第一章:自覚

第1話 「接触」

第一話「接触」

今日も今日とてぼっちの俺は、登校するなりお気に入りのライトノベルを読み、一人、別世界に入り浸っていた。

周りからは視線を感じる。なんだろう? 

もしかして、好意か? それとも、好奇か?

恐らく、後者だろう。まず、俺に好意の視線を向けるやつなんていない。

いたのなら余程の物好きだろう。

俺は、周りの視線の意味に気づけなかった。

若しかするとこの時点で俺の人生における選択は誤っていたのだろうか?

スクールカーストトップの美少女や、イケメン達が楽しそうに談笑している。それを見ているとまるで、「お前とは住む世界が違う」と思い知らされているような気さえしてくる。それほどに彼らは輝いていた。

俺は、陰キャだ。だが、リア充を嫌うようなタチの悪いやつではない。と、思う。もしや、これも俺の思い違いか? 


俺が知っている限り、つまり、このちっぽけな知識ではあるが、それでは、陰キャはだいたいリア充を妬んでいたり、毛嫌いしたりしていた。何故だ? リア充だからなんだ? あいつらが楽しそうに会話しているのと、俺たちが会話しているのに本質的な違いはない。俺は、そう思っている。だから、関わりもしないで人を嫌いになるということか理解出来ないのだ。

と、そんな説明を脳内でしていると、我がクラス──────もとい、我が学校の女神様が登校なされた。そう、夏樹花恋だ。

俺は、基本的に人の名前を覚えるのが得意ではないが、そんな俺でも知っている程の美少女っぷり、それでいて気取らず、更には文武両道、才色兼備ときた。天は二物を与えずという言葉があるが、この言葉もついにひっくり返される時が来たようだ。

最早、二物では足りずに、三物、四物と与えているのではないだろうか? あ、だからこいつは『女神』なんだな。そう納得していた。


彼女は登校するなり「皆さん! おはようございます!」と誰に言うでもなく、強いて言うなら教室全体に挨拶をしていた。

すると、同じくカーストトップのリア充達が「おう! おはよう花恋ちゃん!」と返す。これが我がクラスのモーニングルーティーンだ。

俺はもう一度自分の世界に入り込み、先程まで読んでいたライトノベルの続きを読むことにした。ちなみに今読んでいるのは、大まかに言うといくつかシーズンがあるのだが、初めはゲームの世界に閉じ込められ、ゲームで死ねばリアルでも死ぬ。というデスゲームのお話だ。

もう、アニメも映画も何度観たか分からないがやはり、面白い物は何度観ても面白い。

うん。やっぱりラノベ最高!

「⋯⋯野さん⋯⋯?」

「霧野さん?」

「ふぁっ!」

「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」

「あ、あぁ。大丈夫。」

俺が驚いたのにも無理はないだろう。だって、話しかけてきたのは先程まで頭の中を占領していた夏樹花恋だったのだから。

でも、どうしたというのだろうか? 何故、この女神様は俺のような陰キャに話しかけてきたというのか? 分からない。まるで、夢のような謎の浮遊感に包まれた。それと同時に、この光景に既視感を覚えた。これがデジャブと言うやつなのか? いくら考えたところで答えはでない。なら、考えるのはやめよう。

「あの、もしもし⋯⋯? 霧野さん? もしかして、人違いでしょうか?」

「あ、いや、その、俺であってるけど⋯⋯。」

「はい! あ、私夏樹花恋っていいます同じクラスですが、知ってますよね?」

もちろんだ。ていうか、俺の存在を知っていたことに驚きだ。

「あぁ。もちろん。」

「うふふ。それは良かったです。その、rainを交換していただきたいのですが⋯⋯よろしいでしょうか?」

な、なに!? この美少女様はこんな俺のrainを知りたいのか? いや、まて、そうだ。これは何かの罰ゲームなのだろう。噂に聞いたことがある。何やらリア充の間では非モテのやつらに対して『嘘コク』というものをするのが流行りらしい。そう、つまりはこの夏樹花恋も俺に対して罰ゲームてrainを交換したいと言ったのだ。


「もう⋯⋯。直ぐに自分の世界に入らないで下さい。寂しいじゃないですか!」

なんということだ。どうやらこの美少女女神様は本心から俺のrainを欲しがっているようだ。う〜ん。理解に苦しむ⋯⋯。まぁ、こっちに損は無い。むしろ得しかない。なので俺はスマホを出して、rainを開く。悲しいことに友達は四人だ。だが、これから一人増える。それも女神様だ。

因みに四人は妹の咲良さくらと母、父、そして⋯⋯今は疎遠になってしまった〝アイツ〟だ。あまり思い出したくはない。


「あぁ。いいよ。はい」

「わぁ! やったー! 霧野さんのrainゲットです!」

たいそう嬉しそうに女神様ははしゃいでいる。女神様は普段あまり感情を表に出さないイメージがあったのだが、どうやらそんなことは無いようだ。


その日の俺は、一日中頬が緩んでいた。まぁ、仕方の無いことだ。


そして、下校時刻。何やら騒がしい。上だ。俺たち1年生の教室は3階にある。上にあるのは美術室、理科実験室、それからコンピュータールーム、技術室などの教室だ。つまり、部活動で何か揉め事が発生したのだろう。

無駄に巻き込まれて停学処分でもくらったら不味い。俺は、そのまま帰宅しようとした。

だが、何やら俺の名前が聞こえてきた。


『ねぇ、花恋ちゃん! 霧野君に~〜〜〜。』

上手く聞き取れない。フロアが違うので仕方ないが、確かに『霧野君』と呼ばれた気がする。

『あぁ〜確かに霧野君〜〜〜〜もんね。』

恐らく肝心なところだろうが、何一つ聞こえない。う〜ん。もどかしい。

まぁ、いいか。うちに帰って可愛い妹と談笑と洒落こもう。

そう思い、帰宅した俊だった。

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