第14話 「午前7時。変わらぬ光景。」

(今井七海視点)

私は雨のせいかこの季節にしては暗すぎる道を一人歩いていた。どこか心は浮かず、早く家に帰りたい。そう思った。私は早足に歩いた。だけど、誰かに手首を掴まれた。


「なぁ、お前さ⋯⋯。まだ、俺の女になる気は無いの?」

「だから、私は好きな人がいるの!」

「なら、俺の事を好きになれよ」

なら、の使い方を間違えてる。ていうか、文になってない。どうしよう。単純な力比べで女の私が男の彼に勝てるはずもない。

誰か⋯⋯助けて。

そう思った刹那だった。

私の手首を掴んでいた男の顔が横にぶれ、そのまま地面にひれ伏す形になっていたのだ。

咄嗟のことで何が起こったのか分からなかった。

でも、現状を理解するのに十秒も必要なかった。


「大丈夫か⋯⋯。七海⋯⋯。」

「俊⋯⋯。なん⋯⋯で。」

そう。私がついさっきまで考えていた俊が助けてくれたのだ。

「ダメ⋯⋯! そんなに、優しくしないで。私は⋯⋯。俊にそんな風にされていい女じゃないから⋯⋯。あんなに酷いことをしておいて⋯⋯」

パチンッと。音が鳴り響いた。それと同時に頬に痛みを感じた。

俊にビンタされていた。

俊は唇を噛み締めていた。

俊は泣いていた。

俊は、こう言った。

「お前は⋯⋯どこまでバカなんだよ。」と。


その瞬間私の中のストッパーが外れた気がした。一気に我慢していた涙が溢れてきて、抑えられなくなった。


「良いか。よく聞けよ。俺はお前ともう一度仲良くしたい。叶うなら以前。小学生の頃のように。もう、言わないぞ。」

「俊⋯⋯。でも、私は。」

「もう一度は言わない。と言っただろ。」

俊はそう言ってかつて、私に向けてくれていたきれくて、輝いていて、憧れていた笑顔を見せてくれた。


「お前⋯⋯誰⋯⋯なんだよ⋯⋯。」

「なんなんだよ⋯⋯。てめぇはよ! お前は七海の何を知ってるんだ!?」

「黙れよ。ほら、こんなやつ良いから俺の彼女に──────」

俊はもう一度男の顔を正面から殴った。男はその場にひれ伏していた。

私は、何も出来なかった。


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(霧野俊視点)

俺は七海を口説いていた男の顔を正面から殴った。男はその場にひれ伏していた。


俺は七海の手を引いて走った。そして、懐かしい場所に辿り着いた。


「ここ⋯⋯。」

「懐かしいよな。よく遊んだな。ここで。」

そう。俺たちが来たのは家から近くの公園。小さかった頃よく泥だらけになって遊んだ公園だ。

俺たちはベンチに座り、話すわけでもなく、ただ、雨の中濡れていた。

俺は、自分の傘を七海に無言で被せてやった。七海は一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐにその傘を真ん中に持ってきて、俺も入れるようにした。


俺はこんな時間がずっと続いてくれれば。と心から願っていた。









私は、人生で初めて、絶望しました。

見たくなかったもの。

目を背けてきたものを見てしまいました。

覚悟はしていたつもりです。

でも、耐えられませんでした。

頬を一筋の涙がつたいました。

目の奥がツンとします。

でも、彼が幸せなら。そう思えました。

以前なら。

でも、今はそう思うにはこの気持ちが大きくなりすぎました。

だから、耐えられませんでした。

こんな世界。嫌だ。そう思ってしまいました。

また、同じことの繰り返し。

歴史は繰り返される。

その通りです。

私は、絶望しました。

この世界で初めて。








俺は──────夢を見ている。

そうだ。あれは、夢だった。

過去の清算。

選択肢のやり直し。

間違えた問題の解き直し。

パズルのはめ直し。


一つ一つのピースをはめ直して、こうしてようやく目を覚ます。


俺の意識は覚醒する。

いつもと変わらない朝。

ピピピというやかましい電子音で目を覚ます。


そこにはAM7:00の表記。

いつも通り。

横には咲良が居る。

いつも通り。

リビングには母が居る。

いつも通り。

そんな光景だからだろう。


俺は──────夢を見ている。

そう思ったのは。


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こんにちは! 麝香じゃこういちごです!


何も言ってませんでしたが、このお話で二章の本編は終了です!次回、一話だけ回想の話を挟んで第三章に突入です!


ここまで読んでくださった読者の皆さん!

ありがとうございます!


ようやく期末テストも終わり、もう少し更新ページをあげれるかと思いますので、これからも読んでいただければと!


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