第2話 「今更⋯⋯」

帰宅し、とりあえずシャワーを浴びた俺は早速最愛の妹である咲良の元へと足を動かした。

「咲良〜。お兄ちゃん帰ってきたよ〜。」

「あ、お兄ちゃん! おかえりなしゃ〜い!」

そう。最愛の妹と聞いてシスコン野郎! と思っただろう。そうだ! 俺は、自他ともに認めるシスコンだ! でも、俺は小さい子の相手をするのが好きなのだ。というか、よく親や親戚から「俊ってまだまだ幼稚園児とレベルが同じだから、相手してもらえて助かるわ!」と言われる。それは、素直に感謝されていると受け取って良いのだろうか? どこか妙に引っかかるが、まぁ、何事もポジティブシンキングが大事だと以前読んだ本に書いてあった。


「お兄ちゃん! 今日は何して遊ぶの? 咲良ずぅっと待ってたのに! お兄ちゃん遅いよォ! でもね、咲良お留守番できたよ! 偉い?」

「あぁ。偉いぞ! 咲良! よしよし。いい子にはご褒美だね。なんでも咲良がしたい遊びを言ってご覧?」

咲良は今3歳だ。親がいるのでお留守番なのか? と思わないでもないが、本人が満足しているようなのでいいだろう。

そう思い俺は咲良の頭を撫でてやる。すると、咲良は猫のように「ん〜」と幸せそうな顔で笑っていた。


「じゃあね、じゃあね、おままごとがいいな! 咲良、センセーやるから、お兄ちゃんは幼稚園の子供ね!」

「はいよ。」

何やら幼稚園ごっこが始まるようだ。最近幼稚園に行き始めて、よっぽど気に入ったのだろう。だが、この様子でまともに友達と遊べているのだろうか? 少し、心配だ。


「は〜い。皆さん。おはようございます。」

「おはようございます。咲良先生。」

「キャハハ! センセー! センセー!」

この天使は先生が相当お気に召したらしい。どんな人かはしらないが、良かったな。先生。


それから小一時間程相手をすると、下から「俊〜。咲良〜。ご飯できたからそろそろおりてきなさ〜い!」

とマイマザーの声が聞こえた。なので、少し心が痛むがこれも俺の役目だ。

「咲良〜。そろそろ晩御飯食べに行こうか? また、ご飯終わったら遊ぼうな。」

「えぇ〜。いや〜。」

うん。やっぱりそうだよな。う〜ん。これはどうしたものか?

「じゃあ、お兄ちゃんが咲良にご飯食べさせてあげるよ? ほら、まずはお片付けだね。」

そう、散々ブロックやらお人形さんやらを使い、散らかしているので、片付けからだ。

「本当に? お兄ちゃんが食べさせてくれる?」

「うん。でも、いい子にだけだよ? ほら、このブロックはどこに片付けるのかな? お兄ちゃんに教えて?」

「うん! これはね、この箱に入れるの! それで、くまさんはこっちで⋯⋯。」

ハッハッハッ!

どうだ? 凄いだろ? もう、母親替わりだぜ? 


そう。必殺技。片付けしろ! と言われれば誰だって嫌なのだ。だから、わざと、「どこに直すの?」と聞くことによって子供というのは教えたがるものだ。その習性を利用して片付けさせる。これは以前親戚のおばさんが言っていたことだ。


どうにかして片付けを終え、夕食を食べ、咲良をお風呂に入れるという仕事が与えられ、風呂に連れて行った。

すると、ピコンッ⋯⋯。と、俺の携帯に通知が来た。俺の携帯がなるのなんて両親か咲良(名前は咲良だが、実は従兄弟。咲良が大きくなったらこの携帯をあげるらしい。)か、迷惑メールくらい⋯⋯だった。そうだ。俺、女神様とrain交換したんだ。

通知内容をタップして確認すると

『霧野さん。夜分遅くに申し訳ありません。明日の時間割を無くしてしまいまして⋯⋯もし良ければ、写真を送って貰えませんか?』

との事だった。


「咲良〜。お兄ちゃん、ちょっとだけ用事あるから1分待っててくれるかな?」

「えぇ〜。咲良も行くぅ〜。」

「ん、あぁ。まぁいいよ。じゃあ、おいで」

「うん!」

そうして俺は自室に戻ろうとした。

俺の部屋は風呂からリビングを挟んで向かい側。つまり、嫌でもリビングの前を通る。そこで母親が電話しているのが聞こえた。それも、

「怒ってるのか?」

「ママ。どーしたのかな?」

「さぁ。ちょっと聞いとくか。」


「ふざけないで! あなたのせいなのよ! 俊が、こうなってしまったのは⋯⋯。」

こうなった? どういうことだ?


「俊は、本当なら一人でいることを選ぶような性格じゃないの! あなたがあんなことをしていなかったら。わかってるの? 今井さん?」


「ッ!⋯⋯。」

「お兄ちゃん⋯⋯?」

今井⋯⋯。確かにそう言ったよな? アイツか⋯⋯。アイツ、なのか? 


今井七海いまいななみ。幼い頃からの幼なじみ。だか、あることがきっかけで疎遠になった。

いや、きっかけなんてなかったのかもしれない。全ては運命。神の決めたレールを歩いていただけ。だから、必然だったのかもしれない。


俺が思い出したくなかった名前。それが、なぜ電話なんて⋯⋯。


「お兄ちゃん⋯⋯? 用事は?」

「ん、あぁ。そうだったな。行こうか。咲良。」

「うん!」

俺たちはリビングを後にして自室に戻り、時間割の写真を撮影し、女神様に送った。


『ありがとうございます! やはり、霧野さんは優しい方ですね! 助かりました!』

優しい⋯⋯のか?

「お兄ちゃん! 早くお風呂入ろ〜。」

「あぁ。そうしようか。」


そして、俺は咲良を風呂に入れてお互い体を洗い終え、お風呂に浸かりながら六十秒数えて風呂を出た。

後は簡単だ。咲良の頭、体を拭いてやり、服を着せてあげれば俺の任務は寝かしつけだけだ。


ここで、思った人がいるかもしれない。

「親は何をしてるんだ?」と。だが、それは違う。これは、俺がやりたくてやっている事だ。本当は親がやると言っていたが、小さい子の相手をしている時、唯一気持ちが落ち着いてくれるので、俺がやると言ったのだ。それに、親は仕事で忙しいため、これ以上負担をかけたくなかったのもある。


こうして俺は、羊さんを数えながら咲良が寝たことを確認してスマホを見る。


そこには、ある通知が来ていた。

一番嫌な通知が──────。


俺はその刹那怒りや恐怖、言い表せない感情に支配された。

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