第35話。炎他と雷幻の戦い
対峙する飛影とライン
飛影は姿勢を前屈みにして刀を抜いて構える
完全に攻めの態勢
対するラインは飛影の構えを見て僅かに後ろに重心を移動させる
完全に守りの態勢
二人の戦いに対しての姿勢は真逆である
飛影は知らないから楽しむために攻める
ラインは知らないから様子見で守る
すでに魔力は解放済み
飛影の魔力は総量で言えばラインに僅かに劣る程度
(わぁお…)
その事実にダドマは素直に驚いていた
50年以上経っているとはいえ
たかが50年で、ヒヨッコから絶対強者級の別格とも言えるラインとほぼ同程度の魔力なのだ
飛影は実に50年以上ぶりに全力全開の魔力を開放した
ミサンガによる重りも解除し、実に100トンの重りを無くした飛影は本来あるべき身体に戻る
殺気がない勝負とはいえ圧力を感じることはなかった
「それじゃあ開始!!」
ダドマの合図
《炎舞・炎剣ver無炎》
《ナルカミ・雷槍》
飛影は魔剣に無炎を纏わせ、ラインは雷の槍を作成
「ふっ!!」
高速で間合いを詰め、まずは試しにと飛影は一閃
「うわ!?」
ラインの予想よりも速い速度
飛影としても当てるつもりはない一撃、様子を見るために振っただけ。当たれば儲けもんで考えているが、ラインもそれは理解していて、槍で防ぎにかかる
『へぇ…』
ラインは飛影の一撃の重さと威力を、飛影はラインの雷の強度と威力を理解した
思わず二人して同じ言葉を洩らす
槍に触れるだけで刀を伝い感電している
無炎が近くにあるだけで火傷しそうな熱気が襲っている
「っ!!?」
接近戦はラインの距離ではない
全力だが動くことのない硬直状態に力で押しきるのは不可能だと判断したラインは槍を回転させ飛影の態勢を崩して距離を離そうとする
しかし飛影はその回転に合わせて同じように刀を動かすことで、態勢は崩れることはなかった
「はは!!距離離そうとしてんだな!!?」
笑う飛影が望んでいる近距離戦はラインとしては望まない距離であった
魔法を構築する余裕が生まれない
細かい斬撃で決して離そうとはしないで距離を詰め続ける飛影
その右足が浮いたと同時にラインの左側頭部に向けて蹴りが炸裂する
「っ!!?」
感覚と反射だけでラインは左腕で防御するが、気付くと視界に飛影の姿は映っていない
右足はまだ左腕で防御していた
「!!」
嫌な予感が襲うと同時に勘だけを頼りに右腕で頭を防御する
飛影は右足を軸にラインの後頭部を狙って蹴りを放つが防がれる
「まじかよ!?」
防がれるとは思わなかった飛影の態勢は完全に浮いている
ラインにとっては大きなチャンス
即座に雷槍を解除
槍の形を作っていた雷が周囲に炸裂する
「く…」
全身に回る雷
ダメージ以上に身体が硬直していることが大きな隙となる
《ナルカミ・雷の奔流》
《炎舞・無炎防御》
ラインは距離を放し巨大な雷の帯を生み出す
飛影は無炎を身体に纏い雷によるダメージは無くしたが、身体はダメージとは逆に大きく吹き飛ばされる
「ふぅ…近距離でやり合うのは辛いけど…そこはもう私の距離だ」
飛影とラインの距離は1キロ
魔法主体で戦い、遠距離から中距離が得意なレンジのラインからすると充分すぎる
飛影の速度も認識して、接近戦は危険だと理解したラインに油断はない
《ナルカミ・雷針》
幾億もの雷の針はラインの背後に現れて射出される
一つ一つが雷の速度で1発1発は村程度なら一撃で破壊できる威力
飛影は瞬時に態勢を立て直し、無炎を纏ったまま魔剣を鞘に納める
隙間もない弾幕に避ける術など無い
《炎舞・崩玉》
飛影は雷の速度で放たれたそれらから距離を放しながら魔法を構築
無炎の小さな球を三発放ち弾幕に穴を空ける
しかし、すぐに他の針が隙間に入り元通りとなる
「っ」
そして舌打ちと同時に結界の範囲という逃げの限界が訪れる
「ふっ!!」
飛影は腰を深く落とし抜刀
熱を溜めていた無炎の炎の斬撃
弾幕に大きな切り傷が生じ穴ができる
《ナルカミ・天を穿つ破壊の光》
「やるね…」
その隙に飛影は穴から弾幕の檻を脱出するが、それを既に予測していたライン
巨大な雷が飛影に落ちる
「ぐぁあ!!」
威力は先程の雷槍が拡散したときや帯とは比べ物にならない
そしてラインは雷針を操作し飛影を囲む
高電流に晒され身体中が痙攣し、耐電を誇っていたコートも所々焦げ付き、飛影の身体からも煙があがる
「ちなみにその雷は二段仕様…二発目のが威力はでかいよ」
結界を埋め尽くすほどの巨大な雷が飛影に落ちた
「ぁっ!?」
意識を一瞬だけ失っていた飛影が気付いた時にはすでに遅かった
《炎舞・無炎防御》
咄嗟に無炎を身体に纏うが、急造の炎は一瞬で剥がされ
約10秒間、雷を浴びた飛影は膝から崩れる
「あ~つええな…」
所々の皮膚が焼け剥がれ手には力が入らない
「終わりかな?」
《炎舞・昇楊》
全身に無炎を纏い浮き上がる飛影ボロボロだが笑顔だった
「ふざけんな…まだやれる」
飛影のその反応にラインも笑う
「そうか…じゃあ本気を出すよ!!」
《幻想魔境》
ラインはもう一つの魔法を発動する
殺し合い最強と謡われているラインの本当の魔法が発動し光が一瞬で周囲を包んだ
飛影は反射的に防御しようと構えるが、ダメージはまるで無い
「なんだ?」
身体に異変も何も感じないが、ラインは笑う
「さぁ…手加減は苦手なんだ…頑張って生きてね」
瞬間、ラインが消えた
「はや!!?」
飛影の眼に止まらぬ速度でラインは接近し蹴りが直撃する
ギリギリで防ぐ飛影だが、あまりにも重すぎる一撃は無炎の防御すら通り抜け右腕の骨を粉々に破壊する
「くっそ…!!」
(速い!!…肉体強化か!!?)
飛影は吹き飛ばされるがその先にはラインがいた
ラインが腕を振ると同時に両足に鋭い痛みと骨が砕かれた音
「ぐぅ!!」
「これで終わり」
ラインの指から雷が放たれ飛影の腕を破壊する
「ち…くしょう」
痛みで魔法構築が解除され、落下していく
圧倒的すぎる実力差は飛影の少しは追い付けたと思っていた自信を打ち崩した
(まぁそうなるわな)
ダドマはそれを見ても大して驚きはしない
幻想魔境は五感を支配する魔法
幻覚を見せてその幻覚通りのダメージを与える
幻覚だと分かっていてもダメージを負ってしまう
殺し合い最強の魔法である
ダドマ自身が戦っても飛影と同じ結果になっただろう
「カガリは君が私に勝てば会うって言ってたけど…まだ無理そうだね」
一応は温厚に入るラインも、戦いでは手加減をする気はない
「…カ…ガリ?」
かすれゆく意識のもと、飛影はカガリの名を聞いた
そして飛影は折れた両足で着地する
衝撃で骨が皮膚を突き破っていても飛影には関係無い
「…君の身体の構造がどうなっているかが気になるよ」
両足を粉砕しても立っている飛影
「…今、なんて言ったんだ?」
飛影を立たせているのはただ一つの疑問
ラインの一言
俯いていて飛影の表情はラインからはわからない
「カガリは今、天国で食っちゃ寝してると思うけど、君が私に勝てば会うらしいよ」
「…本当だな」
飛影が面を上げる
死に体となっている飛影からは想像できないほど強い眼をしていた
「私は嘘はつかないよ…まぁ次からは最初から幻想魔境を使うからね」
飛影はもう戦えない
精神云々では戦うには不可能な損傷である
そしてラインも天界の長であり今回のように一日空けるのにどれだけ仕事が増えるかはわからない
だから飛影の挑戦は受けるが最初から全力で戦うつもりである
「…起動」
そんなことは関係無いと、飛影は魔法を発動する
《ヘリオトロープ》
「第2の魔法…!!?…その歳でそれは凄いね…」
飛影の年齢で二つの魔法を使用できるのは珍しいことである
だがそれだけだ。怪我を負っている飛影がどんな魔法を使っても驚異ではない
《ヘリオトロープ・癒しの風・治癒》
風が吹き荒れる
荒々しい風ではなく、優しい癒しの風は飛影の身体を癒していく
「なんだ…治癒魔法か…」
つまらなそうなライン
治癒魔法は面倒なだけである。それにどんな魔法か楽しみにしていたラインにとって面白くない
もう一度四肢の骨を砕こうと、ラインが構える
《ヘリオトロープ・マテリアルパズル》
だがそれよりも早くカチカチとパズルをはめていくような音
パキンと軽い音が響いてラインの世界が崩壊する
「三つ目!!?しかも魔法無力化…」
発動者であるラインの感覚は幻想魔境が無効化されていることを知覚した
「けど…」
魔法無力化の魔法は確かに驚異ではあるが、そこまでではない
魔法無力化の魔法の特徴として膨大な魔力消費が上げられる
最低でも打ち消す魔法と同じ消費量である。遠距離から攻撃を続ければ先にバテるのは飛影だ
「三つも魔法持ってることには驚いたけど…まだ甘い!」
《ナルカミ・雷球》
ラインの手から雷の球が三発射出され、巨大な雷の球は雷速で飛影に襲いかかる
「手早く行くぜぇ!!」
《ヘリオトロープ・方舟》
飛影の姿が消えた
「は!?」
単純な速度ではない
点と点の移動
気付いた時には飛影は背後に移動している
防御すら間に合わない一撃
飛影の全力の拳がラインの背中を叩きつける
「がっ!!」
(今のは…ダドマの!!?)
受け身も取れずに吹き飛ばされるライン
《ヘリオトロープ・次元破壊》
その先に次元の切れ目が現れる
そしてもう1つの切れ目は飛影の目の前に出現
次元の切れ目に全力で拳を放つ
拳は次元を移動しラインへの直撃コースである切れ目に出現する
「!!?」
避けることは不可能だと判断したラインは防御の構えをとる
《ヘリオトロープ・次元破壊》
《ヘリオトロープ・グラビティ》
《炎舞・無炎乱舞》
ラインに直撃する前に次元の切れ目が再度現れる
入口は飛影の拳の先、出口はラインの無防備な横腹
無炎と重力を纏った拳がラインの横腹に全力で叩きつけられる
「がぁぅ!!」
全身の骨が折れた感触と内臓が破裂した音が響いた
その衝撃に結界に勢いよく叩きつけられる
「どうだコラァぁぁ!!」
叫ぶ飛影
馬鹿みたいな魔力を消費するヘリオトロープによって、飛影も限界である
「いやぁ~ははは…うん、強いね…私の負けかな」
力が入らないラインは素直に降参する
「おぉ…まさか勝つとは思わなかったな…」
幻想魔境を使用したラインに勝利する
それが確かに戦いであり、ラインが得意な殺し合いではないにしろ
それは偉業である
「おっしゃぁぁ!」
大きくガッツポーズをする飛影
飛影が絶対強者級と戦ったのは数えるほどである
アギトには静紅と共闘でなんとか勝利
ダドマに敗北
ギルギアに敗北
カガリに敗北
世界を壊すモノにはカガリの犠牲で勝利
正真正銘一対一の勝負で勝利したのは初めてなのである
感動は大きい、そして飛影は興奮しすぎで忘れていた
他の者の魔法が使えるという明らかにチートすぎるヘリオトロープの副作用を
「あっ…やばい!!」
飛影が思い出した時にはすでに遅かった
ポンと音をたてて飛影の身体が変化した
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