第17話 「夏休み。初日。熱。」

昨日は朝からクソモブチャラチャラキ〇ガイ君に絡まれて、愛海が嫉妬して怒って抱きついてきて、それに花恋さんがさらに嫉妬して⋯⋯。ここからは察して欲しい。つまり災難だった。だからだろうか? 今日、俺は熱を出してしまった。


体がダルい。頭がボーッとする。何か考えると頭がズキズキ痛む。鼻水が出る。喉が痛い。


俺は横になってボーッとしていたのだが、いきなり着信音が流れ出して飛び起きた。


相手は⋯⋯。七海? どうしたんだろう。


「もしもし七海か? ゴホゴホ⋯⋯どうした?」

『え!? ちょっと俊風邪? 声ガラガラだよ?』

「あぁ。ちょっとな。熱が出てしまって。ゴホゴホ。」

『もぉ。おばさんは?』

「咲良連れて遊園地行った。」

『えー? じゃぁ、家に誰もいないの?』

「あぁ。ゴホゴホ。いないよ。」

『そっか⋯⋯。分かった。』

「ん? 何が?」

そう言った所で通話は切られた。そして、二十分ほど経ってからピーンポーン。と誰かの来訪を伝えるベルの音が鳴った。俺は宅配便かなにかだろうと思ってドアを開けるとそこには見知った顔がいた。


「お前⋯⋯。何してんの?」

「見てわかんない? 俊の看病してあげようと思って。」

一瞬何を言っているのか分からなかった。

七海が両手いっぱいに袋を抱えて何故か嬉しそうな表情で立っている。


「ゴホゴホ。じゃあ、お願いするわ。入って。」

「うん!」

どうしても帰らないオーラを身にまとっていたので俺はお願いすることにした。体調が悪い時、どこか人肌恋しくなるものだ。

俺は部屋に案内して横になった。


「俊。先にこれ食べて薬飲んでから寝よ?」

「あぁ。わかった。」

七海はそう言ってゼリーやらプリンやらを取り出してスプーンを出してきた。

「ん。」

「ん?」

「ん。」

「ん?」

そんな会話が続いた。だって、中々俺にスプーンくれないし、七海がスプーンを持ってるし、まさか、俺に食べさせられろって言ってるのか?


「自分で──────」

「ダメ。病人なんだから。」

そういった七海は無理やり俺の口にゼリーを当てて「ん」とだけ言った。

だが、その顔を真っ赤に染まっており、ここで無視するのは七海が可哀想だと思った俺は仕方なく口を開け、ゼリーを食べた。


「美味しい⋯⋯?」

「うん。ありがと。七海。」

不思議だ。つい先日までは疎遠になっていて、顔を見て話すことはおろか、メッセージでのやり取りすらも怖かった相手が看病をしてくれている。


その事に俺は嫌悪感を抱いていないというのが一番不思議だ。


「七海⋯⋯。一つ聞いてもいいか?」

「いいよ。」

「お前はもう⋯⋯怒ってないのか?」

「へ? 私が怒ることなんてないよ。怒られることしか⋯⋯。」

「そうだったのか?」

「うん。本当にごめんなさい。」

七海はそう言うと深々と頭を下げた。

そして、泣いていた。


「お、おい⋯⋯。そんなのいいって、言ったろ? 俺はお前と仲良くなれればそれでいいんだって。」

「俊⋯⋯。ありがと。ねぇ、私も一つ、聞いてもいい?」

「あぁ。」

なんだろう? 雰囲気的に言いにくそうなことだろうとは思った。


「あのね、例えばの話だけど、俊がいじめられてたとして、そのいじめてたのが異性だと考えてね、その女の子は俊に告白してきたの。じゃあ、俊だったらどうする?」

「ん? そりゃ、いじめの具合にもよるけど、普通に考えて振るだろうな。」

「だよね⋯⋯。」

何故か分からないが七海の声が沈んだように聞こえた。

気のせい⋯⋯かな?


俺はズキズキ痛む頭で考えたが、限界だった。気づいた時には時計の針は二周程回っていた。


「あ、俊。起きた?」

「あぁ。おかげでだいぶマシになったみたいだ。」

「そっか。良かった! 俊、お粥作ったけど食べれる?」

「ん? あぁ。さんきゅな。」

俺は七海が作ってくれたお粥を口に運ぶ。因みに今回は自分で食べました。


こうして七海の看病もあり、次の日の朝にはすっかり元気になっていた。

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