第5話 「女神様とのデート(前編)」

これ⋯⋯いつ渡そうかな⋯⋯?

そう。俺はダッシュでモールに戻ってくまさんの人形を買った。でも、どのタイミングで渡せばいいのやら⋯⋯。


パターン一

〝芝田さん。今度の日曜日空いてる?〟と聞くパターン。

パターン二

〝これ、この前のお礼なんだけど。〟と学校で直接渡すパターン。


 まずはパターン一から考えてみよう。

この場合少なくも相手には『もしかしてデートに誘ってくれてる?』と捉えられるだろう。

それが嫌という訳では無いが、少しむず痒い。

 次にパターン二だ。この場合は様々な問題がある。一つは周りの人に『あいつデートしたんだ』と思われること。あとは夏樹さんと話すのが気まずくなることだ。


なので、結局俺はパターン一で行くことにした。一応、家の住所を聞いて、ノートを借りたいという設定で、俺が取りに行くことにした。


いや、待てよ⋯⋯。良く考えれば俺二日連続で別の女の子と会うって⋯⋯。まさか、陰キャ卒業か!? 俺もリア充の仲間入りか!?

いや、無いよな⋯⋯。うぅ。現実怖い。


ということで本日金曜日です。天気は雨。

教室にはハゲた中年教師の声と外で降りしきる雨の音が響いており、時折シャーペンをノートに走らせる音が聞こえてくる。


右隣の人(夏樹花恋)、左隣の人(芝田愛海)の二人からものすごい視線を感じるのだが、気の所為だろう。うん。気の所為ということにしておこう。

ここ一週間で俺は変わった。

何が変わったって、それはクラスの連中(特に女子)から声をかけられるようになった。何故だろう? はぁ。そんなことより明日楽しみだな。なんだかんだ言っても美少女、それも我が学校の女神様とのデートが楽しみでないはずもない。一つ、心配があるとすればナンパだ。

前も結局芝田さんもされていたし。いや、まさか俺がされるとは思ってなかったな。


授業は日本史。基本的に暗記が苦手な俺にとってはこの時間は苦痛以外の何でも無い。教師はそんな俺の様子など気にとめずに何も面白くない親父ギャグを連発してクラスの温度を少しずつ下げていく。まぁ、夏は暑いから助かるけどね⋯⋯。

何故だろう? このようなハゲた中年教師の親父ギャグを聞いていると虚しくなってくる。


そんな授業が七時間繰り返されようやく放課後。今日は親が仕事なので帰りに幼稚園に咲良を迎えに行かなくてはならない。

なので、俺は学校からダッシュで駅まで走り、そのまま幼稚園に直行して、先生と少しお話してから家に帰った。

あとはいつもと同じだ。咲良の相手をして、ご飯を食べてから風呂に入れ、寝かしつけて俺の一日は終了した。


ジリリ──────。

ジリリ──────。

目覚ましの音で俺は目を覚ました。

横ではタオルケットを蹴飛ばして寝ている咲良の姿があった。

今日は土曜日。時刻は午前7時を少し回ったところ。まだ時間はあるので、とりあえず顔を洗い、シャワーを浴びて食事をとる。

そして身だしなみを整え、ゆっくりしてから出発。

咲良は今日、明日とおばあちゃんの家にお泊まりに行くためつい先程家を出ていった。


「さて、俺もそろそろ家を出ようかな⋯⋯。」

誰かのように、部屋に話しかけてみる。

家から駅までは歩いて25分程。部活動に入っていないので、運動がてら歩いて行くことにした。


現在時刻9:15。到着は恐らく9:40~45の間だろう。時間はある。音楽を聞きながら行こう。


そう思い、玄関を出た。すると⋯⋯。

「霧野⋯⋯さん⋯⋯?」

「夏樹さん⋯⋯?」

そう。まさかの展開だ。家を出て一秒で出会うとは。

「家⋯⋯ここなんですね⋯⋯。」

「あぁ。夏樹さんも近く?」

「はい! 私のおうちはあそこのマンションの一番上です!」

「ふぁぁ⋯⋯」

なんだと⋯⋯。金持ちだったのか⋯⋯。

あのマンションとは、所謂超高層マンションだった。ざっと見ただけでも25階はある。高ぇなぁ⋯⋯。


「なんですか?」

「いや、金持ちなんだなと思って。」

「はい⋯⋯。」

もしや、これは聞いてはいけなかったのか? 夏樹さんの表情はさっきの向日葵のように輝いた表情とは打って変わって曇っていた。

「ごめん。」

「い、いえ! それより、折角ですからここからデートを始めましょう!」

「おお。」

デート、か⋯⋯。

土曜と言えばこれまでは咲良の相手をするかラノベを読むかあとはダラダラするかの三択だったからな。友達と遊ぶことすらなかった俺がいきなりデートか⋯⋯。


「もう! 霧野さん! 楽しそうな顔してくださいよ!」

「ん? いや、俺は楽しいぞ? だって夏樹さんみたいな美少女と二人でデートだろ? 楽しくないはずないじゃん。」

「ッ! い、いきなりそんな事言わないでください。恥ずかしいですよ⋯⋯。」

どうしたのだろう? 夏樹さんは誰が見ても美少女だし、可愛いと言われることには慣れてると思うんだが? まぁ、いっか。


「言うの遅くなったけど、服も似合ってるよ。」

「あ、ありがとうございます⋯⋯。」

最後の方はゴニョゴニョと言っていて何を言ってるのかは聞き取れなかったが、嬉しそうな表情だったので間違っていなかったのだろう。

デートでは女子の服装を褒めるのは鉄則らしい。今日の夏樹さんの服装は夏らしい花柄のワンピースに白の麦わら帽子を被っている。全体的に白っぽい色で統一されており、涼しげだ。

さらに、その淡い色合いが『女神様』としての夏樹花恋の可憐さを増加している。

花恋だけに⋯⋯⋯⋯。

ごめんなさい⋯⋯⋯⋯。


デートといってもまだ俺たちは付き合っていない。なので、手を繋いだりとかはしない。だが、俺にとっては美少女と二人で並んで歩いているというだけでテンションはマックスだった。


「夏樹さん! 水族館行こ!」

「はい! あと、出来れば名前で呼んで欲しいです⋯⋯。」

「ッ!」

何? 俺に女子の名前を下の名前で呼べと?

ぐぬぬ⋯⋯。こいつ恐ろしいぞ⋯⋯。

「ダメ⋯⋯ですか⋯⋯?」

「いや、花恋⋯⋯。」

「はい! 俊さん!」

そんな顔で見られたらダメなんて言えるわけないだろう? クソっ顔が熱い⋯⋯。


『ねぇ、あのカップル見てよ。超お似合いね』

『ほんとだ。可愛い。』

『彼氏の方もイケメンね。』


「うふふ。私達お似合いなんですね。」

何故君は俺がスルーしていた事を言ってしまうのだろう? 周りの声がうるさい! 設定で消せないのか? おい! 折角のデートなんだし空気読めよ!


「あれ⋯⋯俊⋯⋯?」


「は⋯⋯?」


空気読めよ⋯⋯⋯⋯。

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