第6話 「女神様とのデート(後編)」


「あれ……俊……?」

「お前かよ……。」

ダメだ。思いだしたくなかったのに……。こいつの顔を見るとどうしても思い出してしまう……。もう、以前のように暖かく、他愛もない会話をしようという気にはとてもなれない……。

もうわかっていると思うが、俺は最悪の相手、今井七海と会ってしまったのだ。

「なな~。この子誰? 知り合い?」

七海はおそらく級友と思われる女子三人と遊んでいた。

「違うよ……。幼馴染。」

「行こう……。花恋さん……。」

「え……。ですが、この方は知り合いなんじゃないのですか……? いいのですか?」

「ああ。俺はそいつに嫌われているからな……。」

あぁ……。俺ははっきり言われたんだよ……。〝お前とはかかわりたくない〟と。

「ちょっと! 待ってよ!」

聞こえない。本当は仲直りしたいと思っているのに……。こんな時に俺の耳は言うことを聞いてくれない……。

結局俺は逃げた。花恋さんの手を引いて走った。

「俊……。俊の過去はわからないです。でも、私は俊のことを本当に大切に思ってるんですよ? なので、可能な限り何があったのか私に教えてくださいませんか?」

でも、こんなことを今話してもいいのか? おそらくだが、このことを言ってしまうと空気を悪くしてしまうと思う……。

「今はデートとかはなしです。なので話してください。」

花恋さんは俺の心を読んだように話してくれた。だから俺はすべてを話した。

「そうだったのですね……。そんなことがあったんですか……。それで俊はいつも一人を好むのですか。分かりました。私は俊にとってかつての今井さんのように信頼できる人になれるよう精一杯頑張りたいと思います! ですから私には、悩みがあれば何でも気兼ねなく相談してください!」

「……。」

「俊……?」

気付いたら俺の頬を涙が伝っていた。

あの時、こんな素敵で、優しく接してくれる人がいるなんて思ってもなかった。俺は幸せ者だ……。

「大丈夫……?」

「うん。うれしくって! ありがとう花恋さん!」

俺たちは当初の目的である水族館に向かって、歩みを進めた。そして、三十分程歩いて、ようやく到着した。

「わぁ! 見てくださいよ俊! 水族館ですよ! ジンベイザメです! 大きいです! 俊、イルカさんはどこでしょうか? 早くイルカさんに会いたいです!」

おいおいおい……。ちょっと待ってくれよ……。君のイメージがどんどん変わっていくんだが……? まぁ、可愛いけど……。

だがしかし! 俺はイルカさんよりもペンギンさんに会いたいんだ! だから残念だがここは先にペンギンさんだ!

「花恋さん……。残念だが、先に行くところがあるんだ……。」

「はい……? でも、俊も一緒ですよね……?」

「あぁ。もちろんだけど……。イルカさんはいいのか?」

「はい! 私にとって一番楽しいのは俊といることで、イルカさんは道具にすぎません!」

そんなにストレートに言われると照れてしまうだろ! クソっ……。顔が熱い……。てか、イルカさんは道具とか言っちゃったよこの子。本気でイルカさんが好きな人が聞いていたらどうなっても知らないよ? 

「それで……行くところとはどこなのですか?」

そうだった。ペンギンさんを見に行くんだった! 花恋さんが可愛いから忘れてた……。

「俊……? どうかしましたか……?」

「ううん。何でもないよ。ペンギンさん見に行こう!」

「ペンギンさんですか! いいですねペンギンさん! 私も大好きですよ!」

マジか⁉ それは嬉しいな!

「そうだったんだ! 可愛いよね⁉」

「はい! あのよちよち歩きはたまりませんね!」

結局俺たちは三十分程ペンギン愛を語りあっていた。

 それからは二人でペンギンを見て、イルカショーも見た。あとは、カップル限定のイベントにも参加した。でも待ってくれ! これにはマリアナ海溝くらい深いわけがある! だって咲良がすきなプ○キュアのキャラの人形があったんだ! 咲良が喜ぶ顔を想像すると居ても立っても居られなかったんだ! な? マリアナ海溝くらい深いだろ? ごめんなさい。公園の水たまりくらい浅かったです……。まぁ、なんにせよ今までで一番楽しかったといっても過言ではないほど楽しかったのは本当だ。今まではあまりというか、殆ど友達と遊ぶことが無かったからこんな風に遊ぶのはあの時以来だ。やめよう……。せっかくのデートだ。こんなことを考えてたら相手に失礼だ。俺たちは一通り水族館を回り、時刻も十八時といい時刻になっていたので、解散することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る