第12話 「ピンチ⋯⋯からのチャンス!」

(夏樹花恋視点)

まずいことになってしまいました⋯⋯。非常にまずいです⋯⋯。愛海が俊くんをプールに誘ってしまい、俊くんもそれにのってしまいました。このままでは愛海に先を越されてされます。その前に何とかアピールしなければ。


「どうしたの花恋? 難しそうな顔して?」

「い、いえ。少し、考え事を。」

「また霧野くんのこと?」

「は、はい⋯⋯。その、愛海がプールに誘ってしまい、このままでは愛海に先を越されてしまうと思うと、何かしないとって。」

「そっか。まぁ、夏なんだし夏祭りとか行って、それから花火とかでもいいんじゃない?」

「さすがです! 唯華ゆいか! それですよ!」

あ、申し遅れましたが今私にアドバイスをくれたのは幼い頃からの友達、深山唯華みやまゆいかです。いや、やはり唯華は流石ですね。

浴衣姿で登場して、俊くんに「ごめんなさい。遅れてしまいました。」などと言ってから俊くんに「俺も今来たとこだよ。」と言ってもらいます。そして、会場は恐らく人が多いでしょう。ですから、ちょこんと俊くんの袖をつまんだり、あわよくば手を繋いだり⋯⋯。

「きゃぁぁ!」

「あんた、キモイよ。」

「うぐっ⋯⋯。すみません。取り乱してしまいました。では、早速俊くんを誘いに行ってきます!」

私は決意しました! 行ってきます!


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(霧野俊視点)

はぁ。俺は今、またもや困っている。あぁ。原因はそうだな。『女神様』と、その友達さんの会話だ。だって、なんか俺の事を夏祭りに誘うとか何とか⋯⋯。はぁ。あんなの人が多すぎて良いそうだ。考えるだけで憂鬱になる⋯⋯。

でも、花恋さんはあんなに楽しみにして、鼻息を荒くガッツポーズしている。てか、こんなの見てしまったら嫌でも断れないじゃないか。


「あの、俊くん⋯⋯。少し、良いですか?」

「はぁ。」

そうだ! 俺、やり返そ!

「なぁ、? 俺からも良いか?」

「は、はひぃ!?」

ははは。分かりやすく耳まで真っ赤にして照れてるよ。まだまだここからだぜ!

「あのさ、俺、夏休みに花恋と行きたいところがあるんだよ。いいか?」

「は、はい⋯⋯。」

「祭り。行かないか?」

「は、はい! 私も、お誘いしようと思っていたところです! でも、気が合いますね!」

いや、合わせたんだ。

「やはり、私と俊くんはお似合いです!」

どこまでおめでたい頭をお持ちなんだ。この女神様は⋯⋯。

まぁ、可愛いからいいんだが。

こうして俺は夏休みに憂鬱な予定が二つも入ってしまった。


-----------------------------翌日

今日もまた、学校だ。だが、今日は木曜日なので明日学校に行けば土、日と休みだ。俺はボーッとした頭を起こすように頭をブンブンと三回振りリビングへと向かう。そして、いつものように朝食を取り、違和感を覚えた。


「なぁ、母さん。父さんはどこに行ったんだ? まだ寝てるのか?」

「いえ⋯⋯。あの人なら、出ていったわよ。」

そうか。今日は仕事が忙しいんだな。

「大変なんだな。何時頃帰るって?」

「分かりませんね。」

「そっか⋯⋯。」

因みに父はサラリーマンだ。一応立場は課長と上の方らしい。まぁ、そのおかげで引越しやらが多く、困ることもあるんだが。息子としては親が課長だと、なんだか妙に誇らしい。


俺は着替えると学校に向かう。途中で花恋さんと会ったため一緒に登校することにした。


「今日は咲良ちゃんと一緒じゃないのですか?」

そう。いつもなら咲良を幼稚園まで送ってから学校に向かうのだが、あいにく咲良は熱を出して寝込んでいるため、今日は一人だった。

「あぁ。咲良は熱があって幼稚園は休むらしいから。」

「そうでしたか。お大事に。」

「伝えておくよ。」

俺と花恋さんは他愛もない会話を交わし、並んで歩いていた。


俺はやはり、どっちが好きとか、誰が好きとか、そういうのはまだ分からない。最低だ。とか、クズ。とかそんなのは自分でも思っている事だし、言われてもしょうがないと思う。俺はもう一度自分の心に聞いてみる。『俺が好きなのは誰だ?』と。だが、その質問に答えは返ってこない。いずれ、出さなければいけない。


そんなことを考えながらまた、一日を無駄に浪費して行く。

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