが⋯⋯。」

「いや、大したことじゃないから。大丈夫だよ。ありがとう。」

「いえ。でしたら、良かったです。そろそろ行きますか?」

俺はそう言われたので壁に掛けてある時計に目をやる。すると時計の針は六時の二十分前を指していた。

「そうしようか。」

俺はそう言って家を出て、会場へ向かった。


俺たちは並んで歩く、何故か分からないが母さんに祭りに行くと伝えたら服一式と、髪までセットされてしまった。

俺は前髪を上げている。なんだか、妙に見られている気がしてソワソワする⋯⋯。多分、花恋さんの浴衣姿に見とれているんだろう。


「うぇ!?」

花恋さんがいきなり腕に抱きついてくるから変な声を出してしまったじゃないか! 

「か、花恋さん!?」

「うぅぅ〜。」

花恋さんの目は気に入ったおもちゃを見つけた猫のそれだった。あとは⋯⋯誰にも渡さないぞって感じがした⋯⋯。


「な、なぁ⋯⋯? どうしたんだよ?」

「うぅぅ〜。あの女達⋯⋯。イケメンな俊のことを見てデレデレしてます。俊は、私の俊です!」

いつから俺は君の所有物になったんだろうな?

俺は祭りの会場に着く前からテンションがだだ下がりだった。

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