第33話。世界一への切っ掛け


「す~す~」


心地よい寝息をたてながら寝ているセツネ


戦争の終結から一年

再びダル王として復活したセツネはベッドで腹を出して寝ていた

これが女王とは誰も思うまい


そんなセツネの部屋に気配無く侵入する者が一人

戦争を終わらせた張本人の魔王飛影である


ニヤニヤと笑っている飛影は気配を消しながら、セツネの頬を軽く叩き寝ていることを確認して、ニヤリと笑顔が強くなる


《炎舞・眠気覚ましの暗殺炎》


飛影の手に赤い炎が生まれる

それは直径一メートル程の巨大な炎で、そのままセツネに叩きつける

寸前にセツネは目を冷ます


「ぎゃあぁぁぁぁあ!!?」


怪しい気配に目を冷ましたら目の前に炎の塊が迫ってきていたのだ

叫びたくなるのも頷ける


セツネの身体はほぼ反射的に動いていた

素早い動きで横に転がり、なんとかギリギリで回避に成功した


「おぉ!!…避けれるとは思わなかった」


手加減した炎はベッドに直撃するも燃やすこと無く霧散する


「殺す気かぁ!!?」

「遊ぶ気だぁ!!」

「あそ…?」


殺される一歩手前だが飛影にとっては遊びらしい

実際に避けなかった場合は、痛い程度の怪我をさせる予定だったため、一応命に別状は無い


「まぁ…飯でも食えよ」


飛影はニヤニヤと笑いながら手に持っていた握り飯をセツネに渡す


「ん?…まぁ腹が減ったからもらうとしよう」


セツネはなんの疑いもなく飛影から握り飯を受け取り、口に含む


「ブファェォ!!?」


そして吹き出すセツネ


「あはははは!!」


手を叩いて大爆笑する飛影


「毒ぅう!!?」


セツネが口に含んだ握り飯は毒入りの握り飯であった

しかも少量摂取するだけで死に至るレベルの毒


「お前が食えぇ!!」


セツネは大爆笑している飛影の口に握り飯を叩き込む

しかし飛影は何ともないように飲み込む


「吐き出せぇぇ!!」


飛影がまさか飲み込むとは思っていなかったセツネは首を締めながら揺らす


「ふっはっは…俺に毒なんて効くか!!」


災厄として生まれた飛影に毒は効かない

セツネが気付かずに飲みこんだ場合は、魔法で毒だけ燃やすつもりだったため命に別状はない


「お前…ほんとになんでもありだな…」

「まぁ遊びに行こうぜ!!」


気を取り直して飛影は窓に足をかける

最近の二人は城下町に脱け出して遊ぶことがブームであった


飛影は先に飛び降りる

腹が減っていたが、城下町で食べればいいかという考えでセツネもそれに続いて飛び降りた

そして飛影の横に着地した瞬間に地面が陥没し、隠されていた落とし穴に落下した


「ぎゃあぁぁ!!」


落下中に下を見ると竹串が待ち構えていた

しかも鋭利に削られており、魔力で強化されている


《威雷・雷装》


雷に身を包み上昇するセツネ


「殺す気かぁ!!っていうかいつこんな落とし穴を作成した!!?」

「深夜にせっせと作った!!」


魔王が作った落とし穴

セツネが地面から穴を確認すると底は見えなかった


「お前ただの馬鹿だろ!!?」

「そんなことはない!!」


キッパリと否定する飛影


「というよりも穴を埋めろ!!他のやつが落ちたらどうするつもりだ!!?」


仕留めるかのように竹串まで配備されていたのだ

普通なら落下しただけで死ねる

一応、間に合わなかった場合は竹串を込めた魔力で燃やす予定だったため、命に別状はない


「しょうがないな…」


やれやれと飛影はポケットから袋を取り出す

結びをほどき、ひっくり返すと、土が袋から勢いよく出てきて一分後には穴が埋まっていた


「マジックアイテムか」

「これけっこう便利」


穴も塞ぎ終わりようやく城下町に向かう飛影とセツネ


そしてセツネ五歩歩いた瞬間

再び落とし穴が口を開いた


「またかいぃぃぃ!!」

「あはははは!!」


落とし穴から脱出し、ようやく罠が無くなって歩き出す


「いやいや…あれだよ、王としていつ暗殺されそうになるかわからないからな…そのための特訓だよ」


城下町をぶらりと目的もなく歩いている飛影とセツネ

セツネが文句を言う前に飛影の言い訳が始まった


「嘘つけ!!完全に遊んでただろ!!」

「…いやいやそんなことはない」

「その間はなんだその間は!!?」


毎日のように変わらない、笑い合い

いつも通りに飯を食べようとした飛影とセツネ

あまり表舞台に立とうとしないため、魔王と女王が歩いていても国民は気付いていない

その時、セツネがある看板を発見する


「世界一のハンバーグ?」


デカデカと世界一を強調している看板

オープンしたてオープンセールもしているせいか店には30人ほどの行列ができていた


「飯はここにするか」

「おっけい」


セツネの提案に飛影は頷く

女王と魔王ではあるが、きちんと最後尾に並ぶ二人


巡回している兵士がたまにセツネの方を見るが、まさか王が城下町にいるとは思ってもいない国民は他人の空似だろうと思われていた


「ん~しかし、世界が平和になって良かったが仕事が怠いな」


怠け者のセツネは仕事はできるのだが、やる気が起こらない

仕事自体が戦争の影響も無くなり量が減ったこともプラスされている


「…まぁ頑張れや」


飛影はセツネが仕事中は記入が終わった書類の束を見ている

その影響で国王としてのノウハウを吸収し、今ではセツネが書き終わった書類の添削係になっていた


飛影は普通の人間は完全に無視しているため、城の者からの心象は悪すぎるが飛影がセツネの側にいると、セツネのやる気が上がるため仕事の効率がはねあがる

脱け出して遊んでも黙認されているのは、仕事はきちんとこなすからである


60分後

ようやく店に入ることができた飛影とセツネ


「さて…くそ長い時間待たされた世界一のハンバーグとやらをいただこうか」


ダル王なセツネとしては行列に並んでいた時間は苦痛である

そのせいか口が悪くなっており、ストレスが溜まっている

表情だけで私不機嫌ですと察することが可能であった。飛影は不老であるため特に行列とかは苦ではない


「そうだな…いただくか」


二人してオススメを頼み20分後


「遅い!!私は腹が減っているんだぞ!!」

「…」

「くっそ…権力でも使うか…」


空腹で待たされているセツネのストレスが上昇していた

尋常ではない聴力を持つ飛影の耳にはセツネのお腹の音が常時鳴り続けているのに気づいていた


「まぁ落ち着けよ」


そのセツネの様子は飛影が宥めるほどである

10分後にようやくハンバーグが運ばれた


「いただきます!!」


来るなり即行で口に含むセツネにマナーなどは無かった

ナイフで切らずにフォークでハンバーグをぶっ刺してかぶりつく


「…」


黙ったまま震えるセツネ

その様子を見ながら飛影は行儀よく一口分に切って口に含む


「うまい!!」

「おぉ…いけるなこれ!」


あまりの美味しさに満面の笑みを浮かべるセツネ

飛影も口がにやけていた

あっという間に完食した二人


『おかわり!!』


の一言が出たのは必然と言えるだろう


その帰り

旨いものを食べて幸せ気分の二人


「セツネ…面白いことを考えたぞ!!」

「おっ!!?どんなことだ?」


飛影の面白いことを考えた

その言葉は嘘偽り無く面白い

セツネは期待しながら先を促す


「この国を世界一にするぞ!!」

「は?」


飛影の言葉はセツネの予想の斜め上をいっていた


「なんの世界一だ?飯か!?」


先ほどのハンバーグは確かに今までで一番美味しいハンバーグで世界一の名にふさわしい

そういうのが増えれば、抜け出した時に食べる飯も最高になる


「違う違う!!全部だ!!全ての分野で世界一にする。国土も人口も飯も金も学も全てだ!!ここに来ればなんでも世界一。そんな国にしよう!!」

「あはは!!いいなそれ面白いぞ!!」


飛影の提案にセツネは笑いながら頷き、思い立ったが吉日とばかりにそしてその日から行動を開始した二人


飛影とセツネが本気を出して取り組んだことにより10年でメリアは世界一になった

他国の観察という名のサボリ中にセツネはある平民の男性に一目惚れをして子を授かるのはその間の話である


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