第三章:夏休み編
第16話 「夏に君にした初恋。」
(夏樹花恋)
思い返せば私が恋をしたのは夏でした。まるで、私の名前のようです。
初め、この気持ちに気づくことが出来なかった私はお母さんに聞きました。するとお母さんは目を輝かせながら「まぁ! それは恋よ」と言いました。そう言われると、なんだか心の中の突っかかりが落ちて、ストンっと納得出来ました。間違いなくあれは初恋でした。
ですが、実は今、母親は他界してしまい、父親と二人の生活です。
たまに寂しくなることもありますが、もう大丈夫です。何やら母は重い病気にかかっていたらしく、私に心配させたくなかったため最期まで隠していました。
そんな母親が気づかせてくれた。
あの人を見ると胸がドキドキして、話せただけで嬉しくて、あの人のことを考えるだけで胸が踊る。
そんな感覚が恋だって言うことを。
私は夢の中でもう一度初恋をしました。
霧野俊君です。
優しくて、かっこよくて、暖かくて、強い人。
そんな、素晴らしい人です。
私はこんな人と仲良くできることがとても幸せに思います。だから、できるならもう少し。夢の続きを見てみたいです。
----------------------------------------------------------
(霧野俊視点)
ダルい朝。いつもと変わらない光景。もう何度目かも分からないこの光景にそろそろ飽きてきた。
いい加減何か違うこと、スパイスを加えて欲しいものだ。そんなことを考えがら歯を磨き、顔を洗って髪をセットして準備万端。面倒な事に今日までは学校なのだ。俺は夏休みは嫌いだが、学校も嫌いだ。好きなのは土曜と日曜と祝日くらいだ。だって、短いから暇にならないもん。
夏休みほど長いと暇で暇で仕方なくなるのだ。俺もバイトとかしたいな。
なんでもうちの高校は公立で、バイトは禁止なのだ。校則はそこまできついと言うことでもないが、まぁ、緩くはない。
駅に到着して、ホームで電車を待つ。約五分ほど待つと電車が来たので、乗り込み、席がいっぱいだったため吊革を持って立つことにした。
ソーシャルディスタンスを確保しようとすると、どうしてもいっぱいになってしまう。こればかりは仕方ないことだが。
つい半年前まで俺にとってマスクなんて無縁な存在だった。だけど、今ではもう親友と言ってもいい。
電車に揺られること三十分。学校の最寄りの駅に到着。俺は駅から出て、歩いて学校まで向かった。駅から学校までは歩いて五.六分ほどなので、近い。
学校に着いた俺は教室に入って自席に座り、ライトノベルを開く。今日のラノベは魔剣学院の聖剣使いというタイトルの学園ファンタジーのものだ。
俺が一人、読書に耽っていると、なんと無礼な俺の読書タイムを邪魔する輩がいた。
「なぁ〜。お前ってさぁ〜。オタクなのぉ?」
なんともカチンとくる喋り方。見た目。俺の嫌いなキャラナンバーワンの人が来た。
「誰?」
「はいぃ〜? お前ぇ〜俺の事知らないのぉ〜?」
ダメだ。無視しよう。じゃないと前の七海の時見たく手を出してしまう。そもそもなんという自意識過剰ぶりだろう。こんな絵に書いたようなナルシストがいたとは⋯⋯。世の中は広いな。
「えぇ〜? 無視〜? 酷ぉ〜。」
「⋯⋯。」
「ねぇ〜。無視は良くないってぇ〜。」
「⋯⋯。」
「おいぃ〜。いい加減──────。」
「黙れ。向こういけ。」
余程俺はイラついていたのか無意識にびっくりするほど冷たく、低い声が出た。
クソモブチャラチャラキ〇ガイ君は驚いた様子で謝ってそそくさと逃げて行った。
そして、それから十分後。
「おはようございます! 俊くん!」といつものように⋯⋯いつものように、かなぁ? なんか違う気がするけど女神様が降臨なされた。でも、今間違いなく俺に挨拶したよな?
「あぁ⋯⋯。おはよう。花恋さん。」
あれ? いつもなら教室全体に挨拶するところなんじゃないの?
「あれぇ〜? 『俊くん』『花恋さん』って呼び合うなんてぇ〜。仲良いんですねぇ〜。」
「黙れっていたよな。モブキャラ。」
「ヒグッ⋯⋯。」
どうやら効果は抜群だったようだ。恐らく一時間目までは再起不能だろう。
こうしていつも通り(?)の日常がスタートした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます