第13話 「雨降って地固まる」

俺は、夏休みに美少女とプールに行くという予定、それから、また別の美少女と夏祭りに行くという予定が入ってしまった。

世間一般からすれば『美少女と』というだったの四文字が付くだけで羨ましいのだろうが、生憎様。俺はそもそも人が多いところを好むような性格ではないし、むしろどちらかといえば嫌う方だ。


「はぁ。」

「どうしたんですか? こんな朝からため息なんてついて⋯⋯。ため息をつくと幸せが逃げていくそうですよ?」

「お前が原因だよ!」とは言えるはずもなく、俺は弱々しく「なんでもない。眠いだけだ。」と返した。


一方で『女神様』や『天使様』のテンションといったらもう、考えられないほど高い。


『天使様』こと愛海なんて踊ってるくらいだ。さっきから視界にチラチラ入ってくる。気の所為かもしれないが、ずっと俺の方を見てくるような気がする。


『女神様』こと花恋さんといったら、いつもの落ち着いた雰囲気はなく、子供らしくあどけない表情をしている。何故だろう。妙に守ってやりたくなってくるんだが⋯⋯。これは、兄の性分というやつか?

俺は結局一日考えたが、まだ、答えは出そうにない。今は雨の音に意識を預けてボーッとしよう。空が曇り、夏のこの時刻にしては暗くなった空にそう、独り言を呟いた。


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(今井七海視点)


私は今日も告白された。ここだけを聞けば自慢だと思われるかもしれないけれど、私には好きな人がいる。本当は好きになっちゃいけない人。私のせいで人生が狂ってしまった人。そんな人を私は好きになってしまった。いや、好きになっていた。かな? とにかく私は雨の中告白された。それも訳の分からない言い方で。


『俺の彼女にしてやる』とか。どこまで自信過剰なのか、頭をかち割って脳みそを見てあげたいわ。まぁ、当たり前だけど私は即答で断ったわ。それからがしつこかった。

『なんで嫌なの?』とか、『俺の彼女だよ』とか、正直言ってキモイを通り越して引いた。うん。ドン引きだった。


「はぁ⋯⋯。俊⋯⋯。ごめんね⋯⋯。」

私の口から無意識にそんな言葉が漏れる。できるならもう一度、最後にもう一度だけでもいい。仲良くして欲しい。『七海』って呼んで欲しい。そうしたら、この気持ちに区切りがつけれると思うから。


私はそんなことを考えながら雨の中帰路に着いた。


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(霧野俊視点)

俺は珍しく歩きたい気分だったため、いつも乗る駅から一駅歩いた所から電車に乗ることにした。


傘にポツポツと当たる雨の音はどこか心地いい。心の中のモヤモヤが晴らされて行く感じがする。

俺は何故か、幼なじみのことを思い出していた。別に思い出したいとかではない。何故かは分からない。だが、ふと頭に出てきたのだ。


『俊! 今日は何して遊ぶ?』

『あはは! 俊ドロドロだよ!』

そう無邪気に泥遊びをしていた幼少期。


『俊。一緒に行こ!』

『俊! ご飯食べよ!』

戸惑いながらも仲良しだった小学生時代。


そして──────

『もう、話しかけないで。私、あんたなんかと付き合ってるとか死ぬほど嫌なの。だから、関わらないで。』

関係が壊れた中学生の頃。


俺は幼なじみとの過去を振り返っていた。


もし、俺が謝れば許してくれるだろうか?

もし、もう一度仲良くしたいと言えばしてくれるのだろうか?

もし、もう一度会えたら⋯⋯。あいつは、七海はなんというのだろうか?


本能的に気になった。だからだろう。俺がこの道を通ったのは。都合がよすぎる。そうかもしれない。だが、これは、神が決めたレール。俺たちはそのレールの上を走る電車。行先は決められている。なら、せいぜい道中くらいは楽しもう。そのために、この夢に一区切りを付けよう。

俺は、そう思った。


だからかもしれない。あんなことが起きたのは。

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